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サッカー日本代表欧州組が直面する、容赦ない「30歳の掟」

2020年08月15日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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30歳の掟に挑戦する吉田麻也(左)と長友佑都(中)。一方でその掟を跳ね返した川島永嗣(右) Photo:JFA/AFLO

新型コロナウイルスに翻弄されたヨーロッパ各国のリーグ戦がようやく終わった。新シーズンへ向けて移籍期間に入っている中で、日本代表に名前を連ねる選手たちが対照的な状況に置かれている。19歳の久保建英が数多くのクラブからラブコールを送られた一方で、31歳の吉田麻也と33歳の長友佑都は今月上旬の段階で所属クラブなしのフリーとなっている。かつて香川真司が言及した、年齢をもって一概に判断される「30歳の掟」が、そこには存在している。(ノンフィクションライター 藤江直人)

香川真司が指した「そこ」とは

 日本代表の「10番」を背負い、2014年のブラジル、18年のロシア両大会と2度のワールドカップを戦ったMF香川真司から、切実な言葉を聞いたことがある。

「やはり30歳になると、ヨーロッパでは特にシビアにとらえられる。年齢のことも含めて、今までに経験したことのない、いろいろな現実を見せられた1年間でした」

 セレッソ大阪から移籍した独ブンデスリーガの強豪ボルシア・ドルトムントで、センセーショナルな活躍を演じて連覇に貢献。英プレミアリーグの名門マンチェスター・ユナイテッドをへて、再び加入したドルトムントで通算7シーズン目を迎えていた香川は、19年3月に30歳になった。

 年齢の十の位が変わるシーズンに、問答無用で実質的な構想外に置かれたと振り返ったのは、森保ジャパンに招集されていた昨年6月上旬。ドルトムントとの契約をあと1年、つまり今夏まで残していたが、もはや居場所はないと理解していた香川は、クラブの許可を得た上で新天地を探していた。

 出場機会を求めて昨年1月にトルコのベシクタシュへ期限付き移籍していた香川は、契約を終えた後もドイツには戻っていない。その視線は、長く憧憬の念を抱いてきたスペインへ向けられ、2部のレアル・サラゴサの一員となった過程で、年齢だけで一概に判断された事実に反発心をたぎらせている。

「そこを受け入れるつもりはないというか、そこを気にして『僕はもうダメなのか』という気持ちになっているようでは、生き残っていくことはできないので」

 短い言葉の中で2度も言及した「そこ」とは、言うまでもなく30歳を指す。21歳の夏にドイツへ挑んだ香川は、30歳を超えた仲間たちが世代交代の対象となり、チームを追われるケースを何度も見てきたのだろう。それはヨーロッパに存在する「30歳の掟(おきて)」と言えばいいだろうか。

 香川自身がその掟に巻き込まれてから、1年以上も経って筆者がそれに言及したのには理由がある。日本代表で苦楽を共にしてきた吉田麻也と長友佑都の両DFが、まさに同じ状況に置かれているからだ。

 名古屋グランパスからオランダのVVVフェンローを経て、12年7月に英プレミアリーグのサウサンプトンに移籍。センターバックを主戦場として154試合に出場してきた31歳の吉田は、6月30日に更新した自身のインスタグラム(@mayayoshida22)で契約が満了したことを報告している。

「ひとつだけ後悔していることを挙げれば、チームメイトやスタッフ、友人たち、そしてファンの方々にしっかりとさようならを言えなかったこと。でも、これもフットボールの一部だと思っている」

 サウサンプトンとの契約が満了した時点で、吉田は出場機会を求めて期限付き移籍していた、伊セリアAサンプドリアの一員として戦っていた。故にサウサンプトンで関わった全ての人々に対して、公式の場で挨拶ができなかった複雑な心境をつづっている。

吉田も「掟」に挑戦中

 世界中から猛者たちが集まってくるプレミアリーグにおける8シーズン目は、先発とリザーブを行き来する起用が続いた。そして昨年9月下旬になって、吉田は意を決したかのように、18年12月から指揮を執るオーストリア出身のラルフ・ハーゼンヒュットル監督の部屋を訪ねている。

「世代交代にあらがうつもりはなかったんですけど、そういう環境下に置かれていたのは確かだったので。監督が若い選手を好んでいるのは事実ですし、自分自身としては体力的にもベテランという感じになっているとは思わない。むしろセンターバックとしては、今が一番いい時期だと思っているので」

 監督室のドアをノックした理由を吉田が明かしたのは、日本代表のキャプテンとして、モンゴル代表とのカタールワールドカップ・アジア2次予選を戦うために帰国した昨年10月上旬だった。

「話したから何かが変わった、というわけじゃないと思いますけど。ただ、開幕してから何度も話したい、と考えてきましたけど、先発から外れるたびに理由を聞きにいくのもどうなのかな、と。我慢してチャンスを待って、結果を出して、それでもダメだったら話そうと思っていたので」

 しかし、直訴がかなう形で帰国前に出場したリーグ戦で連敗。日本代表戦を終えて合流した2試合目のレスター・シティ戦では、0-9と歴史的な大敗を喫した。開始早々に味方DFが退場する想定外の事態もあったが、それでも批判を浴びた一人となった吉田の出場機会は激減してしまう。

 その後のリーグ戦では途中出場の1試合のみにとどまり、今年1月に期限付き移籍を決断した。それでも「試合に出られれば、ある程度の結果を残せる自負があった」と決して下を向かなかった吉田は、サンプドリアで定位置をゲット。セリエA残留に導き、自身の存在価値を証明している。

 そのサンプドリアとの契約も満了し、フリーとなった吉田に対しては、サンプドリアが2年契約をオファーするとも報じられている。トルコのクラブが興味を示しているとも言われる中、まもなく32歳になる吉田自身は6日に更新した自身のツイッター(@MayaYoshida3)で、こうつぶやいている。

「いろんな思いや葛藤の中での6カ月でした!まずはしっかり休んで次の冒険への準備をします!」

トルコで逆境に挑む長友

 33歳の長友は、公式戦のピッチに立つ資格を失ったまま、6月30日をもってトルコの名門ガラタサライとの契約満了を迎えた。冬の移籍市場が閉じた後の今年2月以降は、外国人選手の人数規定のために登録から外れた状態で、練習だけに参加する日々をあえて受け入れていたからだ。

 出場機会を重視するのであれば、吉田のように冬の移籍期間で新天地を求めていたはずだ。それでもトルコに残った背景には、シーズン中で中途半端に移籍するよりは、契約満了に伴って移籍金がゼロとなり、移籍しやすい状況が生まれることを待っていたためだろう。

 事実上の戦力外を告げられたのは、長友にとって初めてではない。FC東京からセリエAのチェゼーナを経て、名門インテル・ミラノへ移籍したのが11年1月。在籍した7年間で副キャプテンを務めるなど、いつしか最古参選手となった中で、幾度となく放出候補にも名前が挙がってきた。

 例えば2度も監督が交代した16―17シーズンを終えて、日本代表に招集されていた17年6月。わずか16試合の出場に終わった、当時30歳の長友は、自身の去就を笑い飛ばしたことがある。

「何だか、皆さんがすごく心配してくださっているんですけれど、僕自身が全く自分のことを心配していないんですよ。本当にシンプルなことですけど、クラブに必要とされないのであれば荷物をまとめて出ていきます。自分が必要とされる場所で、輝くための努力をするだけなので」

 インテル・ミラノとは19年6月まで契約を結んでいたが、長友は言葉通りに出場機会を求めて、18年2月にガラタサライへ期限付き移籍。左サイドバックとしてリーグ戦制覇に貢献した後に完全移籍に切り替え、迎えた3シーズン目の途中で再び非情な状況下に置かれた。

 前述したように残りの契約期間との関係で、試合に出られない状況を選択したが、トレードマークでもある情熱は全くうせていない。ゴールデンウイーク中にイスタンブールの自宅からリモート出演した、古巣FC東京のイベントで現状に対してこう言及している。

「僕、マジで悩みがないんですよ。人間である以上は悩みを含めた感情がありますけど、処理能力がめちゃ速いと思うんです。それが自分の強みというか、逆境が大好物なんですよね」

 フリーとなった今もイスタンブールに残っている長友は、午前、午後と過酷な体幹トレーニングを自らに課しながら「体は仕上がりまくっています」と豪快に笑う。9月には34歳になる鉄人のもとには、トルコの2つのクラブから関心が寄せられていると報じられた。

「掟」をものともしない“キャプテン”

 対照的に6月に19歳になったばかりのMF久保建英は、引く手あまたの状況から、ラ・リーガ1部のビジャレアルへの期限付き移籍が現地時間10日に決まった。契約期間は1年となっている。

 FC東京から昨年6月にレアル・マドリードへ移籍した久保は、開幕直後に期限付き移籍したマジョルカで、2月下旬から右サイドハーフに定着。新型コロナウイルスによる中断後は代役の利かない存在感を放ち、スペインを含めたヨーロッパ中で注目を集めるホープとなった。

 登録および出場が最大3人のEU圏外枠が既に埋まっている関係で、9月に開幕する新シーズンも再び武者修行を積ませるレアル・マドリードの方針の下、獲得に興味を示したクラブは30に達した。その中でレアル・マドリードと久保は、数々の条件を定めて新天地を選んでいる。

 条件とはネイティブレベルにあるスペイン語を駆使できるメリットを活かすために、引き続きラ・リーガ1部でプレーすることが大前提となる。その上で降格したマジョルカよりもレベルが上で、ヨーロッパの大会にも挑戦できて、シーズンを通して40試合に出場する環境を指している。

 就職活動に例えれば、究極の売り手市場と化した中で、19―20シーズンのラ・リーガ1部で5位に入り、新シーズンのUEFAヨーロッパリーグへの出場権を獲得している一方で、中盤の要となるレジェンド的な選手が退団したビジャレアルとの間で相思相愛の関係が築かれた。

 スペインメディアのインタビューで、目標は名門レアル・マドリードで活躍する自身の姿だと公言。目標を具現化させるのも「全ては自分次第」と自信を抱く、久保の新たな挑戦には胸が躍らされる。同時に年齢の壁にあらがい、乗り越えようとしている男たちが描く軌跡にも心ひかれる。

 しかし、ベテランと呼ばれる全ての選手が、いわゆる「30歳の掟」にはね返されたわけではない。

 36歳のMF長谷部誠はリベロも務められるクレバーさと誠実さ、日本代表で8年間もキャプテンを務めたリーダーシップが評価されて、アイントラハト・フランクフルトとの契約を新シーズンまで延長。引退後は14年夏から所属するフランクフルトで、アドバイザーを務めることも決まった。

 37歳の川島永嗣は出場機会が望めない第3GKとして、18年夏に加入した仏リーグ・アンのストラスブールとの契約を来年6月まで延長している。2人のGKをバックアップする真摯な姿勢が、流暢なフランス語を話せる点とともに高い評価を受け、クラブに貴重な外国籍選手枠の1つを使わせている。

 34歳のFW岡崎慎司は、昨年9月に加入したスペインのラ・リーガ2部ウエスカでチーム得点王となり、優勝との二重の喜びとともに、9月から1部の戦いに挑む。自己犠牲をいとわない献身的な姿勢と愚直さ、そしてよみがえらせたストライカーとしての得点感覚がスペインの地でも関わるすべての人々を魅了している。

 そして、冒頭で記した香川もラ・リーガ2部で3位に入ったレアル・サラゴサの一員として、1部昇格をかけたプレーオフに臨んでいる。日本代表に名前を刻んだ、あるいはこれから刻もうとしている男たちは、弱肉強食と新陳代謝が繰り返されるヨーロッパで新たなドラマを紡ぎ続ける。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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