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森友自死・赤木さん妻の提訴、「民事」で真相究明が実現する可能性は

2020年03月29日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

「どうか佐川さん、改ざんの経緯を、本当のことを話して」――。学校法人「森友学園」の国有地売却問題を担当していた元近畿財務局上席国有財産管理官、赤木俊夫さん(当時54)が自殺に追い込まれたのは、佐川宣寿元国税庁長官(62)の指示で決裁文書改ざんを強制され精神的に追い詰められたためとして、赤木さんの妻が18日、国と佐川氏に計約1億1000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。この訴訟の真の狙いは賠償金ではなく、あくまで「真相の究明」だ。妻の代理人弁護士は記者会見で「手記に記録されている全財務官僚を証人として出廷を求める」としており、刑事で立件されなかった不法行為が民事で明らかにされる可能性が出てきた。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

民事より厳格な立証求められる刑事

 訴状によると、赤木さんは国有地売買を担当していた2017年2月、近畿財務局の上司に呼び出され、森友学園に国有地を売却した取引の経緯を記載した公文書から、学園を厚遇した部分の削除など改ざんを指示された。

 赤木さんは抵抗したが、複数回にわたり強要され、長時間や連続勤務で精神的負荷が過度に蓄積。同年7月にうつ病を発症して休職した。

 同11月に検察から任意聴取を打診されると病状が悪化し、自殺願望を口にするようになり、18年3月に自殺したとしている。

 赤木さんの記録や妻の手記、代理人弁護士の記者会見での主張は新聞やテレビ、そして『週刊文春』を読んだ方なら承知していると思うので、詳細は省略したい。

 そして、筆者の専門は政治ではなく事件なので、政治色は排してあくまでこの訴訟の行方がどうなるのかを考察してみたいと思う。

 実は刑事事件として不起訴や無罪になったものの、民事訴訟で「不法行為」が認定されるケースは少なくない。

 刑事には「疑わしきは罰せず」の原則があり、民事より厳格な立証が求められるためだが、だからといって民事の審理が杜撰(すさん)というわけではない。

名古屋の女性失踪で不起訴の“致死”認める

 最近では元TBS記者山口敬之さん(53)から性暴力を受けたとして、1100万円の損害賠償を求めたジャーナリスト伊藤詩織さんのケースが知られる。

 伊藤さんは15年4月、就職先の紹介を受けるため、山口さんと会食した際に意識を失い、ホテルで性的暴行を受けたと主張。

 準強姦容疑で警視庁に被害届けを提出したが、東京地検が16年7月、嫌疑不十分で不起訴に。検察審査会に審査を申し立てたが同9月、不起訴を覆すだけの理由がないとして不起訴相当とした。

 一方の民事判決は昨年12月、「酩酊(めいてい)状態で意識がなく、合意がないまま性行為に及んだ」と認定し、330万円の支払いを命じた。

 この問題を巡っては、山口さんが伊藤さんの著書などで名誉が傷付けられたなどとして1億3000万円の賠償を求めて反訴。こちらの主張は棄却された。

 18年3月には、刑事で不起訴となった“傷害致死”を民事が認定したケースがあった。

 名古屋市中川区で12年4月、漫画喫茶で働いていた加藤麻子さん(当時41)が失踪し、13年4月に遺体で見つかった事件で、元漫画喫茶経営者夫婦が死体遺棄罪で起訴されたが、傷害致死容疑では不起訴となった。

 遺族が約2億円の慰謝料などを求めて提訴。判決は「暴行で腹部に出血が起き、死亡した可能性が高い」と結論付け、約6700万円の支払いを命じた。

 この事件では元経営者夫婦が逮捕直後から公判まで黙秘を貫いたが、加藤さんが失踪後に夫婦が捜査当局に提出した上申書の内容から「元経営者の夫が金属の棒で暴行した」と認められると判断した。

過去には“保険金殺人”を指摘した判決も

 ほか鹿児島市で16年、準強姦罪で無罪になった男性に民事で女性の訴えを認めたケースもあった。

 この事件は06年12月、ゴルフの教え子で高校生だった女性に性的暴行をしたとして、強制起訴された当時50代だった指導者の男性が最高裁で無罪が確定。

 女性は男性に770万円の損害賠償を求めて提訴。判決は「女性の性的自由を侵害し、重大な精神的苦痛を与えた」と認定し、330万円の支払いを命じた。

 伊藤さんのケースは多くの人に知られているが、加藤さんの事件は刑事で立件できなかった“致死”を認定。

 当時高校生だった女性の事件は強制起訴で性犯罪の成立が争われたのが初めてだったこともあり、法曹関係者や司法担当記者も注目していた。

 変わったケースでは11年3月の名古屋地裁判決で、06年に米サイパンで海水浴中に水死した岐阜市の男性(当時22)の親族が、1億円の海外旅行保険の支払いを保険会社が拒否したのは不当と訴えた訴訟だ。

 1審判決は「(親族らが)保険金を得ることを目的で殺害をもくろみ、溺死させられたと推認できる」と“保険金殺人”だとし、支払いを認めなかった。

 2審は1審の事実認定には踏み込まず「契約したのは男性本人」として支払いを命じ、最高裁も追認して確定した。

「元はすべて佐川氏の指示」

 それでは森友学園問題はどうなるのだろうか。

 刑事事件としては18年5月、大阪地検特捜部が市民団体などから受けた佐川氏を含む財務省職員ら計38人に対する決裁文書改ざんの虚偽公文書作成、国有地を不当に安く売却したとする背任など6つの容疑の告発を不起訴処分にした。

 いずれも刑事責任は問えないと判断し「容疑不十分」か「容疑なし」だった。

 検察審査会は佐川氏ら10人を「不起訴不当」と議決し、再捜査することになったが、19年8月、改めて不起訴処分とし、誰一人として刑事責任を問われぬまま捜査は終結した。

 一方、財務省は18年6月、調査報告書と計20人の処分を公表。佐川氏が改ざんを主導したと認定したが、改ざんした理由や指示の流れなどは明らかにされなかった。そして、佐川氏は何も語らぬまま辞職した。

 赤木さんの手記は財務省の報告書と経緯が合致し、改ざんに至った流れも矛盾なく詳細に記載している。

 財務省の報告書が外形だけの“抜け殻”だとすれば、赤木さんの手記は克明に記録された核心部分といえる。

 これは決定的な証拠といえるだろう。大阪地検特捜部もこの手記を入手していれば立件に踏み切ったかもしれない。それぐらい重要な位置付けで、これで“無罪判決”を出す裁判官がいるとは想像できない。

「元はすべて佐川氏の指示」。手記にはこう記されている。

 佐川氏は国会で「刑事訴追の恐れがあるのでお答えできない」と答弁を拒否してきた。ならば、刑事訴追の恐れがなくなった今、本当のことを話すべきだろう。

 それとも、国税庁長官まで上り詰めたエリートキャリア官僚には、非を認め謝罪することなどプライドが許さないとでもいうのだろうか。

 公務員としての仕事に誇りを持ち「僕の契約相手は国民」が口癖だったという赤木さん。

 どちらが「高潔」で、どちらが「卑怯」なのかは、誰の目にも明らかであろう。

 赤木さんとご遺族に心より追悼の意を捧げます。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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