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巨額赤字のサガン鳥栖は存続なるか?「攻撃型経営者」竹原社長の手腕

2020年05月30日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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サガン鳥栖の竹原稔社長。元スペイン代表のフェルナンド・トーレス選手を招聘するなど、ここ数年その手腕に注目が集まっていた Photo:AFLO

2019シーズンを戦った55のJクラブのうち、昨年度決算が確定している45クラブの経営情報がJリーグから先行開示された。19ものクラブが計上した単年度赤字の中で、突出した金額でサッカー界に衝撃を与えたのがサガン鳥栖だ。20億1400万円はクラブ史上だけでなく、情報が公開されている05年度以降のJリーグの歴史上でも群を抜いている。竹原稔社長の口から「存続危機」という言葉まで漏れた、鳥栖を取り巻く状況と今後を追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

クラブ史上最悪の赤字転落

 赤字を計上しているJクラブは少なくない。Jリーグから27日に開示された経営情報では、19年度決算が確定した45クラブのうち、19ものクラブの当期純利益がマイナス、つまり赤字だった。その中でも文字通り桁違いの赤字に陥ったサガン鳥栖はどうしても目立つ。

 計上された20億1400万円もの単年度赤字は、クラブ史上最悪の額となるだけではない。全クラブの経営情報が開示されている05年度以降において、同年度のヴィッセル神戸が計上した10億5400万円をはるかに上回る、Jリーグ史上で最も巨額かつ不名誉な赤字となってしまった。

「天文学的な赤字を出しているので、存続危機という言葉が似合うのか、明日はあるのかという感じですけれども、これも経済だと思っています。サガン鳥栖というクラブが生き残っていくことを最大の目標に据えて、すべての可能性を模索していきたい」

 19年度決算が承認された、4月下旬の定時株主総会を終えた直後。鳥栖を運営する株式会社サガン・ドリームスの竹原稔社長は、オンラインで実施された記者会見で、神妙な表情を浮かべながらも、クラブ存続を前提に必死に前を向いていた。

 鳥栖の赤字は今に始まったことではない。18年度決算でも5億8100万円の赤字を計上していた。しかし、今回は危機のレベルが違う。経営状態がここまで悪化したのはなぜなのか。

 端的に説明すれば激減した収入に対して、本来は切り詰めるべき支出が逆に増えてしまったからに他ならない。

 例えば収入にあたる営業収益を比較すると、クラブ史上で最高額を記録した18年度の42億5700万円から2019年度は25億6100万円へと激減。一方の支出にあたる営業費用は、43億9300万円から44億5900万円へわずかながら増えた。これでは巨額赤字は避けられない。

波乱万丈の経営者人性を歩む竹原社長

 営業収益は入場料収入とスポンサー収入を二本柱としている。このうち前者は6億7800万円から7億6000万円へ増えたのに対して、後者が22億9600万円から8億1000万円へ大きく目減りしたことが経営を大きく揺るがせた。相次いだスポンサーの撤退に対応できなかったわけだ。

 責任企業となる親会社を持たず、ホームタウンの佐賀県鳥栖市の人口約7万3000人は、全56クラブの中で最も少ない。さまざまなハンデを背負う、地方クラブの鳥栖の急成長をアシストしてきたスマホゲームの大手、株式会社Cygamesが昨年1月末にスポンサーから撤退した。

 東京都渋谷区に本社を置くCygames社と鳥栖を結びつけたのは、佐賀県伊万里市生まれの渡邊耕一代表取締役社長を、サッカーを介して佐賀県全体を元気にしたい、と口説き落とした竹原社長の熱意だった。15年7月に結んだスポンサー料は、年間で5億円(推定)とされてきた。

 実は渡邊社長も反対する取締役たちを必死に説得し、鳥栖を支援した経緯があった。しかし、親会社の株式会社サイバーエージェントがFC町田ゼルビアの筆頭株主となった関係で、グループ全体を挙げて町田を支援する流れができた中で、Cygames社も撤退決断を余儀なくされたのだろう。

 加えて、世界中を驚かせた元スペイン代表のストライカー、フェルナンド・トーレスの加入に伴い、18年夏に獲得した新規スポンサー3社が、トーレスが電撃引退した昨夏以降に相次いで撤退。新たなスポンサー獲得を目指すも交渉が不調に終わったと、竹原社長は舞台裏を明かしている。

「ここ数年来、スポーツに興味を持つ150社ぐらいの上場企業と交渉すべく、東京や大阪を含めたさまざまな都市で営業活動をしました。しかし、スポーツの力を信じる経営者は多いものの、なぜ鳥栖なのかというストーリーをともに描くことが難しかった。佐賀を全国へ発信することにトライしてきましたが、ギャップを上手く克服できませんでした」

 営業収益が激減した一方で営業費用の大半を占めるチーム人件費、つまり監督やコーチ陣、そして選手たちの年俸総額は26億7000万円から25億2800万円と微減にとどまった。もっとも、8億円(推定)といわれたトーレスの年俸だけが大きく影響していたわけではない。

「ビッグスポンサーと出会い、一度優勝しよう、というフェーズに乗った中でチーム人件費をどんどん上げてきました。複数年契約を結んだこともありますし、あるいは期限付き移籍ではなく完全移籍で選手を獲得した際に発生した移籍金の償却に、2018年度と2019年度が費やされました。その間にスポンサーが撤退した状況に、チーム人件費が追いつきませんでした」

 こう振り返る竹原社長は、自らを「攻撃型の経営者」と呼ぶ。大阪・北陽高サッカー部の一員としてインターハイを制した経験を持つが、進学した大学を中退。ホテル勤務などを経て24歳で佐賀県へ移り住み、36歳だった1996年に株式会社ナチュラルライフを設立した。

 同社が展開する「らいふ薬局」は、今では九州から北陸、関西、そして関東でも店舗を構える。見ず知らずの地で競合他社の多い事業を裸一貫で立ち上げ、県外にも乗り出したタフネスさは非常勤役員を務めた縁で、11年5月から現職に就いた鳥栖の経営規模をも拡大させてきた。

 もっとも、攻撃に特化してきた分だけ状況を見誤り、リスクマネジメントが疎かになっていた部分は否めない。スポンサーの撤退とともに、強気の経営にもたらされるマイナス部分が広がる。初タイトル獲得を合言葉に集めた選手たちの年俸総額が、ついに経営を逼迫させる事態を招いてしまった。

身の丈の経営でも厳しすぎる環境

 こうした鳥栖の状況を、実際にJリーグはどう見ているのか。Jリーグは12年度からクラブライセンス制度を導入し、競技、施設、人事体制・組織運営、法務、財務の5分野でさまざまな基準を設定。毎年行われる審査を経て、各カテゴリーを戦うために必要なライセンスを付与してきた。

 特に財務面では3期連続の単年度赤字を計上するか、あるいは一度でも債務超過に陥った時点でライセンスが失効し、J3もしくはJFLへの降格を余儀なくされる。巨大赤字を含めた2期連続の赤字を計上した鳥栖だが、借金を抱えているわけではない。竹原社長をして「大規模な」と言わしめた増資を行った結果として、純資産は2100万円を計上。債務超過は免れていることが分かる。

 Jリーグのクラブライセンス事務局は最低でも年に3回、各クラブと財務状況を確認し合っている。ゆえに鳥栖が計上する巨額な赤字も事前に把握していたのだろう。クラブライセンス事務局の村山勉マネージャーは、経営情報を開示した27日のメディア説明会でこんな言葉を残している。

「経営が破綻しないようにチェックしてきた中で、増資の計画についてはコミュニケーションが取れていました。最終的には債務超過に陥っていないので、コメントを申し上げることはありません」

 財務ルールの3期連続の単年度赤字に関しては18年に、連続赤字の最終年度における赤字額を純資産の残高が上回っていれば抵触しないと改定された。つまり鳥栖が今年度も赤字を計上したとしても、ライセンスを失う事態は生じない可能性もある。

 加えて、2月下旬から公式戦を長期中断させるなど、猛威を振るってきた新型コロナウイルスが、今年度に限っては考慮される特例も決まった。3期連続の単年度赤字および債務超過が新型コロナウイルスの影響を受けていると認められれば、財務ルール違反にはカウントされない。

 今シーズンに限っては下部カテゴリーへの降格なしも決まっている。定時株主総会の直後にオンライン形式で開催されたサポーターズミーティングで、竹原社長は時に涙ぐみながらパソコンやスマホの画面越しに頭を下げている。財務に関する新たなルールや特例に甘えるつもりは毛頭ないようだ。

「J1で戦うために背伸びをして、ご心配をおかけした事実を見つめ直して今後につなげたい。人件費を削って、よくご指摘される身の丈に合った経営で確実な未来を築けるようにしたい」

 言葉通りにオフには16人もの選手が引退または退団。結果としてチーム人件費を半分以下となる、11億6900万円にまで圧縮した予算を編成した。08年からユニフォームの胸のスポンサーを務めてきたDHCも1月で撤退した中で、それでもスポンサー収入を前年度より多い9億5500万円で組んでいる。

「いかなる手段を取ってでも、クラブを存続させるために全力で努力をする。それが市中銀行から受ける融資なのか、さまざまな寄付なのか、クラウドファンディングなのか、あるいは新しい試みなのか。サガン鳥栖が持つ存在意義にかけて、最善を尽くして生き残っていくことしか考えていません」

 努めて前を見すえた竹原社長は、今年度予算が1200万円の黒字を見込んでいることも明かした。

 しかしながら、厳しい現実が待っている。緊急事態宣言が解除され、徐々に人々は生活を取り戻しつつあるが、スポーツイベントに人が集まるのか不透明だ。29日の臨時実行委員会でJ2の再開とJ3の開幕が6月27日、J1の再開が7月4日にそれぞれ決まったが、最初の数試合は無観客試合で行われ、7月10日以降は入場者数を大幅に減らしての開催が予想されている。その中で7億9000万円を見込む鳥栖の入場料収入は大幅に下振れする可能性が高い。環境は依然として厳しい。

 サポーターを前に表明した竹原社長の決意と復活への青写真が実現するか――。この先数カ月は、サガン鳥栖と鳥栖市、Jリーグだけではなく、日本のサッカー、プロスポーツの「危機耐久力」や多くの経営者が信じる「スポーツの力」が試される重要な時期となるだろう。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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