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「昆虫が主菜」の時代が、避けられない理由とは

2020年10月16日 06時00分更新

文● 川口友万(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです Photo:PIXTA

秋の夜長に虫の声は風流だが、それもいずれは「コオロギがいる。つかまえて食べよう」になるのだろうか。最近、昆虫食のニュースをよく目にする。背景にあるのは人口増による食料危機、特に肉や魚が不足する「タンパク質クライシス」が心配されているせいだ。そこで肉に代わる新たなタンパク質源として昆虫が注目されているのだ。果たして昆虫が主菜となる未来はやってくるのか。(サイエンスライター 川口友万)

世界人口の急増で懸念される
タンパク質クライシス

 現在、世界の人口はおよそ77億人。2050年には90億人を突破するとみられている。1980年前後は約45億人だったので、わずか70年程度で2倍に増えることになる。

 国連食糧農業機関(FAO)が2006年に発表した『食肉・酪農品の消費量の予測』によれば、2010年の食肉需要は約2億6800万トン。これが2050年には約4億6300万トンで173%増になるという。

 人口に比例して増える食肉需要を現在の牛豚鶏の家畜・家禽(かきん)で賄おうとすれば、単純に家畜数を2倍にするしかない。効率化を進めたとしても、密集飼いをすれば疫病がはやり、生産性は落ちる。現在の2倍近い飼育面積とエサと水は必要だ。

 この世界に、畜産に適した土地がそれだけ残っているだろうか?

 また、仮に土地を工面できたとしても、人間の数は幾何級数的に増え続けるため、さらに多くの土地が必要となる。

 これがタンパク質クライシスである。食料危機に陥る前に、まずはタンパク質不足が起き、それが原因で大規模な飢餓や国際紛争が起きるのではないかと懸念されている。

 人間の数が減らず、世界の耕作可能面積に限りがあるなら、食料危機は必ず来る。現在の食料の構成比を見直し、現在の家畜とは別のタンパク質源を開発する必要がある。

牛とコオロギは
環境負荷がけた違い

 今年8月、無印良品が販売を開始したコオロギせんべいは品切れする勢いで売れているようだ。これは徳島大学発のベンチャー企業、グラリスが販売している食用コオロギを粉末にし、せんべいの生地に練り込んだものだ。

 ところで、数ある昆虫の中で、なぜコオロギなのか。

 家畜・家禽の代表である牛豚鶏を育てるにはエサや水が必要だ。エサも水も多ければ多いほど環境負荷は高くなる。

 2013年に国連食糧農業機関が発表した昆虫食に関する報告書によれば、タンパク質1キロを生産するために必要なエサの重量は、牛は10キロ、豚は5キロ、鶏は2.5キロ、コオロギは1.7キロ。

 同じく水は牛2万2000リットル、豚3500リットル、鶏2300リットル、コオロギ4リットル。

 排出する地球温暖化ガス(呼気だけではなく糞尿から出るメタンガスなども含む)は牛2.8キロ、豚1.1キロ、鶏0.3キロ、コオロギ0.1キロ。

 牛肉がいかに非効率で、コオロギがいかにエサも水も少なく効率的にタンパク質を作るかがわかる。牛肉の消費量をできるだけ減らし、その分をコオロギで補えば、タンパク質クライシスは避けられるかもしれない。

 味のことはさておき、地球のことを考え、持続可能な未来を考えると、牛豚ではなくコオロギを食べることが望ましいタンパク質の摂取方法といえるだろう。

食用コオロギが
タイでは輸出産業

 では昆虫はおいしいのかおいしくないのか。

 結論から言えば、とてもおいしい。

 実際、アジアや南米など欧米以外では昔から食べられている。

 例えばコオロギはタイでよく食べられており、今や輸出産業だ。加工食品用に粉末にして欧米に輸出しているのだ。

 日本でも長野県や岐阜県ではスーパーにイナゴが並ぶ。今夏、東京都内の公園で「食用その他の目的でセミ等を大量捕獲するのはおやめください」の看板が出て話題になったが、中国などではセミが食べられている。

 筆者もセミを食べたことがある。土から出てきたばかりの幼虫は、炒めたり揚げて食べると甘エビの頭のような味と食感でおいしい。

 かつては日本各地で昆虫が食べられていたが、食生活の欧米化にともない、食卓から排除されていった。

 だが、かつて明治維新で牛肉や乳製品を受け入れて食のバリエーションが広がったように、タンパク質クライシスという世界的な危機を前に、日本人が昆虫を受け入れる日がくるかもしれない。近い将来、料理番組でセミのチリソースが紹介されてもおかしくない。

 ところで、家畜以外のタンパク質は何も虫だけではない。日本には魚や野生動物もいるのだ。

水産養殖の生産性を
ハエの力で改善

 漁業を捕獲漁業から養殖中心にシフトさせようというのは世界的な流れだ。マグロの漁獲制限やウナギやサンマの不漁などでわかるように、日本の捕獲漁業は厳しい状況にある。水産養殖の拡大は急務だが、従来の沿岸養殖は適地不足や環境汚染から拡大が難しい。

 今後の新規拡大は沖合養殖と陸上養殖が主流になるだろう。特に沖合養殖は洋上風力発電所(海上に浮上型の風力発電基地を設置する)や潮流発電所(海流で発電機のタービンを回転させる発電方式)と養殖場をセットにすることで、発電所の整備と養殖を兼ねることができ、一石二鳥である。

 現在の養殖で最大の問題がエサ。エサによって大きく味が変わるが、主に使われている魚粉は価格が安定せず、安い大豆油かすは今ひとつ。また密集飼いのために病気が発生しやすく、抗生物質を使うしかない。抗生物質は環境汚染の問題もあるが、なによりも経費負担が大きいのだ。

 抗生物質を使わずに魚がよく食べて肉質も上がる飼料があれば、養殖魚の出荷量も増え、捕獲漁業の減少分を補えるだろう。昆虫ベンチャーのMUSCAは、ハエを使って生ごみなどから有機肥料を作る事業を行っており、今年、熊本県菊池市アグリ技術実証事業に採択され、実証実験中だ。

 ハエの幼虫が生ごみなどを分解することで有機肥料ができるだけではなく、幼虫を魚の飼料に使うこともできる。

 愛媛大学ではMUSCAのハエの幼虫を粉末にして魚粉と混ぜ、養殖魚の飼料にする実験を行っている。魚粉の5割をハエの幼虫に代えても魚は食べることがわかった。この飼料が素晴らしく、ハエの幼虫には免疫活性化物質が含まれているとのことで、抗生物質がほぼ不要になり、かつ魚の成長も4割増しという結果が出ている。

 飼料化が進めば、水産養殖に抗生物質が不要になり、コスト削減かつ安全で、魚体も大きくすることが可能だろう。

 また最近注目のジビエも日本独自のタンパク源として、農林水産省では駆除害獣の食肉利用を進めている。

 ジビエの利用率は駆除された頭数に対して、鹿・イノシシ合わせて7パーセントと低い。全国12カ所のモデル地区を整備、自治体に補助金を出して処理加工施設を増やしている。2025年までに現在の2倍の年間4000トンの食肉利用を目標に、流通網や衛生面での法整備などを進めていく。

 いずれにせよ、タンパク質クライシスへの対応は喫緊の課題である。

 理屈で考えれば昆虫などの環境負荷が低いタンパク質を主菜にするべきだが、消費者の意識や食文化を変えることは難しい。

 先述のMUSCAの例で言えば、「昆虫を食べるのは無理」という人でも、昆虫で育った魚であれば食べられる人は少なくないはず。タンパク質クライシスを乗り越えるには、こうした生産現場のイノベーションが大きなカギを握っているといえるだろう。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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