このページの本文へ

波乱を暗示する「庚子」の2020年、新型肺炎が世界を覆う可能性

2020年01月29日 06時00分更新

文● 末澤豪謙(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
Photo:Stringer/gettyimages

東京五輪と米大統領選
だけではない“波乱の年”?

 2020(令和2)年の干支は「庚子(かのえ・ね、コウ・シ)」。である。

「庚」は植物の成長が止まって新たな形に変化しようとする状態を、「子」は植物の種子の中に新しい生命がきざし始める状態を表す。

「庚子」では、新たな変化、潮流が生まれる可能性を表すということになり、レジーム更新や世代交代などがキーワードになる可能性がある。

 また「子年」にあたり、それぞれ4年に一度のオリンピックや米大統領選が予定されるが、それだけでなく、早くも年明けから、波乱の年を思わせる出来事が相次いでいる。

 急拡大している中国発の新型ウイルス肺炎問題も要注意だ。

 前回60年前の「庚子」である1960(昭和35)年には、国内では、1月に日米安全保障条約が調印され、6月には批准に反対するデモ隊が国会を取り囲むなどの混乱の後、当時の岸信介首相が退陣した。

 後継の池田勇人内閣は「国民所得倍増計画」を打ち出し、高度成長時代が現出することになった。当時は岩戸景気(1958年7月~1961年12月)の真っただ中で、前年のIOC総会で1964年の夏季オリンピックの開催地が東京に決定していたこともあり、その後はインフラ整備も本格化することになる。

「子年」は、4年に一度のオリンピックが開催され、米国では大統領選が実施される年でもある。

 2020年も、7月24日から第32回オリンピックおよび第16回パラリンピック大会が東京で開催され、一方、米大統領選は11月3日に予定されている。

 戦後の子年の米大統領選では、1948年はトルーマン大統領(民主党)が再選、1960年はケネディ氏(民主党)が当選(相手は共和党のニクソン氏)した。

 1972年にはニクソン大統領(共和党)が再選、1984年にはレーガン大統領(共和党)が再選、1996年にはクリントン大統領(民主党)が再選、2008年にはオバマ氏(民主党)が当選(相手は共和党のマケイン氏)した。

 振り返ると、再選に挑んだ大統領はいずれも勝利している。

 このことはトランプ大統領には好材料かもしれないが、トランプ氏に過去の例が通じるとは必ずしも思えない。

 大統領選の前に米議会での弾劾審議が進むからだ。

 共和党が過半を占める上院の議席構成を考えると、有罪判決が下されるには、共和党から20人の造反が必要でハードルが高いとみられるが、大統領選への影響などは予想しにくい。

 歴代大統領44人のうち、弾劾訴追された大統領は第17代のアンドリュー・ジョンソン氏(弾劾裁判は1868年)と第42代のビル・クリントン氏(1998年)の2人だけで、いずれも無罪判決となったが、ジョンソン氏はレームダック化し、党の候補者指名を得られなかった。

 クリントン氏は2期目を終えて退任したが、弾劾訴追された大統領として、再選に向けた選挙キャンペーンに挑むのは、トランプ氏が初めてだ。

 トランプ氏は政治家の経験も軍人の経験もない史上初の米大統領だが、また、もし再選されるとまた新たな歴史を作ることになる。

 ちなみに、日本では、戦後6回ある子年のうち、5回で首相が交代する政変の年となっている。

米・イラン関係緊張の今後
戦争の可能性も消せず

「変化の庚子」といえそうだが、それを象徴するように2020年は正月気分も抜けないうちから、波乱の幕開けだった。

 1月3日に、米軍が無人機でイランのイスラム革命防衛隊の「コッズ部隊」のソレイマニ司令官らを殺害。それに対してイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)が、8日未明、在イラクの複数の米軍基地に弾道ミサイルによる報復攻撃を行い、米・イラン関係が一気に緊迫した。

 その後、トランプ大統領が、全米向けのテレビ演説で、イランに対する追加の経済制裁発動を表明する一方、報復攻撃に関しては言及せず、事態のエスカレーションは避けられた。

 だが、緊張が大きく緩和すると見るのは早計だろう。

 中長期的には、2つのルートで、本格的な戦争に向かう可能性は否定できない。

 第1は、親イラン勢力のテロ・ゲリラ攻撃などに対し、米国が報復し、報復の連鎖が拡大する可能性だ。

 第2のルートは、イラン核合意からのイランの全面離脱と、ウラン濃縮度の引き上げの可能性だ。

 トランプ大統領は前述のテレビ演説の冒頭、「私が米国の大統領である限り、イランは核兵器を持つことを決して許されない」と述べている。

 しかし核合意が事実上崩壊した中で、イランは今後、現在は5%程度とみられるウラン濃縮度を合意前の20%程度まで、徐々に引き上げる可能性が想定される。ウラン濃縮度が20%以上に高まれば、核兵器に転用が可能な90%以上への濃縮は容易だ。

 こうした状況を、3月2日に1年で3度目となる総選挙を控えるイスラエルのネタニヤフ政権や、大統領選を控えキリスト教福音派の支持固めに躍起なトランプ大統領が容認するとは思えない。

大統領選の状況次第で
トランプ氏の行動は予測不能

 しかも、トランプ大統領の中東政策は、戦略的・長期的視点に欠け、場当たり的な印象が強い。

 今回の危機につながったソレイマニ司令官の暗殺も、米国防当局が提案したオプションの中では、「最も極端な選択肢」だったとされる。

 米国では、大使館襲撃問題は、過去、大統領選にも影響する大きな事件となっている。

 1つはカーター政権下の1979年に起きたイランのテヘラン大使館人質事件であり、もう1つは、2012年のリビアによるベンガジ領事館事件だ。

 後者では、スティーブンス在リビア大使ら4人がイスラム武装勢力により殺害され、当時のヒラリー・クリントン国務長官が責任追及される事態となった。

 トランプ大統領は2つの事件に関し、民主党を非難しており、イラン司令官殺害という強硬措置をとったのは、それらの事件の「二の舞」になることを恐れた可能性が考えられる。

 問題なのは、ベテランの国防関係者がホワイトハウスからいなくなったことだろう。

 トランプ政権発足時、ワシントンでは「3G政権」との言葉が聞かれた。「Gazillionaire:兆万長者」、「Goldman Sachs:ゴールドマン・サックス」、「General:将軍」の頭文字をとったものだ。

 だが、現在、兆万長者とゴールドマン・サックス出身者は減少、将軍はゼロになった。

 ジェームズ・マティス前国防長官は海兵隊大将、ジョン・ケリー国土安全保障長官(その後、大統領首席補佐官)は、退役海兵隊大将、ハーバート・マクマスター大統領補佐官は陸軍中将だった。

 一方、マイク・ポンペオ国務長官の除隊時の階級は陸軍大尉、マーク・エスパー国防長官は同陸軍中佐だ。

 こうした軍事の専門家が政権にいなくなった状況で、トランプ大統領が大統領選を控え、今後も予測不能な行動を起こす可能性が想定され、イラン情勢は予断を許さないといえる。

米中対立、構造問題の解決は
「第2段階」に持ち越し

 米中貿易戦争も、1月15日、トランプ大統領と中国の劉鶴副首相が「米中経済貿易合意」に署名し、一時休戦になったが、中国の産業補助金の是正や国有企業改革等は盛り込まれず、多くの構造問題の解決は、「第2フェーズ」に持ち越されることになった。

 今回の合意は、米中貿易協議における「第1段階の合意」と呼ばれるもので、米国は2019年9月に中国からの輸入品1200億ドル相当に課した追加関税15%を、署名から30日後の2月中旬に、半分の7.5%に引き下げる。

 一方で中国は今後2年間で、米国からの輸入を計2000億ドル増やすことになっている(図表1)。

 また、知的財産権の保護強化、技術移転の強要の禁止、金融サービスにおける外資規制等の緩和、為替操作の禁止、紛争解決制度の創設等も盛り込まれた。

 だが、米国が中国からの輸入品2500億ドル相当に課している25%の追加関税は維持され、また 「第1段階の合意」が、米大統領選を意識したものであることは、署名式の際の状況を見ても明らかだ。

 署名式に、トランプ大統領は、農業団体や経済団体、金融機関の関係者など200人以上を招待し、トランプ大統領は中国の代表団を横に立たせたまま、署名までの約1時間、壇上で自らの成果を強調し、独演会の様相になった。

 再選を狙うトランプ大統領にとっては、今回の「第1段階の合意」も選挙キャンペーンの一環にすぎないといえそうだ。

 ということは、米中貿易協議の今後の展開もトランプ大統領の支持率や大統領選の状況次第で変化することが予想される。

 再選に向け苦戦が伝えられるような状況になれば、トランプ大統領は支援者の支持を得るために、中国に対し一段の輸入拡大や構造改革を要求し、再度の追加関税の実施に踏み切ることもあるだろう。

 一方、中国側も、米大統領選の動向などをにらみながら、譲歩策を調整する可能性がある。民主党勝利の可能性が高まれば、一段の譲歩策を打ち出すにしても、2021年の新大統領就任後に、対米交渉のカードとして残すことも有力な選択肢となりそうだ。

 こうしたことを考えると、当面は、米中とも「第1段階の合意」の履行状況のチェックをするといった腹の探り合いを続け、「第2フェーズの合意」は、早くとも米大統領選直前や、大統領選後になり、民主党候補が勝利した場合は、新大統領就任後となる可能性が高いのではないか。

気候変動問題が最重要テーマに?
「環境リスク」が上位5位占める

 ほかにも、「もう1つの危機」として急浮上しているワードが「Climate Emergency(気候非常事態)」だ。

 WEF(世界経済フォーラム)は1月15日、ダボス会議開催(21日)に合わせて、2020年版の「グローバルリスクレポート」を発表した。

 15回目となる2020年版のグローバルリスクレポートでは、調査開始以来、初めて、「発生する可能性の高いリスク」上位5位が全て、「環境リスク」になった(図表2)。

 具体的には、今後10年間に発生する可能性の高い上位5リスクは、(1)異常気象現象(例:洪水・暴風など)、(2)気候変動の緩和・適応の失敗、(3)大規模な自然災害(例:地震・津波・火山爆発・地磁気嵐)、(4)大規模な生物多様性の喪失と生態系の崩壊、(5)人為的な環境損害・災害――となっている。

 実際に世界各地で、かつてない猛暑や干ばつが起き、オーストラリアではいまも大規模な山火事が続いていることもあって、気候変動問題への関心は高まっている。

 EUは1月14日、10年間で総額1兆ユーロ規模の「欧州グリーン・ディール投資計画」を発表。米大統領選で、トランプ大統領に対峙する民主党候補も大半が大規模な気候変動対策を公約に掲げている。

 少なくとも、民主党支持者や無党派の間では気候変動問題は大統領選の1つの争点となりそうだ。

 一方、「地球温暖化はでっちあげ」とするトランプ大統領は「パリ協定」から離脱し、次々と環境規制の撤廃や緩和を打ち出している。

 気候変動対策が2020年代初頭に世界的なブームに進展するかどうかも、11月の米大統領選の結果が大きく影響するといえそうだ。

中国発の新型ウイルス問題
「世界的な流行」に拡大するか

 波乱の幕開けの最後が、中国での新型ウイルスのアウトブレイク(集団発生)だ。

 昨年12月31日に武漢市で検出された原因不明の肺炎は、1月7日に中国当局により、新型コロナウイルス(2019-nCoV)が原因と特定され、WHOに通知されたが、過去1カ月で発症者数や死亡数は急増している。

 中国政府の国家衛生健康委員会によると、28日午前零時段階で、発症者数は中国国内だけで4515人、死亡者数は106人に増え、発症数は31省・直轄市・自治区中、30行政区分に広がった。都市の封鎖も23日の武漢市から、湖北省全域に拡大された。湖北省の人口は約6000万人だ。

 中国以外での発症者も、タイ、日本、韓国、台湾、米国、マカオ、香港、シンガポール、ベトナム、フランス、マレーシア、ネパール、オーストラリア、カナダ、カンボジア、スリランカ、ドイツに拡大している。

 今回の「アウトブレイク(集団発生)」が、「パンデミック(世界的な大流行)」にまで拡大するかどうかの重要なポイントは、以下の点だ。

(1)現時点で武漢市以外にどの程度感染者が拡大しているか、(2)ウイルスの変異による感染効率性向上の有無、(3)スーパースプレッダーの出現の有無、加えて、(4)各国政府が迅速に効果的な対応をするかどうかだ。

 コロナウイルスの場合、風邪の一種類でもあり、今回の新型コロナウイルスに関しても、症状には個人差が大きいとみられる。

 全く、せきや発熱などの症状のない感染者数がどの程度存在し、武漢市以外の中国国内及び海外にすでにどの程度、広がっているかは全く不明だ。中国当局は26日、潜伏期間については「だいたい10日前後で、最も短いと1日で発症し、最長で14日。潜伏期間中にも感染する性質があり、この点がSARSとは大きく異なる」(国家衛生健康委員会の馬暁偉主任)と発表している。

 中国人の旅行客は例年は、春節1週間に、国内で4億人、海外へも600万人程度が移動するとみられるが、春節期間の前後を含む40日間の旅行者数は中国国内だけでのべ30億人と推定されている。

 新型コロナウイルスの潜伏期間は2日から14日とのことだが、遺伝子配列が近いとされるSARS-CoV(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)並みとすると、少なくとも、今後2週間程度は様子を見る必要がありそうだ。

SARS感染の時とは違う状況
中国人訪日客は20倍以上

 2003年のSARSの感染は、アジアに限られ、特に香港に集中した。

 背景には、当時、中国人の海外への旅行者は香港やマカオなどを除くと、数が多くなかったことに加え、発生元が香港と近い広東省だったことがある。

 SARS発症者数も中国の5327人に次いで、香港が1755人と多く、死亡者も中国の349人に次いで、香港で299人と多数になった。

 一方で当時、国際的には、地政学的リスクへの関心が高まっていた。

 ブッシュ米国大統領がイラク攻撃を準備、2月5日には、国連安保理でイラクが大量破壊兵器を保有しているとする証拠を米国が提示、開戦が間もないとみられていたからだ。

 その後、米英軍は3月19日に「イラクの自由作戦」を開始し、イラク戦争が始まった。また、中国国内では不良債権問題も再燃していた。

 こうした状況があったために、SARSの場合は、SARS影響だけを取り出して、経済や金融市場への影響を分析するのは困難だ。

 また、SARSの日本での発症者はゼロだった。

 今回の新型コロナウイルスでは、中国以外で発症が確認されたのは、日本がタイに次いで2番目だ。

 これは偶然の面もあるだろうが、日本を訪れる外国人観光客の数は、17年前からは急増しており、特に中国人観光客の数が激増していることも背景にあると考えられる(図表3)。

 2003年の訪日外国人客数は521万人だったのに対して2019年は3188万人(速報)と6.1倍に急拡大している。うち、中国人の訪日客数は2003年の44万8782人に対し、2019年は959万4300人(速報)と、21.4倍だ。

 SARSの場合、患者数のピークは5月上旬で、WHOは7月5日に終息宣言を出した。

 今年7月のオリンピック・パラリンピック大会までには、新型コロナウイルス問題が終息していることを期待したいが、日本が「観光立国」を目指すなら、今後も同様のことが起こる可能性があることを考えておくことが重要だ。

「備えあれば憂いなし」というが、地震や台風同様、日頃の備えと十分な情報開示・提供が国や地方公共団体に求められるとともに、国民も感染リスクを意識した行動が必要だ。

(SMBC日興証券金融財政アナリスト 末澤豪謙)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ