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コロナ禍の今夏は熱中症リスクが高まる?「夏のマスク問題」を医師が解説

2020年06月26日 06時00分更新

文● 〆谷直人,羽根田真智(ダイヤモンド・オンライン

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今年の夏は、いつも以上に熱中症リスクに注意する必要があります Photo:PIXTA

6月9日、各地で真夏日を迎えた。気象庁によると、全国921の観測点のうち、最高気温30度以上の真夏日となったのは、323地点。35度以上の猛暑日となったところも6地点あり、最高気温は福岡県太宰府市の35.6度。最高気温35.4度を記録した島根県出雲市などは、6月の観測史上最高を更新したことになる。今後、注意しなければならないのが、熱中症だ。特に今年は新型コロナウイルスの影響で、マスク着用や在宅勤務などが日常となり、いつもの夏とは違った生活環境下に置かれる。「ウィズコロナ」を意識した令和2年版の熱中症対策を、国際医療福祉大学熱海病院検査部長の〆谷直人医師に聞いた。(聞き手/ライター 羽根田真智)

外出自粛で暑さに慣れていない人も…
いつも以上に熱中症リスクに注意

――6月9日、東京都では初の真夏日を迎え、熱中症が疑われる症状で救急搬送された人もいました。2018年6~9月の熱中症による救急搬送人員数を見ると、最も多いのは7月ですが、6月末も少なくありません。

〆谷直人(しめたに・なおと) 国際医療福祉大学熱海病院検査部・部長 北里大学医学部医学科卒業。同医学部臨床病理学専任講師、獨協医科大学越谷病院臨床検査部准教授を経て、現職。2020年1月より、日本臨床検査専門医会会長を務める。

 私たちの体には、体が暑さに慣れる「暑熱順化」という機能が備わっています。暑さにさらされたとき、体温が上昇し過ぎるのを防ぐため、体は発汗反応と皮膚血流反応によって熱を体の外へ逃します。これによって暑さに対して楽に過ごせるようになり、熱中症を起こしにくくなります。

 ところが気温が上昇し始める6月は、暑さに体がまだ慣れておらず、暑熱順化がスムーズに機能しにくいのです。そのため7~8月よりも平均最高気温が低めであるにもかかわらず、6月に熱中症を起こす人が少なからずいるのです。

 さらに今年は外出自粛で、3月以降、多くの人が家からほとんど出ずに過ごしています。体を動かす機会が減り、汗もかいていません。つまり暑熱順化ができるまで例年よりも時間がかかることが予想されるのです。いつも以上に熱中症リスクが高いと考えておいたほうがいいでしょう。

 もう一つ、6月に熱中症が多い大きな要因としては、8月の真夏と比べて、熱中症に対する危機意識が低いことも挙げられます。この時期、「気が付いたら今日は暑かった」となりがちですが、暑いと感じたときから熱中症対策をするのでは遅いのです。熱中症が命にかかわる重篤な病気であることを認識し、早め早めの対策を講じるべきです。

運動・お風呂・冷房温度
暑さに慣れる3つの方法

――暑さに強い人がいれば、弱い人もいます。

 家で過ごす時間が長いと、暑熱順化が鍛えられず、どうしても暑さに弱くなります。暑熱順化は鍛えられます。「暑さに強い人」になるために、ぜひ「暑熱順化を鍛える方法」を実践してみましょう。

 具体的には、「やや暑い環境」で「ややキツイと感じる運動」を1日30分ほど行うのです。これによって汗をしっかりかくようになり、皮膚の血流も増加します。運動というと気後れしてしまう人も、早歩きを3分間したら、ゆっくり歩くのを3分間繰り返す方法であれば、トライしやすいのではないでしょうか。もちろん、ウオーキングやジョギング、自転車に乗るなど、汗をかきながら行える方法であれば、どれも有効です。

 運動時には、たとえ30分という短い時間であっても、ペットボトルや水筒を携帯し、こまめに水分補給をしながら行ってください。最近は、ヨガやストレッチ、ダンスなどのレッスンを自宅にいながらオンラインで受けて汗を流す人も増えています。自宅ということから水分補給が滞りがちですが、スポーツジムなどで受けるときと同様、水分を十分に取ってください。また、高温多湿の環境下や体調が優れないときには運動は避けてください。

――汗といえば、お風呂に漬かって汗をかく方法もあります。

 運動以外の暑熱順化を鍛える方法として、入浴も非常に有効です。夏はシャワーだけで済ませてしまいがちですが、しっかりお風呂に漬かって体を芯から温め、汗をじっくり出すようにしましょう。お風呂上がりはエアコンの冷房が効いた部屋で急激に体温を下げるのではなく、うちわなど自然の風で汗を蒸発させ、気化熱で体温を下げるようにします。入浴の前後にミネラル(塩分)と水を含む飲料をしっかり取ると、汗が出やすくなるので、より効果的に暑熱順化を鍛えられます。

 さらには、クーラーの設定温度を高めにすることも、暑熱順化を鍛える上で大事です。環境省が推奨する冷房の目安は28度です。昨今の日本では、この冷房温度では暑いと感じるかもしれませんが、カーテンをすだれに代える、よしずで窓から入る日光を遮る、気温が下がる朝夕のタイミングで室内に外気を取り入れるなどの工夫で、冷房温度が28度でも快適に過ごせるようになります。ただし、ここは間違えないでいただきたいのですが、冷房は適切なタイミングで使うこと。特に高齢者の中には、冷房が体に悪いと思い我慢する傾向があります。暑熱順化を鍛えるどころか、熱中症を起こしてしまいかねません。

なぜ「マスク着用」が
熱中症リスクを高めるのか

――マスク着用が熱中症のリスクを高めるとも聞きます。

 人間は通常、体温より低い温度の空気を吸い込み、それを鼻や肺の中で温めてから息として体外に出しています。空気が体内の熱を奪い、体が冷やされるのです。マスクを着けていると、吐いた息がマスクでブロックされたり、マスク内で温まった空気を吸ったりし、体が熱を持ちやすくなります。そのため、マスクを着けていないときよりも熱中症を起こしやすくなるのです。

 また、マスクを着けていることで呼吸に負担がかかり、肋間筋や横隔膜を必要以上に働かせてしまいます。運動をしているときと同じ状態になるので、体温が上がり、熱中症のリスクが高まります。

 さらには、マスク着用で無意識に水分補給の機会が減ってしまうこと、マスクによって喉の渇きに気付きにくくなることも、熱中症のリスク上昇につながります。

 厚労省は、屋外で人との距離が2メートル以上離れている場合はマスクを外すよう、呼びかけています。先ほど、暑熱順化を鍛えるには「ややキツイと感じる運動」が必要と述べましたが、ウオーキングやジョギングをするときは、それが人との距離を取りやすい環境であるなら、熱中症対策のために、マスクを外して行うことをお勧めします。

熱中症予防3つのポイント
空気の入れ替えもこまめに

――改めて、一般的な熱中症対策について教えてください。

 予防策として、主なポイントは3つあります。

 まず、こまめな水分補給です。喉が渇いたと感じたときに水分を取るのでは手遅れです。また、一気に水分を取っても、体内にすべて吸収されません。喉が渇く前に、少しずつ水分を取ってください。日常生活では水で問題ありませんが、スポーツなどで大量に汗をかいた場合は、水だけでは汗で失われた塩分が補給されません。塩分や糖分を含むスポーツドリンクがいいでしょう。ただし、飲み過ぎると肥満や糖尿病のリスクを上げるため、気を付けてください。

 次に、バランスのいい食事としっかりした睡眠です。熱中症にかかりにくい丈夫な体を作るのです。暑くて寝苦しいときは、通気性や吸水性のいい寝具を使い、冷房や扇風機を適度に使って睡眠環境を整えましょう。ぐっすり眠れて翌日の熱中症を予防すると同時に、寝ている間の熱中症も防ぎます。

 さらに、「いま自分のいる環境がどのような状態なのか」を知る。これは忘れてはいけないポイントです。たとえば、室温が高ければ、冷房や扇風機で適度に下げる。「この程度の暑さなら大丈夫」「節電しなくては」などと我慢してはいけません。反対に、冷房が効いた涼しい部屋だけで過ごし、汗をかかない生活を送るのもよくありません。衣服は麻や綿など通気性のいい生地のものを、下着は吸水性や速乾性に優れたものを選びます。冷却グッズも大いに活用しましょう。冷却グッズで首筋など太い血管が体の表面を通っているところを冷やすと、効率よく体を冷やせます。

――真夏になると、夕方になっても気温が下がらず、1日中窓を閉めっぱなしになりがちです。

 コロナ対策としては、冷房で部屋を冷やしていても、1時間置きに5分くらいの目安で窓を開け、部屋の空気を入れ替えることをお勧めします。家庭にある一般的なエアコンは、外気を部屋に入れるような循環機能は付いていません。部屋の空気が流れているからといって、換気をしているわけではないからです。

熱中症の発生場所、最多は屋内
在宅ワークの水分補給は基本「水」に

――熱中症にかかったことがなく、どういった症状であれば病院に行くべきか分かりません。

 熱中症の症状は、軽度であれば「めまい」「頭痛」「筋肉痛」「ふくらはぎのけいれん」「あくび」など。中等度になると「手足に力が入らない」「疲労感や倦怠(けんたい)感」「軽度よりひどい頭痛」「吐き気・嘔吐(おうと)」「集中力や判断力の低下」「意識がもうろうとする」などがあり、重症度では「意識障害」「人の呼びかけに反応しない」「フラフラして歩けない」「けいれん発作」などがあります。

 もし、身近にいる人に重症度のような症状が見られれば、迷わず救急車を呼んでください。命にかかわる危険性があります。救急車が来るまでは、できるならば風が通る涼しいところに患者さんを移し、衣服を緩め、両側の首筋、わきの下、足の付け根を氷や保冷剤、冷たいペットボトルなどで冷やします。タオルやうちわなどであおぎ、風を送ってください。水分は、意識がある場合のみ、飲ませます。

 意識がなかったり、嘔吐したりしているときに無理に飲ませると、水分が気道に入る可能性があるのでやめてください。なお、水分は体内に吸収しやすい経口補水液やスポーツドリンクがベストですが、手に入らなければペットボトルの水で構いません。

 軽症や中等度のような症状では、まずは体を冷やし、水分補給をします。それでも回復が見られなければ、救急車を呼ぶか、医療機関をすぐに受診してください。

 熱中症は命にかかわる病気です。最初は「なんとなく体がだるい」「夏バテで調子が悪いのかな」と思う程度の、ほんのわずかな違和感かもしれません。しかし放置しているうちに、どんどん悪化していくことは珍しくないのです。必要となれば、119番への連絡を躊躇しないでください。

――熱中症について、誤解されがちなことはありますか?

 熱中症というと、屋外で起こすイメージが強いかもしれません。しかし、熱中症の発症場所で最も多いのは「屋内」です。2018年の場所別救急搬送人員の統計(消防庁)では、「住居40.3%」「屋内9.2%」と、実に半数が屋内で熱中症を起こしているのです。屋外にいるときはこまめに水分補給を心掛けている人も、屋内ではその意識が抜け落ちてしまうのでしょう。

 今夏は積極的にレジャーに出かけず、3密を避けるために自宅で過ごす人が多いと思います。テレワークが続いている人もいます。自宅であっても、こまめに水分を取ってください。この場合、基本は水。カフェインを含むお茶やコーヒーは利尿作用があり、脱水症状を引き起こしやすく熱中症のリスクを高めます。ビールなどのアルコールは論外です。心臓病や腎臓病などがある人は、過剰な水分摂取が心臓、腎臓に負担をかける恐れがあるので、主治医に熱中症対策のための水分摂取についてあらかじめ相談してください。

――若くて体力があれば、熱中症くらい乗り越えられる気がします。

 過信は禁物です。熱中症は誰にでも発症する可能性があり、重症化する恐れがあります。頑健な肉体を持つトップアスリートも、しっかりした熱中症対策を行っているからこそ、真夏でもトレーニングを行えるのです。

 ただし、やはり熱中症になりやすく、重症化しやすい人がいます。体内の水分量がもともと少ない高齢者は熱中症を起こしやすい上に、異常があっても気付きにくい傾向があります。トイレの回数が増えるのを心配して水分摂取を控えたり、冷房を嫌がったりする面もあります。老親には、熱中症対策として水分摂取がいかに大切かを伝えてください。もし老親が2人暮らし、または1人暮らしで、コロナの影響で帰省も控えているという場合は、電話やメール、SNSやビデオ会議システムなどあらゆる手段を用いて、メッセージを伝えるべきです。

 また、子どもも熱中症にかかりやすいです。体温調整機能や発汗作用が成熟しておらず、身長が低いため地面からの照り返しの影響を強く受けるからです。自ら異常をうまく訴えられず、親が「こまめに水分摂取を」と言っても、遊びに夢中になると忘れてしまいます。親が水分摂取に気を付けるしかありません。「喉が渇いた」と子どもが言う前に水を飲ませ、少しでも異変が見られればすぐに体を冷やすなどの熱中症対策を講じてください。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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