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住友重機労組の積立年金10億円横領事件、お金の回収が絶望的な理由

2020年01月30日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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途方もない巨額の着服事件が発覚した。住友重機械労働組合連合会の積立金年金を着服したとして、警視庁捜査2課が元会計担当書記の田村純子容疑者(60)を業務上横領容疑で逮捕、東京地検は28日、田村容疑者を起訴した。起訴内容によると、田村被告は2013年12月26日、組合員の積立年金口座から自分の口座に5000万円を送金して横領したとされるが、警視庁は13~18年に総額約6億4000万円を着服したとみて詳しく調べ、余罪として立件する方針だ。ほかにも時効が成立した分を含めると被害額は10億円を超えるとみられる。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

発覚時にはスッカラカン

田村純子容疑者のフェイスブックより

 今回の事件で着服されたのは、労働組合の組合員が老後のために給与から少しずつ積み立てていた年金なのだが、果たして戻ってくるのだろうか。

 結論から言えば、可能性は皆無だ。積立金は田村被告が使い込んだまま、弁済されることなく、泣き寝入りというのはまず間違いない。

 どういうことか。

 公判請求(起訴)された以上、田村被告は刑事裁判で判決が言い渡されることになる。それとは別に、労組側が民事裁判(訴訟)を起こし損害賠償を請求することは可能だ。

 しかし、過去の着服事件では、発覚したときにはほとんど被告の手元には残っておらず、スッカラカンになっているというのが一般的だ。

 よく知られているのが、2001年に発覚した「青森県住宅供給公社巨額横領事件」だろう。

 公社の元経理担当主幹の男性(逮捕当時44)が、1993年から01年までに約14億5900万円を着服し、チリ人妻に貢いでいた事件だ。

 02年12月12日の青森地裁確定判決によると、94年10月から01年10月までの間、計165回にわたって公社理事長名義の銀行口座から総額14億4600万円を横領した。

 判決ではまた、97年3月にスナックでチリ人妻と知り合って以降、度重なる要求に応じて、チリのレストランや豪邸の資金として少なくとも8億円(被告は約11億円と供述)を贈ったと認定。

 ほかにも気に入ったホステスに1回につき300万円、あるいは700万円を贈ったり、一度にアワビやマツタケを数十万円分購入したりと放蕩三昧(ほうとうざんまい)を尽くしたと指摘された。

 着服が発覚したきっかけは仙台国税局の税務調査だったが、金額は何と青森県民の平均所得348年分に相当するという。公社の内部調査では、約1300万円分は刑事事件の時効となっていた。

回収できるのは微々たる額

 一方、判決は公社が経理を男性に任せきりだったことや、上司が通帳の確認作業を怠ったため、犯行の発覚が遅れたと指摘。杜撰(ずさん)な管理体制を批判していた。

 男性は懲役14年(求刑・懲役15年)が言い渡された。

 公社は男性に着服した約14億5400万円の損害賠償を求めて青森地裁に提訴し、刑事事件の判決言い渡し前の02年10月8日、地裁は全額の賠償を命じていた。

 しかし公社が回収できたのは、男性が逮捕時に所持していた現金約500万円や、チリ人妻の豪邸を競売に掛けて得た約7400万円だけだった。

 男性は16年に満期出所したが、公社の解散に伴って債権が譲渡された青森県にまったく返済をしていないとされる。

 刑事裁判での「杜撰な管理体制」の指摘を受け、公社は歴代の役員に管理責任があったとして元理事長らに損害賠償を求めて訴訟を起こしたが、9人が計1850万円を支払うことで和解が成立した。

 公社としても体面があるから「努力したふり」をしなくてはいけなかったわけだが、時間と金(弁護士費用)をかけても、回収できるのはその程度ということだ。

馬に貢いだ着服金

 それでは田村被告はいったい、着服した金を何に使っていたのだろうか。

 全国紙社会部デスクによると、趣味である馬術競技馬や競走馬の入手や維持・管理費、高級外車や高級バッグなどの購入に使っていたらしい。

 田村被告は18年1月、労組が会計調査を始めると「私を解雇してください」とメールを残して失踪。

 そして着服が発覚し、労組が警察に被害届を提出。20年1月 7日、逮捕されることになった。

 田村被告はかなり馬に貢いでいたようで、中には1頭数千万円の輸入馬もいたようだという。

 エサ代や調教費は1頭につき月約20万円が相場。逮捕時に所有していた馬は十数頭いたというから、少なくとも年間数千万円かかっていたことになる。

 一方で、全国紙デスクは疑問も口にした。

「青森の事件は無分別に金をばらまいていたからスッカラカンになりましたが、田村被告は自分のために使っていたようだ。少なくともばらまいてはいない」

 いくら馬に年間数千万円かかり、高級外車の購入などで散財したとしても、5~6年で10億円は使えないのではないかというのだ。

 確かに、「馬主」「高級外車」とはた目には羽振り良く見えるが、周囲に不審さを感じさせるほどの贅沢(ぜいたく)三昧の生活をしていたような話は聞こえてこない。どこかに隠しているという可能性もゼロではないかもしれない。

組合員の憎悪を浴びるのは誰か

 それでは、田村被告はどれぐらいの罪に問われるのだろうか。起訴された業務上横領罪は刑法253条で、法定刑は「10年以下の懲役」である。

 もし最高の10年を求刑されても、一般的に「7割司法」「7掛け判決」といわれるように、おおざっぱに言えば懲役6~8年の幅に収まるだろう。

 罪を重ねたとされる6年間で10億円を使い込み、弁済能力がないから「すみません」で済まされる。

 田村被告は入社とほぼ同時に労組へ出向となり、その間、年金は納めていたはずだ。出所後は自己破産すれば、悠悠自適の年金生活が待っている。

 その年金を使い込まれた組合員約7000人の憎悪を一身に浴びているはずだが、そんなことを意に介するようなら、最初からそんな犯行に手を染めてはいまい。

 その憎悪は青森の事件と同様、杜撰な管理体制で巨額横領事件を許し、発覚を遅らせた労組幹部に向けられるのは間違いない。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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