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コロナ対応の金融緩和の陰でマイナス金利政策の「骨抜き」と「延命」を図る日銀

2020年06月24日 06時00分更新

文● 鈴木明彦(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

コロナ対応の企業金融支援
銀行の日銀預金にプラス金利

 新型コロナウイルス危機への対応で、日本銀行はかつてない企業の資金繰り支援の枠組みを打ち出した。

 中でも緊急対策で打ち出された「無利子無担保」融資と一体で運営される企業金融支援策は、融資を行う金融機関に融資額を上限に日銀が無利子融資をしたり、金融機関の持つ日銀当座預金に0.1%の付利をつけたりするなどの“優遇策”で、貸し出しを増やそうという狙いだ。

 これによって、日銀の新型コロナ対応特別オペレーションの規模は一気に拡大した。

 その一方で、日銀が、金融機関の当座預金残高の一部を対象にしているマイナス金利が適用される残高はますます少なくなる。

 金融機関の収益を圧迫している元凶などと、評判が良くないマイナス金利政策を新型コロナの対応のもとで、じわりじわり形骸化していこうと考えているようにみえる。

マイナス金利政策を
生かす気はもとからなかった日銀

 日銀は、2016年1月にマイナス金利政策の導入を決定したが、2%物価目標は実現できないばかりか、利ざや縮小で収益悪化に苦しむ金融機関から経営に与えるマイナスの影響を指摘されるなど評判は今一つだ。

 日銀内でも導入当初から、マイナス金利政策の問題点が認識されていたようだ。

 マイナス金利が適用される政策金利残高を一定水準にとどめるなど、マイナス金利政策を積極的に展開していこうという気はなかったようだ(図表1)。

 マイナス金利政策導入後の日銀当座預金は付利される金利によって、政策金利残高(マイナス0.1%)、マクロ加算残高(0%)、基礎残高(プラス0.1%)の3層構造に分かれ、当初からその副作用を抑制できるように、政策金利残高は日銀の裁量で管理できるような構造になっていた。

 具体的には、マイナス金利政策スタート時の日銀当座預金は、導入以前の2015年積み期間の平均残高(約220兆円)については、基礎残高として固定され、大半が+0.1%の付利がなされていた。

 日銀の国債買い入れや銀行の貸し出しによって上積みされる日銀当座預金の増加分については、マクロ加算残高と政策金利残高に配分されることになったが、その配分の仕方は日銀の裁量に任されていた。

 日銀は、マクロ加算残高を増やしていくことによって、政策金利残高を一定水準に抑えてきたのだ。

マクロ加算残高を増やし
政策金利残高を抑える“工夫”

 マクロ加算残高の算出方法は複雑だが、ここにも3層構造が存在する(図表2)。

 まず、第1層は金融機関が準備率に基づいて預金残高の一定部分を日銀に預ける日銀当座預金の本来の姿である所要準備預金残高だ。

 この残高は現在11兆円ほどだが、銀行に預けられる預金の増加に伴って徐々に増えている。 

 これに、熊本地震(2016年4月)など災害による被災地金融機支援のためのオペレーションや、今回決まった新型コロナ関連の金融支援特別オペレーションに基づく金融機関の日銀からの借入残高(金融機関から企業への貸出残高)などの第2層が加算される。

 特に、熊本地震関連と新型コロナ対応特別オペでは、金融機関が貸し出した残高の2倍に相当する額をマクロ加算残高に加えることができるようにした。

 これは日銀当座預金の拡大以上にマクロ加算残高を増やすことによって、政策金利残高の増加を抑える役割を果たした。

 そして上記の2つ以外の第3層として、基礎残高に「基準比率」を掛けて算出するマクロ加算額が加わる。

 日銀はこの「基準比率」を積み期間ごとに変更することによって、マクロ加算増加額を操作することができた。

 具体的には、図表2に示したように、日銀はマイナス金利政策の導入以降、「基準比率」を徐々に引き上げることによってマクロ加算残高を増やし、一方でこれによって政策金利残高を一定水準に保つことをしてきたのだ。

今はマイナス金利政策を
やめる気はない日銀

 新型コロナ対応特別オペの枠は現在90兆円程度であり、金融機関による企業向け貸し出し(日銀からの借り入れ)の実績が上がってくると、マクロ加算残高の第2層が大幅に増えることになる。

 もちろん、日銀当座預金の総残高を超えてまでマクロ加算はできないが、それでも政策金利残高を限りなくゼロに近づけることができる。

 もしそうなれば、マイナス金利政策は終わったということになるわけだ。

 だが5月の準備預金積み期間の日銀の対応を見ると、今は日銀にその気はないようだ。

 日銀の発表によると、新型コロナ対応特別オペの貸出残高は6月10日時点で約16兆円と見込まれ、4月27日時点の見込み約4兆円に比べて12兆円増加している。

 これが2倍加算されたことで、マクロ加算残高の第2層は21兆円強増えている。このうち政策金利残高を抑制する効果を持つのは、日銀当座預金残高の増加を超えたマクロ加算残高の増加となる12兆円程度と推測できる。

 一方で、同じ積み期間のマクロ加算残高の第3層は、基準比率が36.5%から30.0%に引き下げられたことで、14兆円強(220兆円×6.5%)減少し、政策金利残高を増やすことになっている。

 結果的に5月は、マクロ加算残高の第2層と第3層の相反する変動の結果、政策金利残高は小幅だけ増加することになった。

 日銀の現状の政策スタンスは、基準比率を下げることによって、新型コロナ対応によるマクロ加算残高の急増を抑え、政策金利残高の水準があまり変動しないようにさせることのようだ。

生かさぬよう殺さぬよう
金融市場の混乱恐れる

 今後の日銀の対応はどうなるのだろうか。

 新型コロナ対応特別オペの総枠90兆円のうち16兆円はすでに使われており、今後74兆円が新たな借り入れとして発生して、マクロ加算残高に2倍加算される。これは、政策金利残高を同額抑制させる効果を持つ。

 一方で、基準比率をゼロ%まで下げれば、今のマクロ加算額67兆円をゼロまで減らすことができ、政策金利残高を同額増やす効果がある。

 74兆円と67兆円を比べれば、政策金利残高を減らす効果の方が若干勝っているが、現在26兆円ある政策金利残高がゼロになるということにはならないだろう。

 つまりは、日銀は、マイナス金利政策を終わらせることもできれば、続けることもできる。

 ちなみに、6月の積み期間の「基準比率」は28.5%なので、前月からのマクロ加算の第3層の減少額は3.3兆円(220兆円×1.5%)にとどまる。新型コロナ関連の借り入れが前月並みに増加しているとすると、政策金利残高はかなり減少することになるだろう。

 だがそれでも、日銀は7月以降は政策金利残高の大幅減少を回避しようとするのではないか。

 政策金利残高がゼロになりましたから、マイナス金利政策は終了しますというわけには、さすがにいかないだろう。突然、マイナス金利政策をやめるなどと表明したら、為替や金利など金融市場が混乱することは必至だからだ。

 日銀は、当面はマイナス金利政策を生かさぬよう殺さぬよう続けていくほかはない。

終わらせる準備しながら
形だけ延命を図る

 だが、もともと抑制的に運営されてきたマイナス金利政策が、新型コロナ対応によって一段と実体がなくなってきたのは間違いない。

 まず、総額90兆円になるかもしれないオペレーションに伴う金融機関の借入残高見合いで+0.1%の付利がなされる。一方で政策金利残高が26兆円程度で、さらに減少しそうなことを考えれば、マイナス金利政策を続けていると胸を張って言える状況ではない。

 同時にマイナス金利政策はますます分かりにくい構造になってくる。

 0.1%のプラス金利が付与される基礎残高は220兆円で固定されているが、これは新型コロナ対応に基づく+0.1%の付利は、日銀当座預金の3層構造とは関係なく行われているからだ。

 付利が行われるのは新型コロナ対応特別オペ関連の金融機関の借入残高見合いなので、日銀当座預金の3層構造の中のマクロ加算残高の一部に付利されるということになり、ゼロ金利であるはずのマクロ加算残高のかなりの部分に対して、実は+0.1%の金利がつくことになる。

 こうした状況を考えると、マイナス金利政策は、新型コロナ対応が始まったことによって、一段とその実体がなくなってきている。

 もはや、マイナスの政策金利を掲げることは、それに伴って無担保コール市場でマイナス金利での取引が成立するという、マイナス金利政策を“演出”する役割以外には存在意義がなくなっている。

 日銀は、マイナス金利政策を、実質的に骨抜きにして、いつでも終わらせる準備をした上で、形式的な延命を図っているといえよう。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹 鈴木明彦)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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