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2020年の国内外の重要イベント、キーワードは改憲と米大統領選

2020年01月08日 06時00分更新

文● 森田京平(ダイヤモンド・オンライン

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国会議事堂
Photo:PIXTA

 トランプ米大統領が就任した2017年1月以降の世界経済は、景気や政策よりも政治に振り回される局面が増えた。

 これは、市場の動向や経済を展望する際には、重要な政治関連イベントを押さえておかなくてはならないことを意味する。

 2020年が始まったこのタイミングをとらえて、同年以降に待ち受ける国内外の重要イベントを展望してみたい。

 一般に、市場動向の予想を目的としてイベントを見る際、重要な視点は、「2019年になくて2020年にあることは何?」と「2019年にはあったが2020年にないことは何?」だ。

「2019年にも2020年にもあること」は市場がすでに消化している可能性があり、また「2019年にも2020年にもないこと」はそもそも市場の注目対象にならないからだ。

リフレ派が就任するか否か
原田審議委員の後任人事

 国内の主要イベントは下記のことが予定されている。(図表1参照)。

 「2019年になくて2020年にあること」として、日銀政策委員会の人事が挙げられる。

 2020年3月に原田泰審議委員、同年6月に布野幸利審議委員の任期が切れる。このうち、原田委員の後任人事には一定の注目をしておきたい。

 なぜなら、同委員はリフレ派として知られており、その後任として同じようなリフレ派が就任するか否かで、「CPI前年比2%上昇」と定義されている物価安定目標の実現に対する政府の固執度合いを推し量ることができるからだ。

 なお、2021年にも日銀政策委員会の人事が待っている。3月の櫻井眞審議委員、6月の政井貴子審議委員の任期が切れるのだが、これらの人事は金融政策を展望する際の焦点にはならないだろう。

安倍総裁任期切れを前に
「政局の年」になる可能性

 一方、「2019年にはあったが2020年にないこと」として、国政選挙が挙げられる。2019年は参議院選挙があったが、2020は現時点では国政選挙は予定されていない。

 しかし、実際には2020年は国内政治にとって「政局の年」となる可能性を含んでいる。

 2020年の国内政治を展望する際のポイントは2点ある。(1)足元からの“forward-looking”な分析は無意味であり、(2)いったん2021年に視点を飛ばして、そこからの“backward-looking”つまり逆算的な展望が求められるという点だ。

「2021年からの逆算」という視点に立つとき、軸となるのが2021年9月である。

 同月には自民党総裁選が行われるはずだが、現行の自民党党則第80条に基づくと、同党総裁として連続3期目(1期は3年)を終える安倍首相には立候補の権利がない。

 つまり安倍政権が終わる。このことを見越して、安倍首相は3期目の任期が切れる同月(2021年9月)までに憲法改正のための国民投票を行いたいとの姿勢をすでに明らかにしている。

 改正を経て新憲法が施行されるには「国会議員(←政府ではない)による憲法改正原案(改憲原案)の国会提出 → 改憲案の国会発議(衆参各院で総議員の3分の2以上の賛成が必要) → 国民投票(投票総数の過半数の賛成が必要) → 新憲法の公布 → 新憲法の施行」という過程を経る必要がある(図表2参照)。

 この手続きがいかにスムーズに進んだとしても、この過程は少なくとも1年強の時間を要すると見込まれる。

 これを踏まえると、安倍首相が目指す2021年9月までの国民投票が実現するには、2020年中に国会議員によって改憲原案が国会に掲示され、2021年前半には国会が改憲案を発議する必要がある。

 その間の政治展開は相当慌ただしくなろう。

憲法改正を巡る
「キャメロン現象」のリスクに警戒

 しかも、ただ「慌ただしい」だけではない。そこには「政局」となる可能性が秘められている。

 ここでのポイントは、小選挙区制のもとで選出された与党の「議席配分」(国会における政治力)が「得票率」(有権者の支持)を大きく上回る傾向があることだ。

 憲法改正を念頭に置いた場合、「議席配分」で乗り切ることができるのは、憲法改正案の「国会発議」までだ。なぜなら、国会発議には「衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成」が求められており、議席数がモノを言うからである。

 一方、国会発議の後に待ち受ける「国民投票」では、各党の議席数は大した意味を持たない。なぜなら、国民投票が求めるのは「投票総数の過半数の賛成」だからだ。

 つまり、国民投票でカギを握るのは有権者による「支持」であって、「議席数」ではない。

 1960年以降の全ての衆議院選挙における自民党の議席獲得割合(衆院定数に占める自民党の議席割合)と得票率(投票者のうち自民党に投票した人の割合)を見ると、小選挙区制が採用された1996年以降、両者の乖離が大きいことが分かる(図表3参照)。

 すなわち、自民党の議席獲得割合は実に60%に達しているのに対して、得票率は40%以下であり、しかも30年近くもの間、横ばい圏内にある。

 小選挙区制のもと、得票率が伸びない中でも議席獲得割合が増えたということは、現在の政府・与党の政治力は「支持なき議席」あるいは「(小選挙区制という)制度に依存した議席」であることを意味する。

 ここで思い起こしたいのが、キャメロン元英国首相(保守党党首)である。

 自身の党の議席数の多さを見て「勝てそうだ」と思い、ブレグジットを巡る国民投票に打って出たところ、むしろ負けてしまった。

 英国は他の選挙制度と並行する形ではあるが、単純小選挙区制を採用している。その結果、英国でも与党の「議席」と「支持」が乖離しやすい(議席>支持)。

 日本でも小選挙制の採用以降、自民党の「議席」が「支持」(得票率)を大きく上回っていることを踏まえると、議席の多さを背景に自信を持って憲法改正の国民投票に挑んだものの、支持が伸びず敗北するという「キャメロン現象」が起きないか、十分に注視しなくてはならない。

 憲法改正に向けた手続きが本格化すればするほど、2020年は政局色を強めるはずだ。市場参加者としても国内政治を視野に入れたシナリオ設定が求められる。

 そのうち、「Black Swanケース」(めったに起こらないが、ひとたび起きたら絶大な影響をもたらす事象)として、「安倍政権終了ケース」も思考実験をしておく必要があるだろう。恐らくその場合、ドル円と長期金利が同時に低下しそうだ。

海外は米大統領選が新たな要因
その他は2019年とほぼ同じ

 海外の重要イベントについては、「米・中貿易摩擦」「米国大統領選挙」「ブレグジット」「香港」などに注目したい。

「米国大統領選挙」を除けば、2020年の海外イベントのキーワードは2019年とほぼ同じだ。

 米・中貿易摩擦は1月15日に「第1段階」の合意が署名される方向にある。署名が行われた30日後(したがって2月14日か?)には、米国は2019年9月に発動した1200億ドル分の制裁関税率(追加関税率)である15%を7.5%に引き下げることになっている。

 一方、気になるのは、中国が米国からの輸入を2年で2000億ドル拡大するという合意内容だ。

 そもそも中国の米国からの輸入実績は年率1000億~1500億ドルだ。これを2年で2000億ドル増やすということは、年率換算でほぼ倍増を意味する。貿易のインフラも含めて、そこまで本当に増やせるものなのか疑問が残る。

 同時に、この疑問は米・中貿易摩擦の「第2段階」の合意ができなくなるというリスクにつながる。

 また、3月3日は日本では多くの地域でひな祭りを祝うが、2020年の米国では「スーパー・チューズデー」に当たり、テキサス、カリフォルニアなどの大票田で、大統領選を巡る党員集会(caucus)や予備選挙(primary)が行われる。

 この結果で、与党共和党、野党民主党それぞれの公認候補の方向性が見えてくるはずだ。

 多くの市場参加者は、2020年の経済・市場見通しを作る上でトランプ大統領の再任を前提としていると推察されるが、スーパー・チューズデー以降、その前提が妥当なのかどうかが見えてくるだろう。

 なお、米国大統領選の勝利者が共和党であるか民主党であるかを問わず、米国と中国の対立(覇権争い)は長期化する公算が大きい。

 ブレグジットについては、昨年12月12日の英国総選挙で与党保守党が大方の予想通り勝ったことで、1月末の期限に向けてブレグジットの手続きが進む。

 ただし、経済の面での緊張感は何ら薄らいでいない。なぜなら、ジョンソン首相が、2020年12月末までの「移行期間」を延長することに反対しているからだ。

 したがって、移行期間中に英国とEUの間で新しい自由貿易協定(FTA)の合意に達しなければ、移行期間終了後には、WTOルールが適用される形で英国とEUの間の貿易で関税が生じる。

 これは事実上の「合意なきブレグジット」である。

 香港からも目が離せない。9月には、香港立法会議員選挙が待ち受ける。

 昨年11月の香港の区議会選挙で民主派が85%の議席(452議席中388議席)を獲得する形で圧勝したことは記憶に新しい。しかし、区議会には立法権はない。

 これに対し今年9月の選挙は立法会(香港特別行政区立法会)つまり法律を制定する機関の選挙である。

 定数70に対して直接選挙枠は半数の35にとどまる(残りの半数は職能団体枠)。しかも、直接選挙枠については、過去の選挙で民主派の躍進につながったことを理由に小選挙区制が適用されていない(職能団体枠については小選挙区が適用される)。

 このように立法会議員の選挙は親中国派に有利な形で行われるが、民主派の躍進度合いでは、中国と香港の間の政治的緊張が一段と高まる可能性に警戒する必要がある。

 多国籍企業の香港撤退などにつながれば、政治問題が一気に経済問題に発展する。

 2020年は、昨年も見られたグローバル政治の緊張が続く中、改憲を巡る国内政治の不透明さが加わることで、政治、政策、景気の三つどもえが展開されることになるだろう。

(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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