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川崎フロンターレがJ1優勝まっしぐら! コロナ禍をプラスに転じた作戦

2020年10月31日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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Masashi Hara/gettyimages

J1の川崎フロンターレが異次元の強さを発揮しながら、新型コロナウイルス禍に見舞われたJ1戦線を独走で駆け抜けようとしている。すでに同一シーズンのJ1記録を更新する11連勝を継続中で、史上最速優勝や年間最多勝ち点や同勝利数など、あらゆる記録を塗り替えて、来月中旬に優勝という美酒に酔う可能性が極めて高い。長期中断と過密日程を余儀なくされたシーズンで、Jリーグ史上でナンバーワンの呼び声すら出てきた最強軍団が生み出された背景を探った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

異次元の強さを維持する川崎フロンターレ

 異次元に映る強さを発揮しながら、J1戦線の首位を独走している川崎フロンターレの先発メンバーを当てるのは難しい。GKと4人で組むDFラインの顔ぶれがほとんど変わらない一方で、ともに3人ずつが配置されるMFとFWの組み合わせが極めて多岐にわたっているからだ。

 24試合を終えた段階で、MFとFWの組み合わせは実に18通りを数えている。その中で清水エスパルスをホームの等々力陸上競技場に迎えた、8月29日の明治安田生命J1リーグ第13節以降で、フロンターレを率いる鬼木達監督はすべての試合で初めてとなる組み合わせを選択している。

 そして、大量5ゴールを奪って快勝したエスパルス戦を皮切りに、直近となる今月18日の名古屋グランパス戦までの11試合すべてで勝利。同じシーズンにおける連勝のJ1記録を更新した。従来の記録である10連勝を達成したチームも、実は今シーズン前半戦のフロンターレだった。

「こういう記録に挑戦できるのも、自分たちがここまで勝ってきたからだと思っています。ただ、同じシーズンで10連勝以上を2度達成するチームは、そうそう出てこないんじゃないかな、と」

 3-0で快勝したグランパス戦で直接FKから2点目を、左コーナーキックから3点目をアシストしたMF中村憲剛が、今シーズンのフロンターレを誇らしげに位置づけた。J2を戦っていた2003シーズンに中央大学から加入し、18年目を迎えている大黒柱はこんな言葉もつけ加えている。

「自分を含めたすべての選手が、試合に出たときには勝ちたい、という高いモチベーションを持っている。うまくプレーできなければ、次の試合ではベンチ入りメンバーから外れることもある。それほどいい選手がそろっている。チームメートですけどお互いに争う、というところでは、僕がこれまで所属してきたシーズンの中でおそらく一番レベルが高いんじゃないかと思っています」(中村)

再開直後は疲労困憊していたチームが起死回生した理由

 新型コロナウイルスによる長期中断から再開された、7月4日の第2節から最初の10連勝がマークされた。もっとも、この間のMFとFWの組み合わせは6通りだった。敵地・豊田スタジアムに乗り込んだ8月23日のグランパス戦で初黒星を喫して連勝を止められ、そのまま敵地へ移動した同26日のヴィッセル神戸戦でも一時は逆転されながら、何とか引き分けに持ち込んだ。

 昨年11月に左ひざに大けがを負ってから復帰に向けた秒読み段階に入り、当時はチームに帯同していなかった中村は、遠征から帰ってきたチームメートたちの姿に驚いている。

「正直、あのときはみんな疲労困憊なところがありました」

 再開後の過密日程に高温多湿の夏場の戦いが拍車をかけていた悪循環を、鬼木監督も把握していたのだろう。ヴィッセル戦から再び中2日で迎えるエスパルス戦以降、すべての試合で先発する攻撃陣の顔ぶれを変えた。待望の復帰を果たした中村も、現時点で4試合の出場にとどまっている。

 昨シーズンはリーグで2番目に多い12を数えた引き分けが響き、4位に終わって史上2チーム目となるリーグ戦の3連覇を逃した。そこで、迎えた今シーズンはFWを1トップから3トップに、中盤もボランチを2枚置く正三角形型から、底辺にアンカーと呼ばれる選手を1人置く逆三角形型に変えた。

 相手ゴールに近い位置に多くの選手を配置することで攻撃の回数を増やし、さらに相手ボールになった直後に素早く数的優位を作って奪い返す。引き分けを勝利に変える戦法だが、これはコロナ禍に見舞われる前の2月22日に行われ、サガン鳥栖と0-0で引き分けた開幕戦ではまだ浸透していなかった。

 その後に余儀なくされた長期中断を、プラスに転じさせたことが再開後の連勝につながった。昨シーズンの泣き所だった右サイドバックとして湘南ベルマーレから加入した山根視来、そして筑波大学卒の三笘薫、順天堂大学卒の旗手怜央のルーキーFWコンビも順応する好循環も中断期間に生まれた。

 さらに新型コロナウイルス対策として再開後に導入された特別ルールを、鬼木監督はフル活用している。従来の「3」から「5」に増えた交代枠が、第2節以降のすべての試合で余すことなく行使されてきた中で、必然的に層が厚くなった選手たちの間で競争心があおられる状況が生まれた。

 例えば中断期間に成長した三笘と旗手がそろって先発したリーグ戦は、今月10日のベガルタ仙台戦の一度しかない。どちらかが先発すれば、増えた交代枠の中で途中出場の機会を得たどちらかが燃える。結果として三笘はJリーグ史上で5人目となる2桁ゴールに到達したルーキーとなり、先発回数で11回と三笘の5回を大きく上回っている旗手も5ゴールを挙げている。

「競わせている、という感覚は特にないんですけど。ただ、切磋琢磨を意識させなくても彼らの向上心は目に見えてすごいものがあるので、自分とは関係のないところで成長してくれていますよね」(鬼木監督)

 チームを活性化させている2人の存在に、鬼木監督も思わず目を細めたことがあった。24試合を終えた時点でたたき出したリーグ最多の68得点のうち、途中出場した選手が21ゴールを挙げているのも、チーム内に競い合うライバルがいるからに他ならない。指揮官はこんな言葉も紡いでいる。

「交代した選手が点を取るのはウチのスタイルというか、点を取るという役割を理解した上でピッチに入ってくれているので。もちろん先発した選手が前半からハードワークした結果として、相手チームに疲れが出てきていることもあるので、全員の力で勝てていると思っています」(鬼木監督)

最速・最多…前人未到の記録更新の可能性

 変則日程の関係で川崎フロンターレの試合がなかった先週末に、追いすがってきたセレッソ大阪とFC東京がそろって負けた。後者は3試合だけが行われた28日も敗れた。代わりに2位に浮上したガンバ大阪との勝ち点差は17ポイント。残り10試合をガンバが全勝しても勝ち点は78止まりで、現時点で65の川崎フロンターレが5勝すれば届かない計算となる。

 川崎フロンターレがこのまま連勝記録を伸ばせば、16連勝がかかる11月21日の大分トリニータ戦で2シーズンぶり3度目の優勝が決まる。5試合を残しての優勝決定は、3試合を残して美酒に酔った2010シーズンの名古屋グランパスを上回りJ1史上で最速となる。もちろん早まる可能性もある。

 塗り替えられそうな歴代の最多記録はまだまだある。J1が18チーム体制になった2005シーズン以降における年間最多勝ち点は、2015シーズンのサンフレッチェ広島、2016シーズンの浦和レッズの74なので、川崎フロンターレがあと4つ白星を積み重ねれば更新する計算になる。

 年間最多勝利数は2010シーズンのグランパス、2011シーズンの柏レイソル、2015シーズンのサンフレッチェ広島、2016シーズンのレッズ、2017シーズンの鹿島アントラーズがそれぞれマークした23なので、すでに21勝を挙げているフロンターレが追いつき、追い抜くのは時間の問題と言っていい。

 年間最多得点は2006シーズンに川崎フロンターレが挙げた84ゴールとなっている。現状で68ゴールをたたき出している川崎フロンターレには更新どころか前人未到の3桁到達の期待もかかり、一方で2008シーズンの大分トリニータがマークした年間最少失点24の更新も視野に入っている。

 現状で19失点だが、攻撃は最大の防御とばかりに、直近の5試合では3試合連続完封を含めて1失点と安定している。現時点で「プラス49」を数える得失点差がさらに広がる可能性もあり、その場合は2015シーズンのサンフレッチェがマークした過去最大の「プラス43」を上回る。

 さらに個人記録で言えば11ゴールを挙げている三笘は、2009シーズンのFW渡邉千真(横浜F・マリノス)、2014シーズンのFW武藤嘉紀(FC東京)がマークした、ルーキー最多得点となる13の更新も視野に入れる。三笘も「僕自身も期待している」と残り10試合に意欲を見せている。

チームメートはライバル、出場機会に飢えたメンバーの向上心

 もはや優勝は当然で、どれだけの記録を伴うのか、という点に興味や関心が移りつつある。ただ、Jリーグの歴史上で最強チームと呼ばれても不思議ではない快進撃も、なかなか出場機会を得られない選手たちが、ちょっとでも不平不満を抱いてしまえば成し遂げられなかったはずだ。

 真夏の太陽が容赦なく照りつけていた8月19日。セレッソ大阪との首位攻防戦を数時間後に控えた午前中に、エースストライカーの小林悠は川崎市麻生区にあるフロンターレの練習グラウンドを散歩で訪れた。図らずも見かけた光景に心を震わせ、必勝を誓った思いが5-2の快勝を導いた。

「試合に絡めない選手たちがあれだけ頑張っているのを見て、試合に出る選手たちがやらないわけにはいかない、と思いました。それほどチーム全員が、誰一人として現状に満足していないので」(小林)

 練習グラウンドでは日本代表経験のあるFW齋藤学やMF山村和也らが、大粒の汗を流しながらランニングしていた。復調を果たした齋藤は11連勝の間、7度の先発を果たし、山村は5-1で圧勝した9月13日のサンフレッチェ戦で豪快なロングシュートをゴールに突き刺している。小林はこう語ってもいた。

「オニさん(鬼木監督)がうまく選手を代えながら、コントロールしてくれている。主力を固定して戦うチームが多い中で、ウチの前線の選手は90分間出る選手がほとんどいない。なので、次の試合に疲れを残すことなく、しっかりと回復して臨めていることが大きい」(小林)

 ここまでの24試合、計2160分間にフル出場しているのはGKチョン・ソンリョンの1人だけ。MFおよびFWでは東京五輪世代のMF田中碧の21試合、1509分間(69.9%)が最多で、チーム最多の12ゴールを挙げている小林は20試合、1033分間(47.8%)という数字になっている。

 誰もが試合出場に飢えている中で、小林は左太もも裏を痛めて無念の離脱を余儀なくされた。センターFWを争っていたレアンドロ・ダミアンに加えて、念願のJ1初ゴールを挙げている20歳の宮代大聖、FWでもプレーできる山村が穴を埋める中で、小林も自身のインスタグラムに上半身のウエートトレーニングに励んでいる写真と、早期復帰へ執念を燃やすコメントを掲載している。

「シーズン終盤の一番おいしいとこを、自分が全部持っていく準備はできています」

 長期中断をポジティブに転じさせて厚くなった選手層の中で、チームメートと書いて「ライバル」と読ませる関係へと昇華させた、首脳陣の選手起用が歴史的な強さの源泉になったが、それでもフロンターレはまったく満足していない。今月7日のYBCルヴァンカップ準決勝で完敗を喫し、連覇の夢を絶たれたFC東京をホームに迎える、31日の次節でのリベンジにまずは全力を注いでいく。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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