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京アニ放火殺人1年、青葉容疑者の「盗用された」は妄想なのか

2020年07月21日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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記者会見する京都アニメーションの八田英明社長(7月18日撮影、京都市下京区) Photo:JIJI

36人が死亡、33人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件は18日、発生から1年を迎えた。殺人や現住建造物等放火などの疑いで逮捕・送検された青葉真司容疑者(42)は京都地検が6月から鑑定留置しており、その結果を踏まえて起訴するかどうか判断する。青葉容疑者は事件直後、取り押さえられた際に「俺の作品をパクった」などと叫び、京都府警の聴取に対しても「ツルネ-風舞高校弓道部-」の一部シーンを指して「盗用された。京アニが許せなかった」と供述していたことが判明。しかし、青葉容疑者が応募した小説は形式的な不備で審査さえされておらず、京アニ関係者の目には触れていない。捜査関係者は青葉容疑者が一方的な思い込みで恨みを募らせ、犯行に及んだとみている。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

「無念で断腸の思い」と弔辞

 現場となった京都市伏見区の京阪電鉄宇治線・六地蔵駅前の第1スタジオは解体され、1年前に事件があった7月18日、白いテントに覆われた跡地で追悼式が開かれた。

 追悼式は事件があった午前10時半に始まり、喪服に身を包んだ85人の遺族らが参列。犠牲者を悼んで黙祷(もくとう)を捧げ、献花した。

 京アニの八田英明社長は弔辞で「1年前のこの日、この場所で、想像を絶する悲しい事件が起きました。地元はもちろん、全国各地からこの地に集まった優秀なクリエーターが突然、未来を奪われてしまいました。無念で無念で、言葉がありません。断腸の思いです」とあいさつ。

 そして「一人ひとりの故人に対して、そして大切な身内を亡くされたご家族に対し、心から哀悼の意を表したいと存じます」と声を詰まらせた。

 追悼式の終了後には、京アニの社員100人以上も花を手向けたという。

 追悼式の開始時間に合わせ、動画投稿サイト「ユーチューブ」の公式チャンネルには京アニが動画メッセージを公開。静かな音楽が流れる中、追悼文や同社に寄せられた弔電の文字が映し出された。

 京アニは新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、フアンらに訪問を控えるよう呼び掛けたが、それでも現地で追悼したいと駆け付けたのか、会場付近ではフアンとみられる人が手を合わせる姿も見られた。

鑑定留置で刑事責任能力を見極め

 青葉容疑者は現在、事件当時の精神状態を調べるため、大阪拘置所に3カ月の期間で鑑定留置されている。

 鑑定留置では専門の医師が事件当時の精神状態を調べ、犯行に影響したかどうかを判断する。

 刑事責任能力を問えると判断すれば起訴されることになるが、何しろ36人に対する殺人罪と33人に対する殺人未遂罪に問われる未曽有の事件だ。

 期限は9月10日までだが、京都地検は刑事責任能力を問えるかどうか慎重に見極めるため、延長される可能性もある。

 犯人性は間違いなく、公判で刑事責任能力が認められれば死刑は確実なので、弁護側は刑事責任能力を争点にすることが予想される。それしか弁護方針を立てようがないからだ。

 起訴されたとしても最高裁まで争われるのは間違いなく、判決が確定するまでに長い時間がかかるのは必至だ。

犯行動機は「盗用されたから」

 全国紙社会部デスクによると、青葉容疑者は身柄を確保された際に「小説を盗まれた」「俺の作品をパクった」などと叫んでいた。

 昨年11月8日に行われた任意の聴取や5月27日の逮捕後の聴取に対し、一貫して同様の主張を繰り返しているとされる。

 その上で、NHKが2018年10月~19年1月に放映した「ツルネ-風舞高校弓道部-」の2~3分のシーンについて「盗用された」という趣旨の供述をしているらしい。

「ツルネ」は、弓道部に入った主人公の男子高校生が、仲間と共に弓道に打ち込む青春を描いたストーリー。

 またツルネ以外にも複数の作品名を挙げて「自分の作品を盗用された。京アニが許せなかった」と犯行の動機を供述しているという。

 青葉容疑者はこれまで、京アニが手掛ける人気作品と同じジャンルの「学園もの」を京都アニメーション大賞に応募。

 しかし形式的な不備があったため、審査どころか京アニ関係者が目にすることなく落選していた。

 このため、捜査関係者は「一方的な思い込みで、ほとんど言い掛かりに近い」と見ているもようだ。

 京アニの代理人弁護士もこれまで、青葉容疑者が応募したとみられる小説について「京アニが手掛けた作品と似たような表現は確認できなかった」と説明。

 その上で、京アニ関係者の目に触れる前に選考から除外されていたため「そもそも似る余地が全くない」と断じていた。

 また、青葉容疑者の投稿とは確認されていないが、インターネットの掲示板サイトに「ツルネでもパクってやがる」という書き込みがあったことも判明。

 ほかにも「パクりを目にしたのはけいおんの映画だった」「アイディアをパクる貴様らだけは許さん」「京アニに裏切られた」などの書き込みがあったことも明らかになっている。

身勝手な妄想で一方的な恨みか

 前述の全国紙社会部デスクは「私の個人的な推測ですが」と断りながら、憧憬(しょうけい)と嫉妬がねじ曲がり、ゆがんだ感情に行き着いたのが犯行のきっかけではないかと話した。

 デスクの推測はこうだ。

 最初は京アニの作品に感動し、自分も他人に感動を与える作品を手掛ける側になりたいと憧れるようになった。

 そして小説を書くようになるが、自分がイメージする世界観を思うように文字で表現することができず焦燥するようになる。

 なかなかうまくいかない自分にいら立つが、京アニは自分が表現したい世界観を次から次へと発表する。

「あれが自分の描きたい世界観だ」という感情がどこかでおかしな方向を向き、そのうち「俺の世界観を京アニが真似(まね)たのだ」と思い込むようになった。

 そして、何とか小説を書き上げて応募し、受賞の知らせを期待したものの結果は落選(というか審査以前の問題)。

 その事実も「俺の(応募した)小説から盗用したに違いない」という妄想に拍車を掛ける一因になったのではないかというのだ。

 全国紙社会部デスクは「青葉容疑者は精神的に異常なのではなく、未熟なのだと思います。幼児が自分の思うようにならないことにいら立ち、責任転嫁したり、かんしゃくを起こしたりするのと同じじゃないかと思うのです」と分析した。

 確かに、青葉容疑者が住んでいたアパートは壁に穴が開き、パソコンは粉砕されていたと報じられている。

 思い通りにならないと物に当たり散らすのは幼稚性の表れだが、もしかしたら小説がうまく書けないいら立ちが理由だったのかもしれない。

 青葉容疑者は前述の動機のほか「ガソリンを使えば多くの人を殺せると思った」とも供述。逮捕された時、犠牲者が36人という事実を知らなかったらしいが、強い殺意があったのは間違いない。

 身勝手な妄想から一方的に恨みを募らせ、何の罪も非もないクリエーターに向けてガソリンをまいて火を放ったのだとしたら……。考えたくはないが、その可能性は高いだろう。

 事件から1年が経過しても遺族や京アニ関係者の無念や悲しみはなお深く、癒えるはずもない。

 犠牲者とご遺族、京アニ関係者に衷心より追悼の意を表します。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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