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佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第44回

知っているようで知らないヘッドホンのバランス駆動とその黎明期

2020年11月02日 15時30分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

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 ポータブルオーディオのハイエンドの分野では、よくヘッドホンやイヤホンの「バランス駆動」という言葉が語られる。

 一般的にバランス接続というのはスタジオなどで長くケーブルを引き回す際に有利な方法だ。正相と逆相をペアで伝送することで、外来ノイズに強く、歪みを打ち消しあう効果が得られ、伝送効率を上げられる。正相と逆相が同じ大きさでつり合うのでバランスという。

 一方、ヘッドホン接続などで、普通に使われている方法はL/Rのチャンネル(それぞれプラスとマイナスがある)の片側がグランドを共有している。そこはゼロであることからシングルエンドと言う(片持ち方式のような意味)。アンバランスとも言われる。

バランス接続とバランス駆動の違いは?

 しかし、いまヘッドホンやイヤホンの「バランス駆動」とは、長さによる伝送ロスよりも、出力の高さに着目し、ドライバーを効率良く駆動するものなので、上記のバランス伝送とはいささか意味合いが異なる。また、バランス駆動のためのケーブルや端子になぜ統一性がないのか、不思議に思う点もあるだろう。

 これは歴史的な経緯が関係している。これまでヘッドホンやイヤホンのバランス駆動に関して、あまり歴史的な経緯に触れられることはなかったように思う。この方式をよりよく理解するために、歴史的な経緯を中心に書いていきたい。

 そもそも「バランス駆動」という言葉は2006年頃に海外フォーラムであるHeadFiで流行り始めた"Balanced Headphone Drive"という方式を、私が日本のブログで紹介した際の和訳なのだ。Balanced Headphone Driveはバランス駆動の元祖であるHeadroom社が唱えた言葉だ。

Protector

 バランス駆動のために必要なものは、バランス接続専用のヘッドホンアンプと専用のケーブルだ。先行していたヘッドホンのバランス駆動では、Headroomが提唱したXLR3極x2本という方式がデファクトスタンダードになっていた。しかし、イヤホンが主流になってからは、2010年頃に当時人気のあったレイ・サミュエルズ・オーディオ(RSA)の「Protector」をはじめとして各社が、われ先にとミニXLR、3.5mmTRRS、3.5mm2本など、バラバラに自社の規格を打ち出したのだ。結果、カオスのような状況になり、2.5mm4極端子や4.4mm5極端子なども登場し、いまの状況に至っている。

 Headroomが、なぜXLRx2という方式をとったかというと、初期のバランス駆動アンプである「BlockHead」(2002年頃)というアンプは、HeadroomのMAXというヘッドホンアンプを物理的に2台組み合わせていたからだ。

BlockHead

 ひとつの単体アンプは、通常L/Rの2つのチャンネルへ出力をするが、BlockHeadでは2つあるチャンネルを使いRとLの出力を片側ずつ駆動している。つまり、オーディオアンプでいうところのブリッジ接続(BTL)と同じなのだ。このためにアンプをふた組接続した出力は2倍ではなく4倍になり、そのために駆動力が大きく向上する。つまり、バランス駆動の眼目は長距離を引き回すことではなく、ブリッジ接続したときの駆動力やセパレーションといった利点が適用されることにある。

 ただしデメリットもある。これもBTL接続と同様だが、電源に厳しいことだ。そのため初期のバランス駆動アンプは、従来アンプ設計を流用する反面、電源筐体は別に設けていた。ただし現在では、はじめからバランスアンプとして回路も電源も込みで設計しているのでこの限りではない。

GS-X(2005年頃)

 こうした歴史を少し頭に入れておくと、なぜヘッドホンのバランスケーブルは二股になっているのか、なぜイヤホンのバランス端子は統一されていないのかという点もスムーズに理解出来るだろう。

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