このページの本文へ

韓国は超格差社会!カンヌ最高賞映画『パラサイト』が描く悲惨な現実

2020年01月24日 06時00分更新

文● 白川 司(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
Photo:Chung Sung-Jun/gettyimages

昨年5月のカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した『パラサイト――半地下家族』が、日本でも1月から公開中だ。韓国映画では初めてとなるパルムドール受賞作。韓国の富裕層と貧困層の2つの家族を中心としたエンターテイメントの傑作だ。この作品が映し出す韓国の格差社会の現実と課題はどのようなものか。(国際政治評論家・翻訳家 白川 司)

韓国での観客動員数は
1000万人超の大ヒット

 カンヌ国際映画祭での最高賞パルムドールに続き、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞した映画『パラサイト――半地下の家族』(以下、『パラサイト』)は、韓国の貧困家庭をユーモラスかつ悲愴的に描いた韓国映画の傑作である。

 この映画をどういったジャンルに入れればいいのかは迷うが(「ブラックコメディ」と呼ぶことが多いが)、いずれにせよ韓国社会を鋭くえぐった完成度の高い作品であることは間違いない。

 ここでは、映画『パラサイト』を出発点に、この作品を生み出した韓国社会の特徴や課題などを考える。できるだけ「ネタバレ」しないように気をつけるが、どうしても内容に触れざるをえない点がいくつかあるので、純粋に作品を楽しみたい読者は、映画を先にご覧いただくことをおすすめしておく。

 父母と息子、娘の4人家族がソウル市のボロボロの建物の1階に住んでいる。「1階」といっても、座ると見上げる位置に道路がある「半地下」だ。食事中でも酔っ払いの立小便が丸見えになる。

 父親はいくつもの事業に失敗。母は元ハンマー投げの選手で怪力の持ち主だが、夫婦ともに失業中で、半地下の自宅でくすぶっている。主人公キム・ギウとその妹は大学受験に落ち続ける覇気がない浪人生。ともに予備校に通うお金はない。一家は内職で糊口をしのごうとするが、その内職すら全うできない。

 だが、留学するソウル大生の友人からギウが裕福な家の娘の家庭教師を頼まれてから、家族の運命が動きだす。

 一家で悪知恵を働かせ、主人公ギウはソウル大生を装って口先だけで家庭教師になることに成功。さらに妹は子供の美術家庭教師、母はお手伝い、父は運転手として雇われる。家族であることを偽って、一家全員がこの裕福な家に寄生(パラサイト)しはじめるのだ。

 半地下にある住居は韓国では珍しいものではなく、庶民的な地域を歩いていると頻繁に目にする。だが、半地下からの目線で外の世界を見るとき、それは貧困を象徴するかのような異様な景色であることに気づく。

 ただし、この映画の本領は、貧困を描いた部分だけではない。寄生生活を上流階級と貧困層の対比の中で展開するのかと思いきや、驚きの新事実が発覚するのを境にして、半地下の家族と彼らより悲惨な「地下夫婦」との悲壮な戦いが繰り広げられていくのだ。半地下に住む貧困家族が、さらに悲惨な貧困夫婦との間で、「豪邸の住人」という既得権益をめぐって醜い争いを繰り広げていく。これこそが、この映画の真骨頂だ。

 醜く争う両家族に比べると、彼らの「寄生先」である富裕家族の面々は、むしろ素直で邪心がない人たちである。このことを、主人公の母は「金があれば性格のしわも伸ばせるのだ」と印象的な比喩で語っている。自分たちがずるがしこく立ち回りウソをつき続けるのは、貧困のせいであり、社会が生み出したものだと言いたかったのではないだろうか。

 娯楽映画とは言いがたい『パラサイト』が、韓国国内で1000万人以上の観客を動員できたのは、この映画に描きこまれた貧困家族の心情に共感できる韓国人が多かったからというのもあるだろう。

IМF管理を契機に
エンタメ産業が飛躍

 韓国社会が大きく変わったのは、通貨危機の影響で1997年にIMF(国際通貨基金)が財政管理を始めてからである。過酷な緊縮財政のもと、企業倒産が多発して財閥(チェボル)も整理された。労働条件も格段に厳しくなって貧富の差が極端に広がり、IMF管理の前後では違う国になったように感じるほどだ。多くの韓国人にとって、文字どおりトラウマになった出来事である。

 だが、同時に、IMF管理をきっかけにサムスンなどの財閥は競争力をつけて国際市場で大躍進することなったのも事実だ。韓国のエンターテインメントが世界市場を目指して研ぎ澄まされていったのも、また、政府が韓国エンターテインメントの国際化に必死に取り組んでいることも、IMF管理が大きなきっかけとなっている。

 現在は、韓国映画や音楽などが国際市場に積極的に打って出た結果、韓国エンターテインメントはアジアや中東を中心に世界的に人気を博している。

 例えば、昨年10月、サウジアラビアで女性の観客を入れて初めて行われた海外アーティストの公演は、韓国の人気男性グループBTS(防弾少年団)のもので、3万人の聴衆が集まったと報じられている。昨年の米ビルボード・アーティスト・チャートで首位を獲得したこととともに、韓国の音楽エンターテインメントのレベルの高さを見せつけた。

 BTSの人気ぶりは1グループのアーティストの成功というだけではない。国家的プロジェクトとして韓国エンターテインメントが世界に認められた象徴的な出来事だといえるだろう。

韓国ドラマに
財閥家族が多い訳

 日本において韓国ドラマブームのきっかけを作ったのは2002年の(日本放映は2003年から)『冬のソナタ』だろう。主役のペ・ヨンジュンが人気を博して、「ヨン様ブーム」が日本列島を席巻した。

『冬のソナタ』は初恋と三角関係という日本人にもなじみのあるテーマであったために、韓国ドラマの「入門作品」の役目を果たした。甘い雰囲気で人気だったペ・ヨンジュンも、韓国では日本ほどの人気を勝ち得ておらず、むしろなぜ日本で彼が人気なのかと、当時、私は何人もの韓国人に聞かれたものだ。日本ではペ・ヨンジュンの金髪で眼鏡をかけ笑顔の似合う優男然とした雰囲気が評判になったが、男性としての「完成度」を求めがちな一般的な韓国人の好みとはいくぶん外れていたようだ。

 人気のある韓国ドラマは財閥家族をテーマにしていることが意外と多い。典型的なのは財閥の御曹司と庶民の女性が恋に落ちるストーリーである。

 日本であれば大企業の社長の息子が一般的な家庭の女性と恋に落ちたからといって、絶対に結婚できないということはないだろう。日本には「階級」が存在せず、結婚があくまで当人同士の問題にすぎないからである。

 それに対して韓国では、結婚は家と家の結びつきが優先され、同等の「格」にある家族同士で行われるべきものだと考える傾向がある。反対に、裕福な者が貧困家庭の出身者と結婚すれば、結婚相手だけでなく、家族ごと抱え込むような状態になることも珍しくない。

 財閥の御曹司と一般家庭の娘の間には高くそびえる壁があり、だからこそドラマになる。韓国ドラマが「大きな物語」となりうるのは、いまだに階級意識が根強く残り、階層の違う者同士の結婚に大きな葛藤が描けるからというのもある。

 日本にも三菱や三井や住友など財閥は存在するが、サムスンやLGや現代など韓国の財閥の特徴は、一大コンツェルンでありながら、創業以来同族経営が続いていることにある。

 韓国で財閥トップになるためには、創業家に入るしかない。だからこそ相手の格が重視され、一般庶民が御曹司と結婚することはほとんど考えられない。韓国社会は、経済格差とその固定化、そして同族経営がもたらすいわば疑似階級社会と言ってもいいかもしれない。

大ヒットの背景にある
若者たちの絶望

 映画『パラサイト』の中で、友人が主人公ギウに自分がやっている家庭教師を紹介したのは、自分の好きな教え子を、ギウになら取られないと確信していたからである。富裕層になる可能性を手にした名門大生である彼は、予備校にも行けないしがない浪人生であるギウを富裕層の娘が相手にすると考えていなかったからだろう。超学歴社会である韓国では、貧困を脱出するには名門大学に入ることが数少ない選択肢となっている。

 だが、韓国の誇る名門大学であるソウル大学に入れたとしても、それだけで将来が約束されるわけではない。

 韓国人は職種より企業の「格」を重んじる傾向があり、例えばサムスンのような一流企業に入りたい者は、一流大学生同士のさらに厳しい競争にさらされる。

 それは、韓国において就職が学生個人の自由ではなく、学費を負担してきた親、そして「家」に属するという面が強いからである。

『パラサイト』の主人公ギウはソウル大学を目指しながらも、経済的な制約でそれがかないそうもない、でも、それしか自分たちが救われる道はないといった、庶民の心情を象徴しているのでないか。

 ところで、『パラサイト』で、高台の豪邸に住むIT企業経営者のパク・ドンイクは、有能で人望ある人物として描かれている。おそらく普通の家庭の出身である彼は、多くの若者にとってあこがれの成功者であろう。

 彼の何気ない言葉の中に、貧困層への差別意識を感じ取ったある主人公の父ギテクは、彼に対して理不尽な復讐を果たし、逃亡する。そんな父を救う方法を主人公ギウが考え出したところで、物語は終わる。それは希望というよりも、絶望的なほど可能性の小さな願望としかいえないものだ。

『パラサイト』には悪人は出てこない。それなのに、社会的な矛盾の中で「小さなパイ」をめぐって凄惨な争いが展開され、すべての者が不幸にたたき落とされるのである。

 税制緊縮がもたらす経済格差は、もちろん日本人にとっても人ごとではない。それがいかに悲惨なことであるかは、多くの韓国人が身にしみて理解しているのだろう。こうした背景の中で『パラサイト』が生まれ、韓国国内で大ヒットとなったのではないだろうか。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ