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本田圭佑、ブラジルで吠える!大統領も呑まれたコロナ禍での健在ぶり

2020年07月09日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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無観客で行われた「タッサ・リオ」準決勝フルミネンセ戦 Photo:ZUMA Press/AFLO

日本代表として一時代を築いた本田圭佑は1月、新天地ブラジルの古豪ボタフォゴに加入した後、どのような活躍をしているのか。新型コロナウイルスの影響で長期中断を余儀なくされたブラジル国内のサッカーは、ボタフォゴが本拠地を置くリオデジャネイロ州で見切り発車的に再開を迎えた。中断期間中に34歳になった本田は来夏の東京五輪へ出場する野望を掲げながらも、勝利を求めるアスリートと命を尊ぶ人間との間で揺れる思いを、ツイッターを介して発信し続けている。(ノンフィクションライター 藤江直人)

ブラジルの地で奮闘する本田圭佑

 胸中に抱く思いを世界へ向けて発信したい時、本田圭佑は自身のツイッター(@kskgroup2017)に英語で投稿する。例えば日本時間6日早朝に、日本から見て地球のちょうど裏側に位置するブラジル第2の都市、リオデジャネイロからこんな文面をツイートしている。

『Congratulations for Fluminense and they deserved to win the game. But I feel that I have to say... a rule will have to be changed. I have never seen no extra time or no penalty in a tournament.』

 和訳すれば「おめでとう、フルミネンセ。彼らは勝利に値した。ただ、ルールを変える必要があると僕は言わなければいけない。延長戦や、あるいはPK戦のないトーナメント戦を僕は見たことがないからだ」となるつぶやきは、敗退で終えたばかりの大一番を対象にしていた。

 現地時間5日に行われたリオデジャネイロ州選手権の後半戦、「タッサ・リオ」の準決勝。本田が所属する古豪ボタフォゴは、同じリオデジャネイロを本拠地とするライバルクラブのフルミネンセと対戦。ともに無得点で前後半の90分間を終えた直後に、規定によって敗退が決まった。

 トーナメント戦で90分間を終えて決着がつかなかった場合、一般的には延長戦やPK戦が導入されるケースが多い。しかし、新型コロナウイルスの影響で、日程が過密気味になっている今シーズンのリオデジャネイロ州選手権では、特別なレギュレーションが導入されていた。

 それは「同じスコアで前後半を終えた場合には、グループステージで上位のクラブが決勝へ進む」ことだった。12クラブが出場しているタッサ・リオで、ボタフォゴは勝ち点8ポイントを挙げてグループAの2位に入り、一方のフルミネンセは同10ポイントでグループBの1位だった。

 ゆえにフルミネンセに負けてはいないものの、名門フラメンゴが待つ決勝戦へ進む道を閉ざされてしまった。特別ルールの存在を理解していても、ボタフォゴを率いたキャプテンとして、何よりも90分間を戦い抜いた選手の一人として、納得がいかない気持ちの方が大きかったのだろう。

 フルミネンセへの敬意を表しながらも、その上で忸怩たる思いをつぶやく。アスリートならば誰もが内側にたぎらせている、負けず嫌いの一面を英文のツイートに色濃く反映させながら、今年1月に加入したボタフォゴにおける最初の戦い、リオデジャネイロ州選手権を無冠で終えた。

サッカーも発言も本田らしさを失わず

 本田の次なる挑戦に触れる前に、ブラジルのサッカーシーズンを語っておく必要があるだろう。

 ブラジルのシーズンは2つに分けられる。例年では年明けから4月いっぱいまでは各州の選手権が、それぞれ独自の形で開催される。リオデジャネイロ州では前半戦となるタッサ・グアナバーラ、そしてタッサ・リオを続けて開催して、それぞれの優勝チームが州王者をかけて対戦する。そして、5月から年内いっぱいにかけて、1部から4部までで構成されるブラジル全国選手権が開催される。

 所属チームのない状態だった本田が、プロとしてスタートを切った名古屋グランパスから数えて8つ目のクラブとなるボタフォゴに加入したのは、タッサ・グアナバーラが大詰めを迎えていた時だった。この大会も12クラブを2つに分けるが、タッサ・リオとはグループ分けは異なっている。

 しかし、近年は低迷が続き、ゆえに強豪ではなく古豪と呼ばれているボタフォゴは、本田のデビューを前にして、1試合を残してグループリーグで敗退。フルミネンセとの最終戦でも惨敗を喫すると、アルベルト・バレンティン前監督が解任される荒療治が施されている。

 Jリーグの鹿島アントラーズ、セレッソ大阪で指揮を執った経験を持つパウロ・アウトゥオリ新監督のもとで、ボタフォゴは捲土重来を期した。しかし、救世主として期待された本田はコンディション調整や選手登録の遅れ、そしてインフルエンザ感染などでなかなかピッチに立てない。

 ようやくデビューを果たしたのは現地時間3月15日だった。タッサ・リオのグループリーグ第3節、バングーAC戦でトップ下として先発した本田は、ともに無得点で迎えた前半28分に味方が獲得したPKのキッカーを託され、緊張する素振りすら見せずにゴール左隅へ突き刺してみせた。

 無観客で行われたデビュー戦で幸先のいいスタートを切った直後に、猛威を振るっていた新型コロナウイルスの影響を受けて、ブラジル国内のすべての公式戦が中断した。アスリートとしては試合がしたいはずだ。来夏に延期された東京五輪へ、オーバーエイジでの参戦を公言し続けている本田としては、ブラジルの地で健在ぶりを示して、東京五輪に臨む代表チームを率いる森保一監督にアピールしたい気持ちが強いだろう。

 しかし、リオデジャネイロ市内で自宅待機しながら、個人トレーニングでコンディションを維持している最中でも、ブラジル国内における爆発的な感染拡大は止まらない。感染防止対策よりも経済施策を最優先として掲げる、ジャイール・ボルソナーロ大統領の存在が状況の悪化に拍車をかけていた。

 新型コロナウイルスを「ちょっとした風邪」と位置づけ、公の場でもマスクを着用しないボルソナーロ大統領は大のサッカー好きとしても知られる。公式戦の再開を強く要望する同大統領の意向に追随するような流れが生まれた5月下旬あたりから、本田は英文のツイートを頻繁に投稿している。

『Please don’t be optimistic. stay safe』(状況を楽観視しないように。安全第一でいこう)

『Covid-19, we have not seen peak here yet, have you?』(新型コロナウイルスに関しては、ここ(ブラジル)ではまだピークを見ていませんよね?)

若かりし頃と変わらぬ熱さ

 実際に他の州や地域に先んじて、リオデジャネイロ州サッカー連盟がタッサ・リオの再開を決めた事態を受けて、日本時間先月17日深夜から翌朝にかけてはさらに怒気が伝わるつぶやきを連投した。

『Are you sure to start the league next week?』(来週からリーグ戦を再開させる気なのでしょうか)

『Am I crazy that I want to know a logical reason why we start the league?』(リーグ戦を再開させる論理的な理由を知りたい、と思っている私は狂っているのでしょうか)

 本田は個人的な思いを先走らせていたわけではない。命の危険にさらされ、実際に感染者だけでなく死亡者数も激増していたブラジル国内では、新型コロナウイルスという未知の敵を前にして、何よりも国民の安心安全を重視するべきではないのか、という世論も強かった。

 例えば文中に“crazy”がつづられたツイートには、動画投稿サイト「YouTube」で人気を博した新星コメディアン、フェリペ・ネトが和訳すれば次のようになるポルトガル語のリプライを送っている。

「いいえ、あなたは狂ってはいません。あなたは狂った犯罪者によって統治された国にいます」

 実はボタフォゴも、フルミネンセとともにタッサ・リオの早期再開に異を唱えるスタンスを取っていた。アウトゥオリ監督はブラジルメディアでリオデジャネイロ州サッカー連盟へ批判的なコメントを展開したとして、現地時間6月28日の再開初戦を前にして、15日間の活動停止処分を科されている。

『I heard that Pauro is suspended for a few weeks. Why? He just said his opinion but I think that he was right. Where is freedom of speech?』(パウロに数週間の活動停止が科されたと聞いた。なぜなのか。彼は自分の意見を言っただけであり、なおかつそれは正しかった。言論の自由はどこへ行った?)

 指揮官に下された異例の処分に英文で抗議した本田は、タッサ・リオのグループリーグ第4節、カボフリエンセ戦からキャプテンを拝命。約3カ月半ぶりとなる公式戦でボランチとして先発フル出場を果たし、6-2で快勝した夜には一転してユニークな英文も投稿している。

『It's tough for me to sleep after game』(試合を終えた後は眠るのが大変だ)

 中断されていた間の6月13日に、本田は34歳になった。再開が決まった以上はアスリートとして目の前の一戦に闘志を高ぶらせ、余韻が残る形で寝つけなくなる若かりし頃と変わらない姿。そして、家族を持つ一人の人間として何よりも命を尊ぶ思い。2つの感情の間で何度も揺れ動いている心境が、一連のツイートから伝わってくる。

コロナの猛威に翻弄されるブラジルサッカー

 いずれにしても、ブラジルにおける本田の最初の戦いとなるリオデジャネイロ州選手権は不完全燃焼の形で幕を閉じた。次なる照準はブラジル全国選手権だ。サンパウロなど他州の強豪も含めた、20クラブがホーム&アウェイ方式で頂点を争う最高峰の戦いは本来ならば5月に開幕する予定だった。

 これが州選手権と同様に新型コロナウイルスの影響を受けて、現時点では開幕が8月上旬にずれ込むことが公表されている。しかし、リオデジャネイロ州以外では州選手権も依然として中断されている状況に加えて、現地時間7日にはボルソナーロ大統領が新型コロナウイルスに感染したことが発表された。

 ブラジルではこれまでに約160万人が新型コロナウイルスに感染し、約6万5000人もの犠牲者が出ている。経済振興を最優先させる旗振り役を担い、国内の慎重派や世界各国を白けさせてきた大統領自身が感染者となったことで、予断を許さない今後がさらに顕著になったと言っていい。

 今後の予定の中には、昨シーズンにおいて20クラブ中で15位と、ボタフォゴがかろうじて1部に残留した全国選手権ももちろん含まれる。これまでに対戦したバングーやカボフリエンセは、全国選手権では下部リーグの所属だった。救世主として崇められる本田の真価が初めて問われてくる、強豪クラブ勢との戦いが実現するかどうかも含めて、ブラジルに新天地を求めた本田の運命は新型コロナウイルスに翻弄されていく。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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