国内トップのオンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS(クリニクス)」を開発する株式会社メドレーは、オンライン服薬指導にも対応する調剤薬局窓口支援システム「Pharms(ファームス)」の9月開始にあわせ、オンライン説明会を9月9日に開催した。発表会にはメドレー代表取締役で医師の豊田剛一郎氏が登壇し、全国展開するクオール薬局全店でPharmsの導入を計画しているクオール株式会社 取締役副社長の柄澤忍氏がゲストとして参加した。
診療から服薬指導まで一気通貫のシステムを提供
豊田氏は冒頭で「メドレーという会社は医療ヘルスケア領域の課題を解決するために設立された」と説明。医療現場の課題として、40兆円もの医療費削減や、患者数を増やすことを勝負にせざるをえない医療機関の現状を挙げ、「問題を改善するために、クラウドやオンラインを活用したプロダクトを開発し、サービスを広めることで日本の医療を発展させたい」と話す。よく言われるAIやビッグデータは現場ではまだ使えるものがなく、デジタル化が目的になってはいけないとし、「患者中心で医療現場の改善や医療の質の向上も見込める医療データプラットフォームの提供を目指す」と話した。
メドレーのプロダクトとして最も知られるのがオンライン診療・服薬指導アプリのCLINICSだが、CLINICSという名称は電子カルテや患者予約管理システムを含むクラウド診療支援システムの総称であり、ブランド名でもある。それをさらに薬局へ拡げたのがPharmsで、サービスそのものは2016年に国家戦略特区として承認されており、2017年から開発に取り組んできた。2018年に日本で初めてオンラインで服薬指導をしており、今年2月にはCLINICSアプリで診療から服薬指導まで行なうサービスを千葉市で実施している。
昨年に規制が改定され、今年9月からの開始が決まっていた薬機法の改正にあわせてサービスの開始を準備してきた。だが2月には厚労省事務連絡から時限的・特例的措置としてオンライン診療やオンライン服薬指導の規制緩和が開始となる。4月には「0410対応」と呼ばれる新型コロナウイルスの感染拡大による特例措置により、初診からのオンライン診療が解禁になった。このような背景から、実質的に4月17日から同社では運用を始めている。すでに全国1800店舗で事前導入されており、今後さらに大手調剤チェーンらを中心に拡大が進む見通しだ。
オンライン服薬指導で患者とつながる「Pharms」
「CLINICS」を利用したオンライン服薬指導の特徴は、診療と同様に薬局薬剤師の服薬指導がアプリ上で予約できる。その際に必要な処方せん情報の確認・問診票の入力・保険証の登録[1] ができ、決済は登録したクレジットカードで行える。薬剤は登録した住所に届く。患者がCLINICSアプリ上で、オンライン診療からオンライン服薬指導を一気通貫で受けることができるようにUIを変更し、アプリ全体の使い勝手をさらに高めている。
Pharmsを導入するメリットとして、服薬指導の予約のしやすさや待ち時間の解消、来店時間の集中率を低減したり、薬局内オペレーションの効率化するなどを挙げている。アプリには薬剤情報に関する医療辞典も搭載されているので、患者が治療方法を理解する”アドヒアランス”にもつながる。「アプリが調剤店舗の代わりになるのではなく、オンライン服薬指導を通じて患者さんとよりよくつながるためのサービスである。アプリを使っていつでも薬局に相談できるようにすることで、かかりつけのポジション確立にもつながる」(豊田氏)
次世代薬局をめざすクオールが全店舗で導入
クオールの柄澤氏は全店舗でPharms導入を決めた理由として、これからの薬局の役割として次世代薬局をつくることを目指していることを挙げた。マンツーマン中心に展開するクオール薬局は全国800数店舗あり、ローソン、ビッグカメラ、東急などと連携する新業態も展開している。デジタルとの親和性にも力を入れており、人と先端技術が共生し、1人ひとりの生活の中に結びつく次世代医療の実現を2040年を目標に進めている。
今年5月に次世代薬局店のファーストステップとしてリニューアルした恵比寿店では、高度医療から地域医療まで幅広い患者に対応し、施設在宅にも取り組む基幹店舗として様々なチャレンジをしている。たとえば、業務効率化のための自動薬剤ピッキング装置「ドラッグステーション」、遠隔で操作できるアバターロボット「newme」の運用、オープン型宅配便ロッカー「PUDO(プドー)ステーション」の活用など、薬局としては画期的ともいえる取り組みを進めている。
オンライン服薬指導についても法整備は整ったと見ており、チームで改革に対応している。オンライン化対応に向けた課題として、処方せんの受付と予約、決済方法、患者とのリテラシーの差、関連法規の変化などがあったが、Pharmsの導入でほぼ解決できそうだという。「Pharmsの導入では事前準備など現場が効率化できるのもさることながら、パーソナルエリアでの実施や感染予防といった、コロナにより求められるニーズに対応できるメリットもある。より気軽に指導が受けられ、特にアフターフォローが充実できるのではないか」(柄澤氏)
毎月の打ち合わせで機能やサービスの改善も行っており、将来的には電子カルテや電子処方せんとの連携も期待していると柄澤氏は言う。「オンライン診療は一気に躍進し、今後も続くと考えている。そうした状況にあわせて薬局をつくるのではなく、薬局の未来をつくることを目指していきたい」(柄澤氏)
処方せんの真のデジタル化が医療を変える
医療のオンライン化が進むのに対し、懸念されているのが高齢者や医療現場で利用が進むかどうかである。豊田氏は、「CLINICSの理想は高齢者、へき地、独居、見守りといった問題の改善に活用されること。事例はあるが、高齢者の場合多くは診療のためにスマホを使いこなしてもらうのは難しく、心理的な壁もある。そこを焦って拡げようとしても事故がおきたり、不適切な使い方をされる可能性もある。それよりも、家族や施設のスタッフがつきそう形で使えるようにするといったルールを検討するなど、法令の改正もあわせて進めたい」と話す。
たとえば、医療現場の作業効率を高め、調剤データの分析などを医療の質に反映させるには、処方せんを直接データとしてサーバー管理できるようにするといった必要もある。メドレーは処方せんの電子化に向けたシステムの開発をすでに進めており、運用フローを検証する実証実験を完了している。「電子処方せんとも言われているが、紙の延長という印象がぬぐえないので、新しい用語も含めて医療の未来を改善していきたい」と、豊田氏は今後の改革への意気込みを述べる。
「医療現場のICT化については、コロナの影響で非対面の価値が高まり、医療報酬へ組み込まれれば自然に拡がるだろうとも見ている。それに対して、患者中心で、医療現場も含めたそれぞれのニーズにあわせて使いやすい医療ヘルスケアへ改善するのが最も理想的なデジタルトランスフォーメーションと考えている」(豊田氏)
コロナ禍以降、医療のオンライン化に対するニーズは高まっており、国も医療現場のオンライン化を補助する助成を全国で申請可能にしている。「0410対応」も当面継続されそうだが、改正された薬機法より規制がゆるいため、今後どちらにあわせて進めていくかは状況を見ていく必要がある。いずれにしても医療現場のオンライン化は今後もさらに加速し、Pharmsのような新しいサービスが浸透する後押しになりそうだ。
お詫びと訂正:記事初出時、一部機能やサービス実施経緯での記述に誤りがありました。記事を訂正してお詫びします。(2020年9月23日更新)