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不動のキャプテン・リーチマイケルが「東芝」で担う意外な役割

2020年01月17日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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リーチマイケル
トップリーグ開幕戦ではリーチマイケルがボールを持つと「リーチコール」が響き渡った 写真:松尾/アフロスポーツ

日本中を熱狂させた、魂をほとばしらせた戦いから3カ月あまり。舞台をラグビーワールドカップ2019日本大会から国内最高峰のトップリーグ2020へ、桜のジャージーをそれぞれの所属チームのそれへと変えて、日本代表選手たちが帰ってきた。ほぼ満員となった聖地、秩父宮ラグビー場でナンバー8として先発フル出場を果たし、東芝ブレイブルーパスの開幕戦勝利に貢献した日本代表のキャプテン、31歳のリーチマイケルが踏み出した新たな一歩を追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

「リーチコール」が何度も響く熱狂
秩父宮ラグビー場はほぼ満員に

 重低音のコールが降り注いでくるたびに、背中を力強く後押しされた。前半に4回。後半には7回。東芝ブレイブルーパスのナンバー8、リーチマイケルがボールを持って突進する度に、秩父宮ラグビー場のスタンドを埋めたファンが、待っていましたとばかりに同じ言葉を繰り返した。

「リーーーーーーーーーーチ!」

 グループリーグから快進撃を続け、史上初のベスト8進出を果たした日本代表に導かれる形で、空前の盛り上がりを見せた昨秋のラグビーワールドカップ2019日本大会。いつしか名物となったのが、日本代表のキャプテンを担ったリーチがボールを持つ度にスタンドを揺るがしたコールだった。

 ラグビー界にはもともと、南アフリカ代表の世界的な名手、プロップのテンダイ・ムタワリラがボールを持つ度に、身長183cm体重116kgの巨体から繰り出される強烈な突進を期待するファンが、日本語で「野獣」を意味するムタワリラの愛称「ビースト!」と大声をあげる光景が定着していた。

 日本大会にも出場し、準々決勝で日本代表を撃破。最終的には3度目の優勝を果たした南アフリカの主力を担ったムタワリラへは、日本の各会場で「ビースト!」コールが響き渡っていた。それに閃いたのか。日本の快進撃の象徴だったリーチへのコールが、自然発生的に広がっていった。

 感動を呼んだ数々の激闘から3カ月あまり。以前からのオールドファンも、ワールドカップに魅せられて生まれ、年末の風物詩、ユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされた「にわかファン」も、声を揃えて「リーーーーーーーーーーチ!」をとどろかせる瞬間を待ち焦がれてきたのだろう。

 全国の6会場で行われた8試合をもって、12日に幕を開けたトップリーグ2020。ワールドカップ日本代表31人のうち29人が、まさに「昨日の友は今日の敵」とばかりに激しい火花を散らす、国内最高峰の戦いの舞台は同時に、リーチコールが復活する絶好の機会となった。

 東芝でプレーするリーチは、秩父宮ラグビー場で昨シーズン2位の強豪サントリーサンゴリアスと対峙。26-19で激闘を制した試合後に、感謝の思いを込めながらこんな言葉を残している。

「今日はボールを持つ機会が少なかったんですけど、リーチコールはしっかり耳に入りました」

 自分自身へのコールはもちろんのこと、それ以上に31歳の闘将の心を震わせる光景が、午後2時のキックオフ直前に視界へ飛び込んできた。ラグビーの聖地と呼ばれる秩父宮ラグビー場のスタンドが、ほぼ満員となる2万1564人の大観衆で膨れ上がっていたからだ。

 若い女性や小さな子どもたちも目を輝かせながら、リーチをはじめとする日本代表選手へ熱い声援と視線を送っていた。魂を揺さぶられ、胸の鼓動が高鳴ってくるのをリーチは感じていた。

「僕にとってトップリーグでの経験は今年で9年目になりますけど、本当に初めて見る光景でした。昨年のワールドカップでたくさんのファンを増やしたことを、とても嬉しく思っています」

 グループリーグ初戦で南アフリカを逆転で下す世紀の大金星で、世界中を驚かせた2015年のワールドカップ・イングランド大会。感動と興奮を引き継ぐ舞台のはずだった、2015-16シーズンのトップリーグを思い出せば、クボタスピアーズを下した開幕戦の観客数は1万1085人だった。

 日本で初めて開催されるワールドカップまで1年ちょっとに迫っていた、2018-19シーズンの開幕を迎えても盛り上がりを見せない。キャノンイーグルスを撃破した開幕戦のそれは9477人。舞台はすべて秩父宮ラグビー場だったからこそ、ラグビー界に訪れた一大ブームをリーチは肌で感じていた。

「僕たち選手にできるのは、ひたむきにプレーしていくこと。今日は東芝らしいゲームができて、サントリーも素晴らしいゲームをしたので、さらにラグビーに興味をもってくれたファンが増えたと思う。これから先、増えたファンの方々がずっとラグビーを好きになってもらえるように、選手として毎週のようにいい試合ができるように頑張っていきたい」

W杯後はコンディション不良に
食事を含めて肉体を改造中

 開幕戦で対峙したサントリーには日本代表の盟友、流大がスクラムハーフで、松島幸太朗がフルバックでそれぞれ先発していた。特にキックオフ前に図らずも視線が合った後者は、リーチによれば「変なポーズを取ってきた」という。敵味方として戦う前に、笑いを誘ってきたのだろう。

「試合中は本当に集中していないと、目が合ったときにどうしても笑ってしまう。僕個人としては代表では友だちだったとしても、トップリーグの試合中は敵として戦いたいと決めているので」

 日本で開催されるヒノキ舞台へ向けて、実に240日間を超える合宿を行ってきた日本代表は、家族よりも長く、濃密な時間を共有してきた。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチが、身も心もひとつにしようと掲げた『ONE-TEAM』は前出の新語・流行語大賞で年間大賞に輝いている。

 家族のような存在だからこそ、一挙手一投足の違いが分かる。開幕戦を終えた取材エリア。幾度となくリーチと激突した松島は、悪戯小僧のような笑顔を浮かべながらこんな言葉を残している。

「トップリーグへ向けて肉体を改造した、と言っていましたけど、思ったより強くなかったですね。もうちょっと期待していましたけど、まだ休みぼけがあるのかな」

 ワールドカップで繰り広げられた激闘の代償とでも言うべきか。トップリーグの開幕を前にして、リーチはコンディション不良に苦しめられていた。昨年12月に東芝の練習に合流し、年末のトヨタ自動車ヴェルブリッツとのプレシーズンマッチを経て、開幕に臨む青写真を当初は描いていた。

「それがベストのプランだったんですけど、調子をちょっと崩す状態で東芝に合流してしまったので。3週間のリハビリを消化しながら、今週の月曜日からフルメニューができるようになりました」

 通常ならば年をまたいで開催されるトップリーグが1月の開幕となったのも、日の丸を背負って戦った選手たちに十二分な休息期間を与えるためだった。年末年始をリハビリにあて、他の日本代表選手たちが審査員として出演した、大晦日の紅白歌合戦などのテレビ番組も自粛していたリーチは今月6日から全体練習に復帰し、まさにギリギリで開幕戦出場に間に合わせていた。

 調整を進める過程で最も気にしていたのが体重だった。ワールドカップ期間中の113キロが、終了後に生まれ故郷のニュージーランドへ帰省した時の105キロから、日本へ帰国して1週間で109キロに再び増えた。これ以上増えれば、下半身などに不必要な負荷がかかってしまうと判断したのだろう。

「ちょっと身体を絞って、肉を食べないようにしています。肉を食べるとどうしてもご飯をたくさん食べてしまい、どんどん、どんどん大きくなってしまうので。31歳になって魚だけに絞って、1年間やっていきたいと思っています」

 松島が悪戯っぽく挑発した肉体改造がまさに食事改革であり、着手して間もないからこそ、リーチも「チームとして試合に勝ったので、別に何を言われてもいいですよ」と笑顔で返した。今後は開幕戦時点の109キロをキープするべく、食事内容を含めた肉体改造を継続していく。

日本代表では不動のキャプテン
東芝では「堀江翔太の役」に徹する

 2023年にフランスで開催される次回のワールドカップへ向けて続投が決まった、ジョゼフ・ヘッドコーチに率いられる日本代表への挑戦も、もちろん継続させていく。ただ、過去の実績や名声などは関係ないとリーチ自身が誰よりも強く理解している。同時に日の丸を介して育まれた強く、太い絆を大切にしていきたいと願うからこそ、リーチは3年後へ向けてこんなテーマを掲げている。

「過去のことは忘れずにゼロからスタートして、もう一回アピールしていきたい。自分のプレースタイルも含めてもう一度、ゼロから作りあげてく。自分のよさも弱さもそれぞれ強くしながら、シーズンを戦っていきたい」

 本来ならば過去のことは「忘れて」となる中で、あえて「忘れずに」と位置づけた点に、心から愛するラグビーを過去から今現在、そして未来へと紡いでいくリーチの熱き思いが凝縮されている。

 代表では不動のキャプテンを担ってきたが、今シーズンの東芝では共同キャプテン、スクラムハーフの小川高廣と日本代表フランカーの徳永祥尭を支える立場に回る。

「まずはキャプテンのサポートに徹していきたい。キャプテンがやりたいことをそのまま実践することが一番重要なので。僕が代表でキャプテンを務めていたときに、堀江さんのような重要な人間がいて、すごく頼りになった。代表でいう堀江さんの役を、東芝でやらなきゃいけないと思います」

 リーチの言う「堀江さん」とは、パナソニックワイルドナイツでプレーする、ドレッドヘアのフッカー堀江翔太。過去に優勝5回を誇る名門ながら、昨シーズンは11位に甘んじた東芝を復活させていく過程で、新生日本代表への招集もあると考えているのだろう。サントリー戦の自己採点を、10点満点で「4」と厳しい数字をつけたリーチは、こんな言葉を残すことも忘れなかった。

「来週の試合へ向けて、もっとボールタッチ数が増えるように頑張っていきたい」

 ボールタッチ数や前へと突進する機会が増えれば、その分だけ「リーーーーーーーーーーチ!」が響き渡る場面も多くなる。自分たちの手で手繰り寄せた一大ブームを文化へと昇華させ、日本スポーツ界に定着させる大役をも担いながら、重低音の熱いコールを前へと進む糧に変えてリーチは戦い続ける。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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