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3D CG製作現場の1PB/数億ファイルを格納するIsilon、同社が3世代にわたり採用してきた理由

“プリキュアのダンスCG”も支えるストレージの変遷、東映アニメが語る

2020年02月03日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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Isilon NASを3世代にわたって使い続ける理由は「製作を止めないため」

 このとおり、東映アニメーション デジタル映像部ではおよそ10年間、3世代にわたってIsilonを利用してきた。Isilonを使い続ける大きな理由は、新しい世代のストレージにデータを移行する際に現場の製作業務を止めなくてよいからだと、山下氏は説明する。

 たとえば2019年のリプレースを実施した際も、3D CGの製作現場ではちょうどNetflix配信作品「聖闘士星矢:Knights of the Zodiac」の製作まっただ中だったという。「現場からは『サーバーを1日たりとも止めるな、止めたら作品が間に合わなくなる』と言われました」(山下氏)。

2019年のリプレースでは、およそ1PBのデータを移行することに。しかも製作まっただ中の現場からは「サーバーを止めるな!」という強い要望が

 それ以前のリプレース作業では、現場が利用する旧環境をそのまま稼働させつつ、新環境も並行稼働させて、膨大なデータを夜間や休日に少しずつ新環境へとコピーしていた。この移行期間(およそ3カ月間)は新旧環境の“二重投資”が生じるほか、製作進行中の作品では常にデータが書き換わるため、そのつど繰り返し同期する必要があった。そして、最終的にすべてのデータを完全同期させるため、やはり丸一日程度は製作業務を止めてもらう必要があった。

 「すべての作品スケジュールとすりあわせながら移行最終日を決め、現場には『この日は絶対に会社に来ないで!』とお願いしていました。この最終日で最終同期を済ませて旧環境を落としたいのですが、いざその日になると、前日に大量のファイルが更新されていて同期が終わらなかったり、レンダリング処理がまだ続いていたり、来ないでと言ったのに出社して作業している人がいたり……(苦笑)。ほかにも、ワークステーション側のネットワークドライブを設定変更するバッチがうまく動かず、設定を1台ずつ見て回ったこともあります。移行完了後も数日間は“サポート警戒態勢”を解けませんし、とにかく移行は大変な作業でした」(山下氏)

 これが、Isilon-Isilon間の移行だとほぼ無停止で移行できる。前世代から現在のIsilon環境へのデータ移行(約1ペタバイト)には1カ月半ほどかかったものの、フロントのユーザーネットワークとは独立したInfiniBandを経由してデータをコピーする仕組みのため、その間の製作作業には影響を与えなかった。さらに、新環境でも同じサーバー名を使えるので、パスやネットワークドライブの変更もない。

 「実際は旧ノードのOSアップグレードのために数時間止める必要があったのですが、影響はそれだけで済みました。製作現場のユーザーも『あれ、変わったんですか?』と言うくらい、本当に気づかれないうちに移行が終わりました」(山下氏)

Isilon-Isilon間のリプレースで、ユーザーにほとんど影響を与えることなく移行を完了させた

 ちなみに山下氏は、経営層の納得を得るために他社NAS製品も含めたパフォーマンステストを実施し、パフォーマンス的にもIsilonが最速であり、現場ユーザーにとっても快適な環境になるという説明を行ったという。

山下氏は過去の経験から「ファイルサーバーが遅い、容量が足りない」場合に想定される事象を説明した。ユーザーがローカルドライブでの作業を始めたり、USB HDDやクラウドを勝手に使い始めたりして、最終的にはデータトラブルとサポートコストの増大を招くという

今後の大きな課題は「億単位のファイルをどうハンドリングするか」

 デジタル映像部のファイルサーバーは、この10年間で総容量が60倍以上(23TB→1.5PB)に拡大し、そこに保存しているファイル数も約30倍(820万→2億3000万)に増加している。山下氏は「ファイルサーバーの容量だけ積めば(拡張すれば)いいわけではない」と語り、現在は特に、数億単位になったファイルをハンドリングできるだけのパフォーマンスがファイルサーバーの大きな課題になっていると説明する。

デジタル映像部のデータ容量とファイル数の推移(2012年~現在)。ファイル数も急速に増大しており、その適切な取り扱いが新たな課題となっている

 「(ファイル数が膨大なため)たとえば、この作品(製作フォルダ)の容量ってどれくらいだろう? とWindowsでプロパティを開いても、1時間や2時間では(集計処理が)終わらないレベルです。また、製作が進むにつれて、新たなスタッフに作品フォルダへのアクセス権を割り当てることがあるのですが、これも直にやるのは時間がかかり、ほぼ無理な状態です」(山下氏)

 ファイル数が増えるにつれて、それをオープン/クローズする回数も増え、コピーや移動の処理も遅くなっていく。また、製作が終わった作品のデータをバックアップするのにも長い時間がかかる。加えて、CGツールが自動生成するデータも多く、ファイルどうしの関係や構成も複雑なため、個々のデータについて要/不要を判断するのも難しくなっているという。このように、ストレージのパフォーマンスは「管理者とユーザーの双方に影響が大きい」という。

 またアニメ製作全体のデジタル化が急速に進んでいることも、今後さまざまな課題を生みそうだ。たとえば、これまで手描きした紙をスキャンしていたアニメが直接デジタルで描かれるようになると、紙ベース/手作業で整理/管理していたワークフローも変化せざるを得ない。また続編製作やリマスターなどを行う場合に、バックアップから過去の製作データを取り出せたほうがよいが、膨大なバックアップから目的のデータを探し出すのも人手では難しくなっている。他方でクラウドストレージの活用も検討しているが、コストやセキュリティ、アクセススピードといった面ではまだ課題があると説明した。

そのほかにも「ワークステーションの10GbE対応」「オールフラッシュストレージ化」など、これからも検討すべき課題は数多くあると語った

Isilonが放送業界へのテクノロジー貢献で「技術・工学 エミー賞」を受賞

 記者説明会に出席したDell Technologies側からは、2009年のDell EMCによる買収以後、Isilonのビジネス規模は9年間で8倍に成長しており、さらに今後2年間で1.5倍の成長を見込んでいることが紹介された。その大きな原動力と目されるのが企業におけるビッグデータ活用、そしてメディア&エンターテインメント業界でのIsilon採用である。

 Dell Technologiesでは同日、Dell EMC Isilonが米国のNATAS(National Academy of Television Arts and Sciences)から、テクノロジー&エンジニアリング エミー賞を初めて授与されたことを発表した。放送業界において増大するデジタルデータの課題を、スケールアウトNASというソリューションで解決してきた功績によるものだ。

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