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コロナ専門家会議では、怒鳴り合いの激論が交わされていた 岡部信彦・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議委員・川崎市健康安全研究所長インタビュー(下)

2020年06月23日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,鈴木洋子(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:Jun.Takai/photocompany

第1波が終息しつつある新型コロナウイルス。6月22日発売の「週刊ダイヤモンド」の特集「医者&医学部 最新序列」では、コロナ禍を経た医療現場の状況を詳報している。感染症専門医や公衆衛生の専門家が抱える課題や、日本の新型コロナ対策についての課題を、政府専門家会議委員の岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長に聞いた。前編に続く2回目をお送りする。(聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

日本の感染症対策で史上初めて使われた西浦教授の「数理モデル」

――専門家会議での議論はどのような形で進められていたのでしょうか。クラスター班の西浦博・北海道大学教授の発言がしばしば話題になりました。

 西浦さんは専門家会議の委員ではないですが、委員長が必要と判断して第1回目会議から来てもらっている、ほぼレギュラーのメンバーです。クラスターチームには西浦さんの教室の研究者が参加し実務作業を担当しています。彼の数理モデルはいろんな批判があったけど、少なくとも日本の感染症対策で数理モデルを見ながら対策をやったのは、今回が歴史的に見ても初めてでした。

 一方で、専門家会議には防衛医科大学校の川名(明彦教授)さんをはじめ臨床の先生も常時参加して、異なる分野でコラボレーションをしてきました。現在のメンバーの意見は一枚岩ではないです。土日を含み週何回も行ってきた自主的な勉強会では、それこそ怒鳴り合いの白熱した議論になりました。それらの議論を踏まえて、尾身(茂・地域医療機能推進機構理事長)さんと脇田(隆字・国立感染症研究所所長)さんが結論を出す。出来上がったものはコンセンサスを経ている内容です。

――今後専門家会議に必要なものは。

 途中から諮問委員会には入っていただいているのですが、経済の専門家です。

 この新型コロナウイルスによる病気は、医学的な意味での病のみならず、社会・経済全体に対する病になってしまいました。医学的なことは、われわれも提言をしてバランスを取りながらある決定をしなければならない。しかし、トータルの意味での病に対処し、現在の状態を修復していくには、経済的なことに関しては素人の医師の力では何もできない。いろんな分野の人が関わっていく必要があります。

 この病により社会や経済が壊れているのを治していくのは、医師であるわれわれの手から離れた専門家の人がやるべき分野です。

――感染症や公衆衛生の専門家には海外経験が長い方が多いです。この分野の知識を得るには、やはり海外に出る必要があるのでしょうか。

 専門家会議でいうと、WHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局の出身者は確かに多いですね。尾身さんも僕も、(東北大学教授の)押谷仁さんも。年次で言うと押谷さんは僕の2代後輩に当たります。西浦さんもインペリアル・カレッジ・ロンドンなど海外経験が長い。臨床の人たちもどこかで海外病院でトレーニングを受けている人が多いです。海外は病気の種類も医療そのものも違い、土地の状況も習慣も違う。自分のところにない環境に飛び込むのはすごく大きな経験になるし、その後の自分のバックボーンにもなる。ただ、そのチャレンジを世の中が許してくれなかったり、一度行った人が戻ったらポジションがなかったりといったことがあり、改善が必要ですね。

――日本版CDC(疾病対策予防管理センター)をつくるべきだという議論もあります。

 米CDCのような組織がベストとはいえませんが、慢性の病気も扱い、病院における臨床の治療のみならず公衆衛生的な目でも知見を提供することができ、実験的な研究も支えているという意味で非常に力がある組織です。中国、韓国、台湾などの各国のCDCの活動も話題になりましたね。日本がああいう組織を持つのは難しいかもしれません。該当するのは国立感染症研究所で、僕の古巣でもありますが、もっと充実してもらいたいなとは思っています。

 また、これも2009年の新型インフルエンザの総括会議の報告書に書いてあるのですが、行政や国の感染症専門職員が、ある程度長い期間同じポストにいられるようにしてほしい。

Photo:Jun.Takai/photocompany

 例えば、感染研でFETPという実地疫学専門家養成コースをつくったのですが、そこで学んだ人たちが次のキャリアに進んでも、必ずしも学んだことが生きているわけではない。また、このコースを修了した人が保健所に行ったり行政機関に行ったりしても、そういう経験を積んだ人はすぐ人事異動で動いてしまう。

 日本の行政はゼネラリスト養成が基本方針ですが、例えば海外などでは厚生労働大臣は医師がやっていたり、官僚も同じ部署に10年間務めるエキスパートがいる。一方日本の場合、行政や国の公衆衛生の分野を担当する医系技官は、感染症を一度担当したら社会保障分野に異動したりするなど、あまり専門人材が生かされていません。今回、厚生労働省で新型コロナウイルス対策本部事務局長代理として現場を指揮した正林督章さんは新型インフルエンザのときの対策推進室長でした。もっとも、彼も環境省の審議官になっていたのを急きょ呼び戻されたわけですが。

――09年の新型インフルの総括が活かされなかった理由はなんでしょうか。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということに尽きると思います。僕は1月の段階で「新型インフルエンザの時の反省会の報告書と行動計画を見てくれ」と言ってきました。本来は、ゼロスタートではなかったはずです。同じことは二度と書きたくないです。

 何より、この病気は感染症としては「まだ生まれて1年たっていない」わけです。インフルエンザにしても肺炎球菌などにしても、病原体がわかってから何10年という歴史があり研究し尽くされている。新型コロナウイルスがどんなウイルスであるのかは、次の世代の医療人が時間をかけて解き明かしていかなければならない。根本的な解決は、現在の若手や今後医療人となって感染症と戦う人に委ねられているのです。次の世代に問題が解決されないままバトンを渡したくないですね。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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