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山本美月ら参加で話題のヘアドネーションに「悪徳団体」急増の理由

2020年06月22日 06時00分更新

文● 鶉野珠子(ダイヤモンド・オンライン

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2019年末にドラマの役作りでロングヘアをばっさりカットし、切った髪を寄付したことが話題になった女優の山本美月さん(19年11月撮影) Photo:JIJI

山本美月さんや相武紗季さんなど人気女優たちの参加で、一躍日本でも注目を浴びている「ヘアドネーション」。活動に参加する人も増えてきている半面、業界を悩ませるトラブルも増えてきているという。ヘアドネーション団体のNPO法人「Japan Hair Donation & Charity」の代表理事、渡辺貴一氏に見過ごせないトラブルの話を聞いた。(清談社 鶉野珠子)

寄付できる髪の最低限の
長さは15cm?31cm?

 近年注目が集まってきている「ヘアドネーション」。これは、寄付された髪の毛で医療用ウィッグを作り、そのウィッグを事故や病気で毛髪を失った子どもたちに無償提供する活動のことだ。

 ヘアドネーションは米国で始まり、2009年に日本でも活動が始まった。15~16年頃、水野美紀さんや柴咲コウさんといった芸能人が活動に参加。最近も山本美月さんや相武紗季さんなどが続いたことで知名度が上がり、それに比例して寄付も増えてきているという。

 しかし、知名度が上がったことで、ヘアドネーション団体には困り事も増えてきているという。日本初のヘアドネーション団体であるNPO法人「Japan Hair Donation & Charity」、通称「ジャーダック」の代表理事を務める渡辺貴一氏はこう語る。

「ジャーダックをはじめ、ヘアドネーションの団体は複数存在します。どの団体も『髪の寄付を募り、その髪で医療用ウィッグを作成し、無償提供する』という活動を行っていますが、実は提供する医療用ウィッグの種類はさまざまなんです。ジャーダックが作っているのは、頭頂部から襟足まですべてが人毛の『フルウィッグ』。設計の関係上、31cmの髪の毛でも、使えるのは半分の15cmほどです。だから、たとえば15cmの髪の毛を寄付していただいたとして、使えるのは7~8cm程度。ジャーダックが作るフルウィッグの素材に生かすことはできません」(渡辺氏、以下同)

 フルウィッグを作るには思っている以上の長さが必要となる。そのため、ジャーダックは「最低でも31cm以上の長さの髪の毛の寄付をお願いします」と呼びかけているのだが、それでも31cm未満の髪の毛が頻繁に送られてくるという。

15cm以上31cm未満の髪を
活用する方法とは

 条件外の長さの髪の毛が送られてくるのはなぜなのか。渡辺氏は「団体ごとに異なるウィッグを作っているという事実が知られていないからでは」と分析する。

「昨今ネットで『ヘアドネーションは最低15cmからできる!』という情報だけが一人歩きしてしまっています。ヘアドネーションという言葉は認知されてきていますが、詳しい内容や団体ごとの違いまでは、まだまだ浸透していないのが現実です」

 ジャーダック以外の団体のなかには、15cm以上31cm未満の髪の毛も募集している団体も存在する。だが、15~30cmの髪の毛で作られるのは、「フルウィッグ」ではなく「インナーウィッグ」。インナーウィッグは、頭頂部はインナーキャップ(帽子の下に着装するピッタリとしたキャップ)で、インナーキャップの開口部に髪の毛を縫製した、帽子と合わせた着用に適したウィッグだ。インナーキャップがある分、短い髪の毛でも素材として利用することができる。

 ネットに流布する「15cmからヘアドネーションができる」という情報自体はうそではないが、それが可能な団体とそうでない団体があることが知られていないため、適切な団体に適切な長さの髪の毛が集まらない場合があるのだ。

「ジャーダックでは、フルウィッグの素材に使用できない長さの髪の毛は、寄付者の承諾を得て転売していました。転売先はヘアケアアイテムのメーカーさんなどで、カラー剤やヘアケア剤の効果を確認する『評価毛』として役立てていただいていたのです。しかし、ウィッグの素材にできる長さの髪と、そうでない髪の仕分けは非常に時間や手間がかかります。新型コロナの感染拡大防止のために業務を一時縮小した影響で、仕分け作業がより困難となっており、本来の目的である『フルウィッグに特化した提供』のスムーズ化のため、6月1日以降にドネーションカットされる髪の毛について、31cm未満の場合は受け入れを停止させていただくこととなりました」

 評価毛の売り上げは、ウィッグの制作資金や団体の活動費に充てられていたという。制作費や活動費に代わる金銭はもちろん必要ではあるが、「髪の毛」という素材がなければ肝心のウィッグを作ることすらできないのだ。

ヘアドネーション団体をかたり
髪の毛を転売するやからも登場

 もう1つ、ヘアドネーションの知名度が上がったことで生まれた深刻な弊害がある。

「ヘアドネーションの団体や団体の関係者を装い、人毛をだまし取ろうとする悪徳団体が現れ始めたのです。ジャーダックも18年10月に、当団体になりすまして髪の毛をだまし取っている業者が存在することをFacebookに投稿し、注意喚起を行いました」

 ヘアドネーション発祥の地である米国や欧州などの国でも、ヘアドネーションの団体であるように見せかけて人々から髪の毛を集め、売りさばいているマフィアが摘発された例もある。

「人毛は元々、中国では一大産業でした。今も、昔ほどではないにせよ、貧困層の人のなかには売るために髪の毛を伸ばす人もいるほどです。最近はインドネシアやパキスタンなどに主な産地が移り、売買が行われています」

 人毛が金に換わる国は多い。そのため、海外市場への売却を目的とした悪徳団体が貴重な人毛を狙っているようだ。

「日本では髪の毛の売買は違法ではありませんが、急に『髪の毛を送ってください』と声をかけられればさすがに不審ですよね。一方でヘアドネーションは『ボランティア』という認識が広まっているので、その団体になりすまして声をかけると、相手の警戒をほどきやすくなる。悪徳業者はそこに目をつけ、ヘアドネーション団体であると身分を偽るのです」

 向上した知名度と、「誰かの役に立ってほしい」と願う人の善意を巧みに利用し、金もうけに走る不届き者が出てきているのだ。

 先述したジャーダックの事件を例にとると、こうした悪徳業者はツイッターなどのSNSで「ヘアドネーションをしたいから賛同サロンを近所で探そう」という投稿を検索する。見つかった投稿の主に「自分たちはヘアドネーション団体と関係があるので、自分たちの団体に髪の毛を送ってほしい」とコンタクトをとるそうだ。

「ジャーダックに限ったことでいえば、団体から個人に『髪を送ってください』とお願いするようなことは一切ありません。ホームページ上でも、注意していただくようアナウンスを行い、皆さんに安心して寄付をしていただけるよう努めています」

情報の透明性が信頼の鍵

 こうした団体ごとの条件の違いや不審な団体ではないかをしっかりと見極めることで、善意がきちんと生かされ、詐欺事件に巻き込まるなどのトラブルも回避できる。では、見極める際にはどんな点に注意して確認したらいいのだろうか。

「団体ホームページに記載されている情報の透明度ですね。うちでは、皆様からお送りいただいた髪の毛をどのように仕分け、加工し、ウィッグになって必要としている人の元まで届くのか、すべての工程を開示しています。ほかにも、これまでにフルウィッグをプレゼントした実績、賛同サロンの総数なども掲載し、安心して利用していただけるよう、情報はオープンにするよう心がけています」

「日本でのヘアドネーションのパイオニアとして、どなたにも包み隠さずに情報をお伝えしています」と渡辺氏は胸を張る。団体の公式ホームページに掲載されている情報の量の多さ、質の高さは安心できる団体かどうかを確かめる判断基準となりそうだ。

「ホームページ上の情報が少ない団体すべてが悪徳団体かというと、もちろんそれは違います。真っ当に活動していても、ホームページ運営に注力できていないだけかもしれませんからね。重要なことは、自分が納得できるまで団体のことを調べることです。サイトに情報がないなら団体に問い合わせをして確認するのも手です。判断する材料はサイトだけではありません」

 渡辺氏は、「人に委ねるからこそ、自分が心から信頼できる団体をきちんと探すことが大事です」と念を押す。もし、あなたの身の回りでヘアドネーションをしてみようと考えている人がいるなら、条件や、その団体が作っているウィッグの種類、どんな団体なのかのチェック念入りに行うよう、どうか伝えてほしい。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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