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うつ病休職者の8割が病気にあらず、コロナで急増の「社会的うつ」の正体

2020年07月29日 06時00分更新

文● 野中ツトム(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

コロナ禍の社会生活が続く中、「社会的うつ」が増えているという。著書『社会的うつ―うつ病休職者はなぜ増加しているのか』の中で「社会的うつ」という言葉と概念を独自に定義した近畿大学教授(労働・福祉政策)でジャーナリストの奥田祥子氏に話を聞いた。(清談社 野中ツトム)

真性のうつ病ではない
「社会的うつ」状態とは?

 新型コロナウイルス禍によるテレワーク期間中、うつ状態になる人や気分が落ち込んでしまった人が少なくないという。対面で人と会うことがなくなって孤独感や孤立感を深めたり、少し時間ができたことで職場の抱えていた問題に気づいてしまったり、というのが理由だ。

 彼ら彼女らの多くは、テレワークから通常勤務に戻ることで仕事がうまくいかず、何らかのカタチで精神科や心療内科にかかり、うつ病休職者となるかもしれない。しかし、その大半は真性のうつ病ではなく、「病人」とまでは言えない「社会的うつ」状態に過ぎないという。

 では「社会的うつ」とはどのような状態をさすのだろうか?

 奥田氏によれば、「過重労働、パワハラなどの職場の問題でストレスをため、悩んでいる人が自覚する、うつ病に似た軽い症状が、医学的な診断基準に該当しないのに、軽症の『うつ病』と診断され、会社を休職すること」だという。

 つまり、仕事が原因で軽くうつっぽくなった人が精神科や心療内科に行って軽症の「うつ病」の診断書をもらい、うつ病休職者となることを指す言葉が「社会的うつ」なのだ。しかし、重症化する前に休めるのなら真性のうつ病よりもいいような気がする。ところが、社会的うつは深刻な問題をはらんでいると奥田氏は指摘する。

「『うつ病の診断書』という免罪符によって、職場の問題が労働者の『心の病』という個人の問題に安易にすり替えられている。過重労働やパワハラから、不当人事、違法な退職強要まで、さまざまな問題がまったく改善されることなくです。企業は労働問題の解決をなおざりにしたまま、対外的に健康経営をアピールするために、メンタルヘルス対策を充実させている。しかし、充実させるほどうつ病の患者数は増加し、うつ病休職者が増えるという皮肉な現象が生じているのです。

 ところが、実際はうつ病ではない人がうつ病で休職し、『心の病を患った人』というレッテルを貼られることは、その後のキャリア形成に悪影響を及ぼします。また、休職中の休業補償は企業と国の折半です。『社会的うつ』によって国も社会も経済的な損失を被っています」(奥田氏)

 今まで放置されてきた「社会的うつ」問題。コロナ禍を経たことで、ますます増加する傾向にあると奥田氏は指摘する。直近で奥田氏がインタビュー調査をした2人の例を紹介しよう。

社会的うつの事例(1)
メーカーの営業職の課長
40歳・男性

 まずは、メーカーの営業職で課長を務める40歳の男性。管理職でありながら現場の実務もこなす、いわゆるプレーイングマネージャーだった。

 彼は営業職なのでこれまで対面でのやりとりを重視していたが、会社は緊急事態宣言を受けてテレワークに。当然、取引先か社内かを問わず、誰とも対面することがなくなった。すると、まったく相手の気持ちが読み取れない。そして集中力が低下し、不眠に襲われた。

 その段階になってようやく、コロナ禍前からすでに自分はオーバーワークだったことに気づいたという。それまでギリギリで保たれていたバランスがちょっとしたことをきっかけにして崩れたのだ。緊急事態宣言が解除されて通常勤務に戻った直後、彼はつらい職場から逃れるため、自らの判断で精神科のクリニックを受診。「軽症うつ病」と診断され、今も休職中だ。

 よくある話のようにも思えるが、これも奥田氏によれば典型的な「社会的うつ」だという。

「この男性の場合、自分から精神科に行っていますが、その理由が週刊誌の記事にあった『うつ病チェックリスト』に自覚症状の一部が当てはまったからというものです。これは近年のメディアの問題ですが、うつ病を誰でも罹る病気として報道することで『大衆化』し、受診するハードルを下げすぎる傾向にあります。本来この方がやるべきだったのは、会社に職場の過重労働の問題を訴えて仕事量を調整することだったはずです。最悪の場合、復職しても精神疾患のレッテルを貼られて窓際に追いやられ、まともに仕事をさせてもらえない可能性すらあるでしょう」

 奥田氏は精神科の医師サイドの問題も指摘する。

「この男性は抗うつ薬を飲んでも症状が改善せず、逆に吐き気などの副作用が出たために勝手に服用をやめた経緯もあり、『自分はたぶんうつ病ではなかったと思う』と聞き取り調査で答えています。これは問診だけで診断を下さざるを得ない精神科医療特有の問題でもあるのです。精神科の医師は患者に寄り添いたいという思いから、多少でもうつ的な傾向があり、患者が休職を希望していれば、軽症のうつ病という診断を出しがちです。一方、インタビュー調査からは、診断基準には該当しないのにうつ病の診断を出して患者の数を増やし、さらに薬を投与し続けて再診の数を重ねてもうけたいという、医療行為として到底許されないことを行っている医師がいる可能性も明らかになっています」

社会的うつの事例(2)
小売業のマーケティング部門勤務
33歳・女性

 もう1人のケースは、小売業のマーケティング部門に勤務する33歳の既婚女性。子どもをつくって専業主婦になりたいという理想がありつつ、夫の収入が低いこともあって仕事を続けていた。そして、コロナ禍の前から課長に「管理職を目指してほしいので、子どもをつくる前に一度営業部に行って経験を積まないか」と、無自覚とみられるパワハラ混じりのセクハラを受けていたという。

 緊急事態宣言によって仕事はテレワークとなったが、会社のサーバーでシステム障害が起きたことで、同僚とも関係の深い営業部ともコミュニケーションがうまくとれなくなってしまった。その上、まったく自分の責任ではないことで顧客からも社内からも苦情を言われ、仕事へのモチベーションが著しく低下。不眠と焦燥感に襲われ、仕事に集中できない状態に陥ってしまった。

 そんな中、緊急事態宣言が解除されて通常の勤務に戻るも、単純ミスを連発。さらに、感情のコントロールができなくなり、職場で声を荒げることに。さすがに限界を感じて直接、部長に翌日の休暇を願い出て、問題の課長のセクハラとパワハラの件もやんわりと伝えた。ところが、苦笑で返されたことに絶望を覚えた。

 その上、「うつ病だったら会社の理解もあるし、診断書も取りやすい」と受診を勧められた。彼女も休めるなら会社から逃げたいという思いがあり、心療内科を受診。軽症のうつ病と診断され、1カ月の休職となった。現在、職場に復帰したばかりだが、本人は「会社にはもう不信感しかない。退職を考えている」という。

「こちらのケースも、会社は本来のセクハラ・パワハラ問題にはまったく対処することなく、心の病の問題として労働者個人に責任を転嫁しています。また、本人もつらい職場のストレスから逃げ出したいという思いがあり、部長の誘導に乗ってしまったというのも『社会的うつ』の典型的なパターンといえるでしょう」(奥田氏)

 このように、コロナ禍がきっかけとなって増加傾向にあるとみられる「社会的うつ」。しかし、そもそもコロナ禍以前から、うつ病休職者の8割が「社会的うつ」だったという独自の調査結果を奥田氏は提示している。

「うつ病休職経験者50人へのインタビューや、調査対象者とは無関係の精神科医ら専門医6人による再診断という独自調査によって導き出された結論は、うつ病休職者の8割強が真のうつ病ではないというものでした。つまり、本来うつ病休職をする必要のない人が休職をすることで社会は大きな損失を被り、本人自身のキャリア形成においても不利益を被る結果となっているのです。日本社会の生産性の低さがよく指摘されますが、その要因のひとつがここにあると言っても過言ではありません」
 
 企業など雇用する側は、労働問題の解決に真剣に取り組む。そして、働く側は「病人」となって職場の問題を個人の問題として背負い込むことなく、過重労働やパワハラを企業へ堂々と訴えていく。ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代はその変革のチャンスであると、奥田氏は指摘する。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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