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殴る、蹴る、セクハラ…「部活体罰大国」の日本に五輪開催資格はあるか

2020年08月02日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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日本は部活体罰大国だ Photo:PIXTA

日本の部活における「子どもの虐待」を国際団体が問題視

 7月20日午後、国際NGO『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』がリモート記者会見を行い、日本の部活動における体罰の実態調査結果などを公表した。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、米国ニューヨークに本拠を置く国際組織。彼らのホームページには、『世界をリードする人権NGO(非政府組織)です。1978年の設立以来30年以上にわたって、世界の人びとの権利と尊厳を守ってきました』と記されている。

 人権侵害、戦争犯罪、民族浄化とジェノサイドなど多くのテーマに取り組み、地雷禁止国際キャンペーンの創立メンバーになるなど、その活動は多岐にわたっている。

 そのヒューマン・ライツ・ウォッチが、日本の部活における体罰の問題を調査した。その結果は、『数えきれないほど叩かれて』というショッキングなタイトルのレポートにまとめられている。

 副題には「日本のスポーツにおける子どもの虐待」とある。改めて言葉で見ると、およそ文化的な国の実態とは思えない。けれど、それは紛れもなくこの日本で今も行われている部活動の実態なのだ。

 レポートはとても正視しきれない、最後まで読むのがつらいほどの実態や証言が次のようにつづられている。

生々しい証言「数えきれないほど叩かれて」

「数えきれないほど叩かれました。……集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかったですね。ちょっと鼻血が、と言ったんですけれど止まらなかったです」(原文ママ)

 いま23歳の青年の証言でレポートは始まる。

「たたかれるのも もうイヤ 泣くのも もうイヤ…… だから もうこの世にいたくないの」(原文ママ)

 これは部活での虐待に悩み苦しんだ末に自殺した、やり投げ選手だった女子高校生(17歳)の遺書だ。

「毎日誰かしら殴られてたし、試合中とかも……。本当にどれだけ殴られたかってくらい殴られた。私がキャプテンだったのもある。……髪の毛引っ張られたり、蹴られたりもした。……(顔)が殴られすぎて青くなって。……血が出たことも。……でもその先生のこと、(今も)好きだし……。(当時)私のことプレイヤーとして信頼してくれてるなという感じもすごくしてたし、私の助けになろうともしてくれていた。……みんな嫌いじゃなかった(でも)みんな、本当に先生のこと怖くて。……(酷い指導者に関して言うと)DV被害者の心理と似ていて、アメとムチではないけど、愛情と虐待の両方を感じてた」(原文ママ)

 これは2000年代の半ばから後半にかけて、愛知県の高校でバスケットボールをしていた女性の告白だ。

「虐待」の実態は、日本人なら当たり前に知っている

 こうした実態を伝えるリモート記者会見を見ながら私が感じたのは、「日本人なら誰もが知っている、ごく普通のことだ」という恐ろしい現実だ。

 熱心に部活をやっていた者なら、多かれ少なかれ経験している。最近は少し空気が変わってきたため、その割合は減っているが、全国大会などで優勝を目指す部活のチームでは、今もこの傾向が根強く残る。当たり前すぎて、生徒の自殺など一時的に問題が起こっても、根本的な改善の動きにはならず、放置される社会の風潮がある。

「勝つためなら当然だ」「勝つためなら仕方がない」

 日本人の大半が、そう考えているせいもあるだろう。たとえパワハラ的な指導であっても、選手やチームがオリンピックで金メダルを取れば、あるいはチームが甲子園に出場し勝利すれば、「名監督」と持ち上げられる滑稽な現実は今もあまり変わらない。

 しかも、そうしたパワハラ監督はオリンピックや甲子園を夢見る選手と親には絶大な人気を誇り、指導を求める児童、生徒が後を絶たない。

 そんな中で、JOC(日本オリンピック委員会)の山下泰裕会長が、コロナ禍を経験してもなお、改めて「東京オリンピックで金メダル30個を獲得する目標に変わりはない」と、メダルの数ばかりをオリンピックの目的のように語る姿に、がくぜんとする。

 金メダルを史上最多の30個獲得しようと目標を掲げることが、少年少女のスポーツ現場にまで、あしきパワハラ思考が根付いてしまう一因になることになぜ気付かないのだろうか。なぜ現実を直視し、進んで改善の声を上げないだろうか。

 ただやみくもに「金メダル30個」を標榜する無神経と無策、スポーツや若者への愛情の無さが悲しくやり切れない。

 レポートの中で、「日本オリンピック委員会は、加盟競技団体を対象に調査し、回答した約2000人の選手(子どもと大人)のうち11.5%が、『競技活動の際に暴力を含むパワハラ、セクハラを受けたことがある」と答えた』ことが明らかになっている。また、全国大学体育連合が会員校の学生約4000人を対象に調査したところ、20.5%の学生が、『過去に運動部活動において体罰経験があると回答した。その多くが中学と高校での経験だった』とも記されている。

 それだけ多くの被害の実態がありながら、根本的な改善をしてこなかったのだ。

当たり前すぎて、麻痺してしまっている日本社会

 記者会見を見ながら、つくづく、日本人は「麻痺(まひ)しているのだ」との思いを強くした。そこには、スポーツの持つ危険な魔力が影響している。

「いくら苦しくても、それを乗り越え、勝利を得た時の感動が苦しみを美化させる」

 悲しいかな、人間にはある程度の耐える力や乗り越える力があり、しかも耐えたり乗り越えたりして終えると、それが肯定的な印象を残す。

 逆に言えば、そうした肯定感がなければ、自分が過ごした時間や人間関係を否定し続けることになる。だから、無意識のうちに、虐待ともいえるようなつらいことに耐えたり乗り越えることを受け入れてしまうのだろうか。

 しかし、精神も含めた個人の尊厳が尊重される時代になった今、そのような間違った虐待の美化は一掃しなければならない。

 自分が進んで取り組もうと決めたはずのスポーツや部活が、誰かに支配される形になる――。そんな本末転倒はこれ以上、許されてはならない。

 部活は、指導者の自己満足や指導者の実績づくりのためではなく、子どもたち一人一人の心身の成長や目覚めにこそ目的がある。

日本社会の閉鎖性が虐待を野放しにする温床にも

 証言は、さまざまな日本社会の問題もあぶり出している。よく言う「大人の社会」の難しさ、商売上の損得なども証言の中に垣間見える。

 例えば、性虐待に関わる次の証言だ。

「ある女子プロサッカークラブのマネージャーは、男性の監督による10代を含む複数の女子選手への性虐待が発覚した際に、これに対応しようとして、問題に直面したと述べた。訴えの深刻さと、この人物が元プロサッカー選手でありスポーツ界でも人気があったからこそ、その監督を解雇し、そのことを記者会見で公表することが重要だと、このマネージャーは考えた。しかし、監督による虐待を示す有力な証拠があったにもかかわらず、選手、他の指導者や保護者から『一流選手(コーチ)』を解雇することに疑念を示されたり、反発を受けたりした。このマネージャーは、解雇された元監督がいまだ小学生のコーチをしていることに呆れている。『彼はまだライセンスを持っている。日本サッカー協会に相談したが、警察沙汰にはならなかったので……。協会はコーチのライセンスを剥奪することはできない』と言っていた」

 記者会見には、柔道の授業で死亡したお子さんの母親も出席し、教師による絞め技を使った意図的なイジメでお子さんが死に至ったという信じられない実態も証言した。

日本に東京オリンピックを開く資格はあるのか?

 ヒューマン・ライツ・ウォッチの記者会見の終わりに、このプロジェクトの中心人物であるミンキー・ウォーデン氏(グローバル構想部長)は、次のように発言した。

「おそらく、日本政府はこのような実態を知らないのでしょう。だから、こうした問題が放置されたまま、東京オリンピックを開催しようとしている。1年延期された東京オリンピックの開幕までに、この問題が改善されるよう望みます」

 彼らなりの思いやりに満ちた表現だった。いや、強烈な皮肉を込めたのかもしれない。

 日本政府もJOCはじめ日本のスポーツ関係者も、この実態を知らないわけがない。

 あまりに当たり前すぎて、「必要悪」「しょうがない」と見過ごしがちだったこの問題を、これ以上、放置するわけにはいかない。

 東京オリンピックを1年後に控え、国際団体からの痛烈な指摘を受けたこの機会に、私たちは部活動の根本的な改革に、そして日本のスポーツ観の再考に、スポーツ界だけなく、教育関係者、子どもの育成や支援にかかわる全ての人々、つまりは国民こぞって真剣に取り組まなければならない。

 少年少女をめぐるスポーツ現場の空気が変わらなければ、オリンピック開催によってさらなる弊害を生み、金メダル獲得も悪の温床を増やすことにしかならないだろう。それでは金メダリストに対しても失礼きわまりないことになる。

(作家・スポーツライター 小林信也)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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