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菅新首相、長期安定政権へのカギは「期待と現実」の管理

2020年09月23日 06時00分更新

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:Pool/gettyimages

約8年ぶりの新政権
長期政権か暫定政権か

「アベノミクスの継承」を掲げた菅新政権がスタートしたが、8年近く続いた安倍政権と同じような長期安定政権の道を歩むのだろうか。それとも次の世代の指導者につなぐ暫定的な役割の政権なのか。

 なぜ、安倍政権は戦後最長政権になったのか、またそれ以前の長期政権だった中曽根、小泉政権を見ても、共通する鍵があるようだ。

安倍政権が長く続いた理由
「期待」の底から始まった

 安倍政権以前は、政権が1年ごとに代わる不安定短命政権だった。

 安倍政権が異例な長期政権になった理由の要因の一つは、期待と現実のギャップだ。

 これが最大の要因といってもいい。

 以下の図表1は、期待と現実のギャップを示す概念図である。

 バブル崩壊後に政治の不安定さが生じた背景には、図表1に示されるように、バブル期までの右肩上がりの期待に対し現実が下回ることのギャップに伴い、世の中に不満が生じたことによると考えられる。

 その結果、バブル期まで「青い鳥」の幻影を抱いていた国民が現実を受け入れることができず、不満が生じたことが政治の不安定さを生じさせ、短命な内閣や政権交代を促したと考えられる。

 その正反対の状況にあったのが、安倍政権と考えられる。

 以下の図表2は、安倍政権誕生を巡る環境を示したものだ。

 安倍政権の誕生は、期待が底になっていた2009年から12年までの民主党政権の混乱がバネになった可能性がある。経済の面でも、株式市場が1万円割れ、為替も円ドルで戦後最高の75円割れまでに達した中だった。

 政治・経済の期待の底だったことは、先述のバブル後とは大きく異なり、そのあとの現実が期待を上回ることが国民の支持につながった。

 つまり期待が底になった段階からスタートしたことが、大きなバネとして働いたといえる。

毎年、首相が代わる
不安定政治からの逆ばね

 以下の図表3は、小泉政権以降の首相を示したものだ。2006年から2012年まで6年間、毎年、首相が変わる状況にあった。

 2006年に退陣した小泉首相から、第1次安倍政権、2007年の福田政権、2008年の麻生政権、2009年の鳩山政権、2010年の菅政権、2011年の野田政権と毎年、首相が交代した。

 そうした状況での政策の非連続性に加え、2009年以降の民主党政権における混乱に対し、国民が再び元に戻してはいけないとの危機意識を抱いたことが、安倍政権の長期化をもたらした可能性が大きい。

 なかでも、民主党政権における混乱による影響は大きく、「敵失」による面も大きい。

米国との関係改善の要因
「仮想敵国」時代から外交が安定

 加えて大きいのは、安倍政権のもとでの米国との関係の緊密さだ。

 そもそも、日本のバブル崩壊とは、地政学的転換のなかで日本が米国の仮想敵国に位置付けられた面があったと考えられる。

 以下の図表4は、米国の仮想敵国と日米関係を示したものだ。

 ブッシュ(父)政権以降、日本が、米国の経済覇権を脅かしかねない仮想敵国になったなかで日米関係が悪化し、その結果、日本では政権の短命化が進んだ。

 なかでも、前民主党政権下で日米関係が悪化しただけに、その反動としても安倍政権にプラスに働いた。

 加えて、トランプ政権では、主要国の首脳で安倍首相は最もトランプ大統領と緊密な関係を作った。そのことが、「米国第一」で各国に貿易不均衡是正などを迫るトランプ政権と、例外的に、激しい通商摩擦が起きない状況になった。

 それはバブル崩壊後の「雪の時代」の象徴であった超円高圧力にさらされることから免れる大きな要因になった面もある。

 図表4を見ても日米関係が良好な時期に中曽根、小泉政権など日本は長期政権になっている。

期待とのギャップは次第に薄れる
トランプ政権も交代の可能性

 以上のように、安倍政権が長期化した要因として、期待と現実のギャップがプラスに作用した点、期待がボトムになった民主党政権の後の政権だったことや、日米関係が良好だったことに支えられた面が大きかったといえる。

 なかでも米国に中国という新たな仮想敵国が生じたこともプラスに作用したと考えられる。

 ただし長期政権になっていくほど、国民の期待水準が引き上げられてきたなかで、その水準を常に上回ることは難しい。それが2020年のコロナショックで顕在化したとも考えられる。

 日米関係についても、多分に安倍首相―トランプ大統領の個人的な親密さに支えられていた面があったのが、今年11月の米大統領選挙での政権交代の可能性も生じている。

 両方の面で、安倍政権は節目を迎えていた。

当初のイメージを破る
期待の引き上げが重要

 菅新政権の今後を展望すれば、「期待と現実」のギャップという点では、安倍政権が2020年になって支持率を落としており、目先の期待水準が低下しているということでは、新政権の出発点としてはサポート要因だ。

 一方で安倍政権のもとで全般に高い期待水準が定着していただけに、その引き上げられた目線に沿った対応を行うのは容易ではない。

 菅首相にとっては、安倍政権の「黒子」だったという状況から、いかにそのイメージをブレイクする期待の引き上げを実現できるかが重要になる。

 長期安定政権の道を歩むことになるのかは、こうした期待と現実を調整するマネジメント力にかかる。

 今から7年前、安倍政権が発足して間もなく、筆者は海外投資家に「アベノミクス3本の矢」の説明を何度か行ったが、海外投資家の間では3本の矢のなかで、3本目の矢である成長戦略に関する関心が高いのが印象に残った。

「成長戦略」を日本では一般的に「growth strategy」と訳すことが多かったが、海外では基本的に「structural reform」(構造改革)として意識されていた。

 安倍政権は当初、一般的に「成長戦略」として内外に変化をアピールして期待を高めることに成功したが、その半面、「掛け声倒れ」の側面もあった。

 それだけに、構造改革の具体的なメニューの不足が次第に明らかになるとともに海外からの評価が低下することになった。

 なかでも、デジタル化で後れを取った面は否めない。米国のGAFAを中心としたIT・プラットフォーム企業の台頭のなかで、投資家の日本企業への関心は高まらなかった。

持続的な成長戦略実現を
海外投資家の期待も高まる

 新たな政権が留意すべきは、安倍政権にあった期待と現実のギャップがマイナスに作用することを回避し、短命政権の罠(わな)から逃れることだ。

 つまり安倍長期政権で国民の期待が高められていたがために、今後、現実との乖離が新政権への不満を高めないことに留意する必要がある。

 海外からの評価は日本が1990年代に仮想敵国化したなかの、「Japan bashing」(日本叩き)から2000年代は 「Japan passing」(日本素通り)に転じ、ようやく安倍政権で「Japan presence」(日本の存在)になってきた。

 今後は、アベノミクスの連続性を重視しつつも、引き下がった期待をブレイクする成長戦略を打ち出して内外政策を行うことが現実的選択肢と考えられる。

 コロナ対策も含めた医療産業への注力、また、デジタル化への日本としての強いメッセージを発することで、日本経済への期待を高めることができるはずだ。

 また、それによって海外投資家を中心として期待を持たせることができれば、日本への資金を集めることも可能と考えられる。それを通じ、アベノミクスでは十分に達成しきれなかった日本株の成長性を再認識させることができる。

 従来のアベノミクスの3本の矢のなかで、構造改革を再起動し新たな3本目の矢を印象付けることで、日本株へ資金が向くと展望される。また、そのためにも11月の大統領選後に発足する米政権と日米関係を緊密に保つことが不可欠になる。

 ウォーレン・バフェット氏が日本の象徴でもある総合商社株を購入したのは、投資家として日本の構造変化を先取りした面もあったのではないか。

(岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長 高田 創)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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