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世界自動車市場「9000万台」はもはや回復しない、新型肺炎で悲観シナリオ

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武漢市に主要な生産拠点の3工場を持つホンダは、いまだ生産再開の見通しが立っていない

新型肺炎は世界各国へ感染が拡大しており、終息の兆しは見えていない。中国生産の抑制やサプライチェーンの寸断といった負の影響が深刻化し、日本経済へも深い影を落とし始めている。(ダイヤモンド編集部)

 世界最大の中国市場における自動車需要が消えてしまった──。2月21日、中国の市場分析をしている全国乗用車市場情報連合会が、「2月最初の2週間の1日平均乗用車販売台数が前年同期比92%減となった」という衝撃的な結果を報告した。自動車がほぼ売れていないようなものである。

 新型肺炎の震源地である湖北省武漢市のみならず、中国の都市部においても人やモノの移動が制限されているのだから当然の結果かもしれない。

 日系自動車メーカーの中で、最も甚大な影響を受けているのは武漢市に主要な生産拠点を持つホンダだ(3工場で年産60万台。ホンダの中国生産の半分を占める)。いまだ生産再開の見通しが立たず、結論は3月11日以降に持ち越されている。

 それでも順次、中国政府の承認が得られた拠点から、日系メーカーは生産活動を活発化させている。

 2月24日、トヨタ自動車は四川省成都市の工場を再開。これでトヨタが中国に持つ4工場全てで稼働にこぎ着けることができた。

 日系メーカーが生産再開という第一ステップをクリアしつつある一方で、自動車メーカー幹部が「早期に稼働率を上げて自動車を造ったところで、春節後の壊滅状態の市場がどの程度回復するのか読みにくい」と言うように、需要予測を読みあぐねている状況だ。

 すでに複数の自動車関係者は悲観的なシナリオを用意している。

 ある自動車部品メーカー幹部は「2020年1Q(1~3月)の市場規模は20年前と同レベルのどん底、2Q(4~6月)は前年同期比2~3割減、3Q~4Q(7~12月)でも19年並みに戻せるかどうかという壊滅的なレベルだ」と懸念を表明している。同様に自動車アナリストも「販売台数は最低でも年間1~2割減は覚悟しなければならないだろう」という見立てだ。

 別の自動車部品メーカー幹部も、「従来以上に不動産バブルを警戒している。一度バブルが崩壊したら、自動車のような高額商品など売れなくなるからだ」と言う。

 すでに新型肺炎ショックが発生する前から中国の自動車市場の成長は止まっていた。中国経済の減速や米中貿易戦争の影響により、28年ぶりの減少となった18年に続き、19年もマイナス成長だった。

国内生産拠点の停止リスク

 日系自動車メーカーの中国依存度は高い。世界販売に占める中国の構成比は、トヨタで16.7%、ホンダや日産自動車に至っては3割である。

 もっとも、トヨタやホンダなど完成車メーカーの中国事業は、地場メーカーとの合弁会社(50%ずつの折半出資)の持ち分利益が業績に反映されるため、中国の販売台数の落ち込みほどには業績へのインパクトは小さいという見方も一部ではある。

 だが、合弁会社で稼いだキャッシュが将来の中国ビジネスの研究開発コストや設備投資へそのまま投じられるわけであり、大手自動車メーカーにとって中国事業の成否は死活問題だ。販売台数減が日系自動車メーカーに与える打撃は大きい。

 そして中国を発生源とした新型肺炎は日本も含めた世界各国へ感染が拡大しており、現時点で終息の兆しは見えていない。

 中国生産の抑制やサプライチェーン(部品供給網)の寸断、中国の消費減退といった負の影響がより深刻化し、日本経済へも深い影を落とし始めている。

 すでに中国製部品が滞ることで日産の国内生産が休止されるなど、サプライチェーンの寸断が明らかになっている。

 前出の自動車アナリストは、「あまり問題視されていないが、仮に国内生産拠点で肺炎感染者が発生したならば、生産停止に追い込まれるリスクがある」と言う。

 日本政府が大規模イベントの中止やリモートワークを推奨しているさなかに、工場要員が多数出勤する生産現場の感染リスクは高いのではないかという指摘だ。

 また、中国共産党が講じた「移動制限」施策ほどの強制力があるわけではないが、日本で広まりつつある自粛ムードは、自動車のような高額消費の減退につながることは確実だろう。

 すでに減少に転じた中国や米国市場に続いて、「日本市場も減少へ向かう」(同)観測が浮上している(図参照)。

中国ビジネスの再定義

 ここにきてある自動車メーカー幹部は「さらに一段厳しいシナリオを想定している」と打ち明ける。

 それは、「中国がけん引することで成長した“世界販売9000万台市場”を回復することは、もはや難しいのではないか。世界のBtoC(個人向け)ビジネスは成熟ステージに入った」(同)というものだ。

 現在、モビリティ領域にはCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化の四つの技術トレンド)の大波が押し寄せている。自動車業界が直面しているのは、従来の車の価値が根底から覆るような「100年に1度の激変期」なのだ。

 新たな競争軸は、品質の良い車をできるだけ安く大量に造ることにあるわけではない。9000万台の世界市場のうち、シェアをできるだけ多く確保したプレーヤーが勝者となるわけでもない。日独米のような伝統的な大手自動車メーカーは、ゲームチェンジを迫られている。

 そして、中国政府は自国の自動車市場の大失速を取り返すために、なりふり構わぬ消費刺激策を打ってくるだろう。

2018年に中国の李克強首相が来日。トヨタ自動車は中国政府と“和解”し、中国進出を急加速させてきた Photo:The Asahi Shimbun/gettyimages

 ある自動車メーカーエンジニアは、「ガソリン車以上に伸びが厳しくなっていた電動車市場をてこ入れするような政策を打ち出すかもしれない」と予測する。

 日本の自動車産業は、難局にあっても中国への投資を積み増すのか。それともそれを控えるのか。中国市場とどう向き合うかの分水嶺に立っている。

 18年に中国の李克強首相が来日した頃、トヨタは1980年代の中国進出の出遅れを理由にギクシャクしていた中国政府と“和解”し、その後は陣容を拡充して中国戦略を急加速させてきた。

 今回のような中国の“国難”は大きな政策の変わり目となる。やり方によっては、日系自動車産業が中国ビジネスを再定義するチャンスとなるかもしれない。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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