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東京都のコロナ対策に垣間見える、小池知事「五輪延期問題」への執着

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Photo by Satoru Okada

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、メディアへの露出を増やす東京都の小池百合子知事。「感染爆発 重大局面」「ロックダウン」などの刺激的なワードを多用し、危機下のリーダーシップを強調している。だが、つい先日までは東京オリンピックの中止回避に血道を上げてはいなかったか。東京五輪への小池知事のこだわりが、都の感染防止対策に影響した可能性はないのだろうか。(ダイヤモンド編集部 岡田悟)

失策で追い込まれ、レガシーは五輪だけ
延期決定で安倍首相と“グータッチ”

「残念ながら、都内の感染者数はおとといの土曜日は117名、そして日曜日は143名、今日は83名と高水準で推移しています」──。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が緊急事態宣言を出す前日の4月6日、東京都の小池百合子知事は緊急記者会見を開いて都内の感染者数の増加に触れ、危機感をにじませた。

 小池知事が新型コロナ関連で最初に緊急記者会見を開いたのは3月23日。この時の会見で、もしも対策を実施しなかった場合、ピーク時には都内の外来患者数が1日約4万人、入院患者数が約2万人を超えるとの試算に言及。配布資料には、厚生労働省クラスター対策班の3月21日時点の推計として、4月8日までに都内では530人の感染者(うち重篤者25人)が発生するとの予測も盛り込まれた。

 現実はどう推移したか。4月6日時点の都内の感染者数は1116人、重篤者は27人。当時の推計値を上回る深刻な展開をみせている。

 東京都はもっと早急に対策を取ることができたのではないか。小池知事の優先事項は、新型コロナウイルスよりも、東京オリンピック・パラリンピックの開催の可否だったのではないか――。

 一部の有識者やインターネット上では、こうした疑念が指摘されている。小池知事自身はこの見方を否定するものの、過去の会見を振り返ると、そう捉えられても仕方のない言動があったことは事実だ。

 2016年の都知事選でぶち上げた、築地市場の豊洲への移転見直し計画を説明不足のまま撤回し、翌17年の総選挙では「希望の党」を立ち上げ惨敗。それ以降、小池知事は「五輪のホスト知事を務めることしか考えていない」(都政担当記者)と周囲からは見られていた。

 五輪の21年への延期が決まったのは、緊急記者会見の翌日の3月24日。首相公邸で実施された、安倍晋三首相とトーマス・バッハ国際五輪委員会(IOC)会長とのテレビ会談には小池知事も同席していたものの、延期の決定を報道陣に伝えたのは安倍首相だった。

 この時の小池知事は、「五輪中止」という最悪のシナリオを避けることができたため、大満足だったようだ。読売新聞によれば、小池知事は公邸で喜びのあまり安倍首相と“グータッチ”。朝日新聞は小池知事が翌25日に都の五輪担当の職員を訪れて3分間スピーチした模様を報じ、「終始上機嫌だった」と表現している。

「マラソンは東京で」のこだわり再燃
コロナ緊急会見で五輪日程に言及する不思議

 さらに、延期した五輪の具体的な開催日程がまだはっきりとしない3月27日の段階で、IOCによって昨年、開催場所が札幌市に変更されたマラソンについて、夏以外の時期の開催になれば「(東京に戻すのが)当然だと思う。都民も望んでいる」と言い切った。「感染爆発 重大局面」のパネルを誇示し、都内のロックダウン(都市封鎖)の可能性に言及した3月25日の記者会見の2日後のことである。

 そして延期した五輪の開催日が21年7月23日に決まった3月30日。小池知事はこの話題を、新型コロナウイルスに関する緊急記者会見の中で突然挟み込んだ。

 この日の緊急会見の趣旨は、都内の累計感染者数が443人に達し、感染経路不明のケースが増えていることへの警戒の呼び掛けだった。しかし、小池知事は会見中に都の内藤淳福祉保健局長の発言を「ちょっと待ってください」と遮り、「先ほど組織委員会に参りまして、バッハ会長との電話会談がございまして、そのご報告をまずさせていただきます」「開催都市の都知事であります私、森(喜朗・組織委)会長、橋本(聖子・五輪担当)大臣との間で電話会談が行われまして、2021年7月23日の開催が決定をいたしましたのでお知らせいたします」などと、感染症が専門の医師らが同席する中で滔々(とうとう)と語った。

 福祉保健局長の発言を遮ってまで、小池知事が言及したかった21年の五輪開催日の決定。ただその内容は会見前に既に報道されており、周知の事実だった。3月24日の五輪延期発表は、開催都市のトップではなく安倍首相が前面に出たことがよほど悔しかったのだろうか。30日の会見では、「開催都市の知事であります私」などという表現まで使っている。

 新型コロナにより都民の生命が脅かされていることへの警鐘を鳴らす会見には不似合いな発言で、小池知事の五輪への執着を感じさせたるには十分だった。舛添要一前知事は翌日のテレビ番組でこの発言に触れ、「緊急会見を開き、ロックダウンなどと発言したその日に五輪(に言及していて)、私はものすごい違和感を感じたんですよ」と批判した。

質問にもまともに答えない姿勢を徹底
それでも今のところコロナは“追い風”?

 そして、国の緊急事態宣言を目前に控えた4月6日の緊急会見。報道陣からは、3月21日の厚労省クラスター班の推計を踏まえ、「ロックダウンについて言及したのが、五輪延期決定後の3月25日だった。なぜ3連休(3月20~22日)に緊急会見を開いてクラスター班の予測を公表しなかったのか」との質問が出た。

 これに対して小池知事は、「クラスター班のみなさま方の熱心な予測でございますけれども、最初1万7000という数字が出たり、その次、3000が出て、その翌日、300になっていたりと、数字が大きく揺れているところもございました」などと述べ、クラスター班が推測した感染者数が大きくぶれていたことを公表しなかった理由に挙げた。まるで、クラスター班の推計が甘かったと言わんばかりである。

 ただ冒頭で触れた「都内のピーク時の外来患者数1日約4万人、入院患者数2万人超」という予測は、小池知事が自ら説明したように、根拠となる数式を国が示したのは3月6日だ。

 記者会見では、小池知事が質問にまともに答えないケースも目立つ。米国ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は毎日のように記者会見を開き、ネガティブな情報も包み隠さず公開していると評価されている。クオモ知事の行動を踏まえ、小池知事の情報発信の姿勢について問われると、「YouTubeなどを使いまして、今、都の情報を皆さんに届くようにSNSも通じまして、お届けするようにしております」などと回答しただけだった。

 小池知事は最近、「ライブ配信」と称して、知事室と思しき部屋をスタジオに見立て、医師や感染症の専門家を招いて自身が質問する動画を、都の公式動画チャンネル「東京動画」にアップし始めた。だがこれは小池知事側の一方的な情報発信だ。記者からの質問に答える記者会見とは根本的に異なる。

 記者会見では、新型コロナウイルスで本来入院すべき患者が都内の特別養護老人ホームに止め置かれていることを踏まえ、都の病床確保などの取り組みに落ち度はなかったか、と問われる場面もあった。

 だが小池知事は、落ち度があったかどうかは言及せず、「現場の人たちの負担を少しでも減らすなど、さまざま学びながら、この難局をともに乗り越えていきたいと思っております」と答えただけだった。

 想定外の事態に対し、完璧な対応は難しい。それでも、欧米での医療崩壊の事例を把握している国内の専門家もいたはずであり、都内の準備に取り組む時間的な猶予はあった。今さら都の病床確保などの医療体制について、「学びながら」ことを進めるという発言には、不安を覚えざるを得ない。

 全世界での新型コロナウイルスの蔓延はとどまるところを知らず、来年の五輪開催すら危ぶまれている。一方で今夏には、小池知事の再選がかかる都知事選も予定されている。小池知事を蛇蝎のごとく嫌っていた都議会自民党も、党本部の意向や現下の危機的な状況を踏まえ、表向き小池知事の再選を支持する姿勢を見せている。

 危機管理や安全保障をライフワークと自負し、コロナ危機が政治的な“追い風”にもなりつつある小池知事のことだ。もし今後、都内の感染者数が抑えられれば、自身の政治的な成果として最大限、アピール材料に活用される。たとえそれが、都民の協力と医療関係者の懸命な尽力の賜物であったとしても、である。

 一方で感染爆発が現実のものとなれば、五輪の中止回避で大喜びし“グータッチ”に興じていた安倍首相と同様、小池知事の責任が厳しく問われることになる。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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