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東京マラソンの「参加料」はなぜ返金されないのか

2020年02月20日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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新型肺炎という非常事態に、東京マラソンの参加費が返金されないのはなぜなのでしょうか? Photo:Anadolu Agency/gettyimages

 東京マラソンが参加料を返さないことについて、マラソン経験の多い人たちは「当然」と受け止め、参加歴の浅い人が「不満」を訴える傾向があるようだ。経験者たちは、大会要綱にそうした方針が明記され、過去にも同様の例があったことを知っており、それがマラソン大会の常識的な慣例だと了解しているのだ。

 例えば、2017年10月に予定されていた『横浜マラソン2017』が台風22号の影響で中止された。この時も、参加料は返金されなかった。こうした事例を知っているランナーたちは今回も冷静に受けとめているのだろう。

「逆じゃないの?」と誰しも思う
返金する場合、しない場合の条件

 報道の中で、「中止によって返金する場合としない場合」の規定が紹介されていた。これを読んでカズ・レーザーさんが「逆じゃないの?」と疑問を投げかけていた。

 東京マラソンの「エントリー規約」の13項には次の定めがある。

『積雪、大雨による増水、強風による建物等の損壊の発生、落雷や竜巻、コース周辺の建物から火災発生等によりコースが通行不能になった結果の中止の場合、関係当局より中止要請を受けた場合、日本国内における地震による中止の場合、Jアラート発令による中止の場合(戦争・テロを除く)は、参加料のみ返金いたします。なお、それ以外の大会中止の場合、返金はいたしません。』

 普通に考えたら、「これ、逆じゃないの?」と、私も同様の感想を抱いた。自然災害による中止ならば、返金されなくても致し方ないと感じ、逆にもし主催者の都合で中止されるなら、返金すべきと考えるのが一般的ではないだろうか。この規定は、参加者本位で決めたものでなく、主催者の都合が優先されている。

 これには、ラグビーW杯のときにも少し話題になった『イベント中止保険』が関係しているのではないか。2019年度の東京マラソン財団の収支を確認すると、支出のところに『保険料』として、1481万8360円の支出がある。

 参加者たちの不慮の事故に備える傷害保険だけでなく、『イベント中止保険』に加入するのは主催者として当然のリスク管理だ。この保険でカバーされるのが上記規約に挙げられた事由であり、返金されないのは保険が降りないケースなのではないか。そのため、一般的な感覚からすれば返金されなくても仕方がないと感じる場合に返金され、そうでない中止のときに返金されない“逆転現象”が起こると推測される。

東京マラソンは赤字運営!?
保険が下りなければ返金の余力なし

 さらに調べてみると、東京マラソン財団のホームページに「東京マラソンの参加料の仕組みについて」と題して、次の記述があった。

『一日にわたり東京の中心部において長時間にわたり主要道路を止め、ランニングイベントを実施するためには、競技運営だけでなく、交通規制計画や警備安全対策、医療救護体制の構築、コース沿道対策などの事前準備に膨大な時間と労力を要します。

 東京マラソンの開催にあたっては、その運営に約19.7億円の経費(EXPOや関連イベントにかかる経費は除く)(2018大会実績)を要します。これは、参加ランナー一人当たりに換算すると約54,800円(2018大会定員)の費用となり、この費用のうち多くの部分は準備段階で必要となるものです。経費の内訳は以下のとおりとなり、これらの経費については、開催に向けた1年間の準備にかかるものも含め、多くの部分が大会開催直前の段階で、履行や制作済である、もしくは発注や手配済みのものです。

 このため多くのマラソン大会では参加規約の中に、大会中止の場合にも参加料を返金しない旨を明記し、ランナーの皆さんに同意をいただいており、東京マラソンにおいても、原則として参加料は返金しないこととしております。

 なお、東京マラソン2020からは、参加料返金保険に加入し、一定の要件に合致する場合には、参加料を返金できるよう対応しております。』

 やはり、参加料返金保険との兼ね合いがあるようだ。

 ちなみに、2019大会年度における財団の年間経常収益の合計は約38億8793万円、このうち参加料収益は約4億8000万円だ。そして経常費用は約39億5066万円。これだけ巨額の収益を得ながら、7100万円を超える赤字で運営されている。財団が言うところの『参加料返金保険』がおりなければ、予算上、財団には返金する余力がない。

 それでも「返さないのはおかしい」と批判する有識者の声も聞こえるが、実際にマラソン・大会を主催していた経験者として補足しておこう。私はかつて、42.195キロリレーマラソンというレースを考案し、「4人から10人のチームでフルマラソン完走を目指す」という参加型イベントを全国各地の国営公園でプロデュースしていた。いまもときどき、同じキャッチフレーズ、同じ形式のレースの存在に出くわすが、あれは私が発案し、名前も私が付けたものだ。

 参加料1人3000円で、最大4000人以上が集まってくれた。しかし、コース設営、安全対策、参加者が満足してくれる水準の完走Tシャツや参加賞を用意すると、毎回、赤字だった。大会前にはこうした発注や購入、準備はほとんど完了しているから、当日中止になったからといって、浮く額などないに等しい。

 渡せなかった参加賞を届ける送料など、本来予算になかった費用も新たに発生する。私たちは物販をしていなかったから影響はないが、もし当日の物販収入を当てにしていたら、中止によるダメージはさらに大きい。参加者には申し訳ないが、参加料が返金できないのは、保険金でもなければやむをえないだろう。

 最後に1つ書き加えるが、小池百合子東京都知事は、マラソンの札幌移転の際にはあれだけ執拗にIOCに抗議し、パフォーマンスを展開したが、今回の一般の部中止の決断には関与していない態度をとっている。「大会主催者の決断だ」と。しかし、大会を主催する一般財団法人東京マラソン財団は、基本財産8億8000万円のうち8億円を東京都が拠出して設立した財団だ。

 都知事のリーダーシップが発揮されても当然の関係。なぜ今回は我関せずの姿勢を取ったのか。「一般の部の中止」が支持されるのか否か、予測の難しい事象について批判の的になるのを恐れ、責任を回避したのだとすれば、知事としての覚悟や判断はその程度のものかと残念に思う。

(作家・スポーツライター 小林信也)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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