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「職場におけるAI」11カ国調査、AI活用が最下位の日本でもAIツールへの投資意欲は高まる

コロナ禍によるストレス増、頼りたいのは「上司よりもAI」―オラクル調査

2020年11月06日 07時30分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 日本の労働生産性の低さが指摘されて久しいが、さらに差をつけられてしまうのか――。日本オラクルが2020年11月4日に発表した「職場におけるAI」調査の結果によると、コロナ禍を背景としたリモートワークへの移行を通じて、世界の多くの国で生産性が向上しているのに対し、日本では生産性が低下しているという。またこの調査からは、全世界的な傾向として、メンタルヘルスにかかる問題で支援を求めたいのは「上司よりもAI」であることも明らかになっている。

詳細レポート「AI@Workスタディ2020 ―先が読めない不安とストレスを乗り越える転換期」はWebサイトで公開されている

メンタルヘルスのサポートを「人よりAIやロボットに求めたい」人が8割超

 この調査は、米Oracleが人事リサーチ・コンサルティング会社のWorkplace Intelligenceと共同で、世界11カ国(米国、英国、UAE、フランス、イタリア、ドイツ、インド、日本、中国、ブラジル、韓国)で実施しているもの。3回目となる今回は2020年7月~9月に調査が実施され、合計1万2000名の一般従業員/幹部/経営層が回答している。同日の記者説明会では、グローバルと日本(回答者1000名)の調査結果の比較も行われた。

 2020年は、コロナ禍によって多くの人がストレスや不安、疲れを感じた年だった。同調査の結果を見ても、グローバル平均で70%の人が「2020年はこれまでのどの年よりも職場でストレスと不安を感じた」、また85%が「職場でのメンタルヘルス問題(ストレス、不安、極度の疲労)が家庭生活に影響している」と回答している。

 その結果、「自分の会社が今以上に従業員のメンタルヘルスを守る必要がある」と考える回答者は76%に達している。それに対応するかたちで、51%の企業が「新型コロナウイルスの結果としてメンタルヘルスのサービスまたはサポートを追加した」と回答している。

 興味深いのは、こうしたメンタルヘルスの問題について「サポートを人よりもAIに求めたい」と回答した人が82%にも達していることだ。同様に「ロボットやAIをセラピストまたはカウンセラーとして利用することを受け入れる」人は80%、「仕事上のストレスを上司よりもロボットやAIに話したい」人が68%だったという。

 なぜ「人よりもAI」なのか? ――最も多く挙がった理由は「ジャッジメント・フリー・ゾーン(批判や一方的評価のない環境)を与えてくれる」で34%。そのほかに「問題を共有するうえで先入観のない感情のはけ口を提供してくれる」(30%)や、「医療に関する質問に迅速に回答してくれる」(29%)も理由に挙がっている。

 そして実際に、メンタルヘルスの改善にAIが役立ったという回答も出ている。75%が「仕事でのメンタルヘルスの改善にAIが役立った」と回答しており、具体的なメリットとしては「仕事の効率化に必要な情報の提供」(31%)、「作業の自動化と仕事量の削減による極度の疲労の防止」(27%)、「仕事の優先順位付けによるストレスの軽減」(27%)が上位だった。

 そのほかにも、AIの活用によって過半数の従業員が「週間労働時間の短縮」(51%)や「より長い休暇の取得」(51%)の恩恵を受けていること、さらに「従業員の生産性」(63%)だけでなく「仕事の満足度」(54%)、「全体的な幸福」(52%)も向上させると感じていることも、同調査から明らかになっている。

日本でもコロナ禍で職場のストレスや不安は増大

 日本の結果に絞って見ても、おおむねグローバル全体と似た傾向があるようだ。記者説明会で調査結果を解説した慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏は、まず「コロナ禍はメンタルヘルスに悪影響を与えている」と指摘した。2020年、職場で「これまでにないストレスや不安」を感じた人はグローバル全体で70%だったが、日本でも61%がそう答えている。

 具体的な内容としては「通常よりも強くストレスを感じた」(37%)、「ワークライフバランスの喪失」(30%)、「社交がないことによる気力減退」(20%)、「極度の疲労」(16%)などだ。なお「COVID-19はメンタルヘルスに悪影響を与えなかった」という回答も30%あった。

2020年に職場で感じたストレスと不安の内容(日本における調査結果)

 そもそも日本の従業員は「業績基準の達成にかかるプレッシャー」(48%)を筆頭として、「不公平な報酬」(39%)、「チーム連携の欠如」(39%)、「職場での偏見」(38%)、「退屈なルーティン作業の処理」(38%)、「管理不能な仕事量のやりくり」(35%)などの点で、日常的にストレスや不安を感じている。そこに、前述したコロナ禍特有のストレスと不安が積み上がったことになる。

日本の従業員がストレスや不安を感じる要因。最も強いのが「業績達成のプレッシャー」だ

 そして、こうしたストレスの軽減を「人(上司)よりもロボットやAIに求めたい」という傾向は、日本でも同じだと岩本氏は述べる。「メンタルヘルスのサポートをロボット/AIよりもカウンセラー/人に頼りたいという回答はわずか13%だった。つまり87%が、人よりもロボットやAIに頼りたいと考えている」(岩本氏)。

 AIに頼りたいと考える理由も、グローバルと同じ傾向にある。批判や一方的決めつけのない環境=「ジャッジメント・フリー・ゾーンを与えてくれる」という理由が最多で、ただしグローバル平均(34%)よりも多い42%がそう回答している。

メンタルヘルスのサポートをロボットやAIに頼りたい理由(日本の調査結果)

コロナ禍による生産性と労働時間の変化、日本はグローバルと逆傾向に

 リモートワークと生産性については、調査対象11カ国のうち8カ国で「生産性が上がった」と回答した人のほうが多かった(グローバル平均では41%が「上がった」と回答)。ただし、日本は「生産性が上がった」が15%と調査国中で最少で、「生産性が下がった」が半数近く(46%)を占めた。なお、日本と同じように「生産性が下がった」人のほうが多かったのは、韓国とドイツだった。

日本ではコロナ禍を通じて「生産性が下がった」という回答が非常に多い

 労働時間の変化については、11カ国中9カ国で「労働時間が増えた」という回答のほうが多かった(グローバル平均では52%が「増えた」と回答)。ただし、ここでも日本は逆の傾向を示しており、「労働時間が増えた」という回答は21%と最少で、「減った」34%がそれを上回っている。同じ傾向を示したのは韓国だった。

労働時間の変化を見ても、日本は「減った」が多い傾向にある

 この結果について岩本氏は「(在宅勤務によって)通勤時間がなくなるので、ふつうに考えると労働時間は増えると思うが、日本では減っている。リモートで何をすればいいのかわからないのか、仕事をしているつもりになっているのか……」とコメント。業務のアウトプットは生産性と労働時間の掛け合わせで求められるため、「世界の多くの国でアウトプットが上がったのに対し、日本はそれが下がっている」と指摘した。

 なお、職場におけるAIの活用についても、日本は11カ国中で最下位だった。「AIを活用している」という日本の回答は26%にとどまり、11カ国平均の50%と比べて半分という状態だ。岩本氏によると、日本では特に人事や総務といった間接部門でのAI活用が遅れている。

 ただし、コロナ禍を経験して「AIツールへの投資を加速する」という回答は44%に上り、中でも経営者層では63%に達しているという。

日本では「職場でのAI活用」度合いが低い。ただし、AIツールへの投資意欲は高まっており、今後は状況が変わっていく可能性がある

 調査結果のまとめとして岩本氏は、「これまでの生産性向上に対する課題の克服と同時に、従業員のメンタルヘルスに対するケアの強化が必要」「リモートワークで生産性が全体的に下がっている一方で、職場でのAIロボットなどの活用に対して従業員はあまり抵抗を感じていない。投資を加速すべきという意識も高まっている」と述べた。

 「コロナ禍をポジティブに捉えて、日本企業の職場でのDXを加速するきっかけとなると期待したい」(岩本氏)

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