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ディズニーの問題作「ムーラン」、オンライン公開は成功だったのか?

2020年12月01日 06時00分更新

文● 長谷川朋子(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:Rich Fury/gettyimages

コロナ禍で、映画の劇場公開の延期や中止が相次いだ今年はオンラインでの公開に踏み切った作品が目立った。製作費2億ドルともいわれるディズニー実写映画の『ムーラン』もそのひとつ。ディズニーが本腰を入れる公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信されると、世界の6割以上の国で話題を集中させた。果たして、この結果は新しいビジネスモデルを検討する動きに変えていくのか。本国では組織再編の動きが見られるなか、エンタメ界の王者がシフトチェンジを図ろうとするその狙いを推察した。(テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子)

政治論争にもなった『ムーラン』は
世界のトレンドチャートのトップ

 『ムーラン』は1998年に世界興収3億ドルを超えるヒットアニメ映画の実写リメーク版として、今年9月4日にディズニー公式動画配信サービス『Disney+(ディズニープラス)』で独占配信された作品である。

 それが「Top Trending Movies Worldwide」(2020年10月)によると、世界で最も話題になった映画作品であることがわかった。

 VPN(仮想プライベートネットワーク)プロバイダーの米アトラスVPNが、IMDb(インターネット・ムービー・データベース)とGoogle Trendsのデータを照らし合わせ、世界的にどの映画がトレンドになっているのかを調査分析した結果により、映画『ムーラン』がヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニア、アフリカの87カ国のうち53カ国でトレンドチャートのトップに立った。つまり、世界の61%の国で『ムーラン』が最も話題をさらった映画作品になったというわけだ(参照:アトラスVPNのリリース )。

 トレンドトップに至った要因は製作費2億ドル(日本円で210億円)が投じられた超大作の作品論以上に、政治論争に発展させてしまった理由で注目を集めたことが大きい。

中国よりも米国で大ヒット?

 主演女優リウ・イーフェイの香港警察擁護発言を発端にボイコット運動がアジアで広がったり、作品のエンドクレジットに中国の新疆ウイグル自治区政府に謝意を表したことで米・共和党の議員が配信および公開停止キャンペーンを行ったり、次々と議論が巻き起こった。それゆえ問題作と扱われることも少なくはない。

 映画のストーリーは、618年から300年近く栄えた唐の時代を舞台に、中国の女性英雄伝説をもとに描いていて、本来ならば中国で大いにアピールできる作品であった。しかし、Disney+での配信から数日遅れて中国で劇場公開されると、公開3日間のオープニング興収は2300万ドルの実績にとどまった。中国人も共感するような女性のエンパワーメントと自己実現のストーリーに集中させた作品でも、論争の渦に巻き込まれた作品が全肯定されることは難しかったようだ。

 一方、本国米国ではDisney+での公開開始から4日間(9月4~7日)で110万以上の世帯が30ドルの追加料金を支払って『ムーラン』を鑑賞したことがわかった。これは3350万ドルの興行収入に相当する。中国のオープニング劇場興収と単純に比較しただけでも、上回る結果だ。

 この『ムーラン』の視聴状況について、米ウォルト・ディズニーCFOのクリスティン・マッカーシーは配信直後に行われた9月9日の投資家会合で、「とても満足している」と言及したことが報じられている。配信以前は、ディズニーCEOのボブ・チャペックがアナリストに対し、今回の配信ファーストの展開について「1回限りのイベント」と断りを入れ、「新しいビジネス・ウィンドウ・モデルを検討しているわけでは全くない」と答えていたのだが、配信後のマッカーシーの「満足」という言葉には視聴者ニーズを見直すタイミングを確信していることも含まれているように思えてならない。

 長引くコロナ禍の影響を受けて、世界各地で劇場閉鎖が続き、消費者がエンターテインメントを楽しむ傾向が高まっている事実があるからだ。

クリスマスの配信作品はピクサーアニメ、欧州が猛反対の理由

 もともと『ムーラン』は映画館で公開される計画で進められ、新型コロナウイルスの影響により、本国米国での公開日が延期された後、Disney+で世界配信することになった。劇場公開からDisney+での配信に切り替わったディズニー作品は『ムーラン』のほかにファンタジー・アドベンチャー実写映画『アルテミスと妖精の身代金』もある。そして3つ目のDisney+独占配信作品が目玉としてクリスマス時期に控えている。ヒットを狙うピクサー・アニメーション『ソウルフル・ワールド』だ。

 この『ソウルフル・ワールド』の映画館公開の見送りの発表を受けて、欧州の映画館経営者を代表する国際映画館連合(UNIC)は反論の声明を出している。

 UNICはディズニーが映画業界に「取り返しのつかないダメージ」を与えるという趣旨の内容で、「『ソウルフル・ワールド』をDisney+に直接公開するというディズニーの決定は、ヨーロッパ中の多くの観客から大画面で見ることを奪い、すべての映画館経営者にショックを与え、落胆させた」と遺憾の意を唱えた。

 劇場と映画スタジオは共に発展してきた歴史があり、映画ファンによって文化を形成してきた事情背景をくみ取ると、否定の声が上がるのも当然のことだ。だが、ほとんどのハリウッドのスタジオがコロナ禍によって、劇場ファーストを崩した戦略を試したようにディズニーもスタジオを運営する立場から方向転換に迫られている立場にある。また「ニューノーマル」という言葉が浸透し、消費者行動そのものにも変化が起こっている。

 そのなかで、作品をより多くの人々に届ける手段を選ぶ上で、急速に普及する動画配信サービスで公開する方法を探り続けることは長期的に見ると、業界全体の発展に必要なことと言わざるを得ない。肯定派と否定派がしばらく混在することになり、それに消費者が翻弄されることが予測されるが、消費者にも選択肢がある。

テーマパークや映画部門の収益急落を補う配信部門の組織強化

 ディズニーの発表によれば、Disney+やHuluなどディズニーグループの動画配信サービスの加入者数は現在、全世界で1億人以上に上る。2019年11月から米国でスタートしたばかりであるのにもかかわらず、世界ですでにNetflixに次ぐポジションを押さえるまでに急成長しているのだ。

 ディズニー作品はキッズ層のリピート視聴が多く見られることに特徴があり、それが強みとなって、ファミリー層から多くの支持を受けている。つまり、コロナ禍で大きな打撃を受けたテーマパークや映画部門の収益の急落を補うのは配信部門にあることは明白だ。

 NBCユニバーサルやワーナーメディアなど大手ハリウッド勢が配信強化にシフトチェンジする動きに続いて、本国ディズニーも大幅な組織変更を発表した。具体的にはすべてのコンテンツを一つのグローバルなメディア・エンターテインメント・ディストリビューション・グループに統合されることがポイントになる。新部署ではDisney+などの動画配信サービスの管理を米国だけでなく、全世界カバーすることになる。

 マーケティングから番組開発・制作チームまで連携し、Disney+でコンテンツをグローバル配信することによって最大限に収益を上げていくというわけだ。前職ではコンシューマープロダクツ、ゲーム、パブリッシングの社長を務めていたカリーン・ダニエルがその責任者となり、加えて、2018年からテレビ制作を統括してきたピーター・ライスが配信向けの総合エンターテインメントコンテンツに注力するなど、経営陣の体制も整えられる。

 ディズニーの配信強化へのシフトチェンジはこうした動きから本気度がうかがえる。思わぬかたちで話題をさらったディズニー映画『ムーラン』は想定外の動きだったかもしれないが、不確定要素が強まったコロナ禍と相まって、一縷の望みに賭けることにいとわない覚悟の表れともいえる。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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