このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

データと学習ではなく「人と仕事」の議論を、FRONTEO「AI Business Innovation Forum 2019」レポート

イオン銀行、ソラストの実業務における「AI活用」のリアルを聞く

2019年12月18日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

FRONTEO:ビジネスAIの議論を「データと学習」から「人と仕事」へ戻すべき

 同イベントのキーノートセッションにはFRONTEO CTOの武田秀樹氏が登壇し、「実業務におけるAI活用」にフォーカスした講演を行った。

FRONTEO 取締役CTO/行動情報科学研究所 所長の武田秀樹氏

 ガートナーの「日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクル 2019年版」によると、人工知能(AI)はすでに「『過度な期待』のピーク期」を越えて「幻滅期」に入った。だが武田氏は、AIの現実が見えてきたこの状況をネガティブにはとらえていないと語る。 この先の、実際にAIが広く社会で活用されていく「普及期」に向けてどう取り組むべきかを「ようやく落ち着いて考えられる状況になった」と解釈しているという。

 「これまでのわれわれの議論が『データと学習』に偏りすぎていたのではないか、という自戒の念もある。これを『人と仕事』の議論に戻すこと、実際に人が現場で何を(どんな業務を)やっているのか、そこにデータやマシン(AI)をどう使うのかを議論していくことが重要だ」(武田氏)

 武田氏は、その議論の題材としてリーガルテック領域から「レビュアー」の仕事を取り上げ、この業務のどこにAIを適用し、人間をサポートするのが適切なのかを分析していった。

 レビュアーとは、顧客企業が国際訴訟において何らかの主張をするために、その「証拠」となる文書を抽出する(探し出す)仕事である。「文書」と言っても電子メールなどのコミュニケーションテキストも調査対象であり、膨大な量のそれを、限られた日数の中で漏れなくチェックしなければならない。あらかじめ訴訟内容に応じて弁護士がルール(「プロトコル」と呼ばれる)を定め、大規模な案件ではそのルールに従って多くのレビュアーが一斉にレビューを進めるという。

「レビュアー」は、膨大な文書から国際訴訟の証拠となるものを見つけ出す

 武田氏は「AI化するにはまず、その仕事で行われる行為を理解しなければならない」と説明する。レビュアーの場合は、弁護士が設定した「ルールを覚える」、実際に「文書を読む」、ルールに基づいて訴訟に関連するか否かを「判断する」の3つに分解される。

 ただし、レビュアーはこの3つの行為それぞれに困難を抱えているという。たとえば「ルールを覚える」ひとつとって見ても、大規模なカルテル事案であれば、そこに関係する数十社、数十人、数百品目の複雑な相関関係を理解しなければ、文書の重要性が判断できない。レビューを進めるうちにルールが変更されることもひんぱんにある。そしてもちろん、膨大な量の「文書を読む」ことも、ルールに沿って「判断する」ことも簡単ではない。

レビュアーの「ルールを覚える」「文書を読む」「判断する」

 そこでレビュアー業務への、ルールに基づく大量の文書(テキストデータ)処理に長けたマシン/AI技術の適用が検討されることになる。ただし、訴訟に関する重要な文書調査では「スピード」だけでなく「品質(最終判断の正確性)」も求められる。人間の業務をAIで完全に置き換えるのではなく、人間をAIが支援するというアプローチが適切だ。

 武田氏は、FRONTEOが提供するAIレビューツール「KIBIT Automator」を取り上げた。KIBIT Automatorではまず、人間のレビュアーが判断した1500件程度の教師データをAIに学習させる。そのうえで、大量のレビュー文書をAIが判断し、そこから重要度スコアの高い文書だけを人間のレビュアーが判断、そして最後にもう一度AIに検証させるプロセスをとる。

AIレビューツール「KIBIT Automator」の使用プロセス。AIがスコアリングした重要度の高い文書だけを人間のレビュアーがチェックし、最後に再びAIが確認を行う

 そのうえで、KIBIT Automatorが「答え」を提供し人間を支援できる6つのポイントを説明した。たとえば「AIによる判断根拠の説明」という課題に対しては、AIの学習精度を可視化する機能を提供する。そのほか、レビュアーごとの個性(強み)に応じた文書の割り当て、文書中の重要な箇所のハイライトや分類タグのレコメンデーション、人間のレビュアーによる判断精度の検証といった機能も提供できる。また、弁護士が定めるルールそのものについても、論理性が満たされているかどうかなどのチェック機能の開発に取り組んでいると述べる。

KIBIT Automatorが「答え」を出せるもの(一部は将来予定)

 武田氏によると、人間のレビュアーとAI(KIBIT Automator)を比較した場合、非常に関連性の高い文書では人間の判断スピードが上回るが、関連性が低い文書についてはAIの判断が圧倒的に速いという。そのため、始めにAIで関連性の低い文書を調査対象から排除したうえで人間がレビューするプロセスが効率的だ。実際にKIBIT Automatorを採用したある調査案件では、およそ3万件の文書のうち半数以上の1万6000件をAIのみのレビューで排除し、レビュー業務を大幅に効率化させたという。

 「このケースの場合、人間のレビュアーのみの場合は1時間あたり平均42件の文書しかレビューできなかったが、AIが支援することで80件までスピードが向上した。KIBIT Automatorでは、コンスタントに人間のみの場合の2倍以上のスピードを達成している」(武田氏)

ある調査案件における「人間のレビュアーのみ」と「人間+AIレビュー」のレビュースピードの違い

 最後に武田氏は、実業務の現場においては人間とAIの協調的な判断、そのバランスが大切であることを示唆したうえで、講演を締めくくった。

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

ピックアップ