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韓国の自殺率はなぜOECD加盟国でトップになったのか

2019年12月16日 06時00分更新

文● 白川 司(ダイヤモンド・オンライン

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KARAのク・ハラさん
KARAのク・ハラさんの自殺により、韓国芸能界の自殺に対する関心が高まっている Photo:Han Myung-Gu/gettyimages

 人気K-POPアイドルグループだったKARAのク・ハラの自殺から、韓国芸能人の自殺に対する関心が高まっている。彼女が自殺する数日前に、私は「韓国芸能界でアイドルの自殺が相次ぐ理由、BTS・KARAは大丈夫か」という一文をダイヤモンド・オンラインに寄稿していたのだが、彼女の自殺をきっかけにかなりの方に読んでいただき、テレビ取材の申し込みなどが複数あり、この問題への関心の高さを痛感した。そこで、今回は芸能界のみならず、韓国全体の自殺の多さの原因を探っていく。

 韓国の自殺率は2004年以降、OECD加盟国では1位が続いており、一度2位に落ちたが、2018年は再び1位になっている。

 昔から自殺率が高かったわけではない。私が初めて韓国を訪れた1980年代、韓国の人たちは今よりはるかに牧歌的だった。たしかに大学受験は日本よりはるかに厳しく学生も勤勉だったが、一人ひとりと話すと、「将来は本を読んでのんびり暮らしたい」と言う学生が多く、当時の日本の若者のように「成功してお金持ちになりたい」といった上昇志向の強さは感じなかった。

 もともと韓国人は日本人ほど労働を重視してこなかった。「晴れた日は耕し、雨の日は本を読む」という暮らしを理想とし、働くことに時間を割かずに本を読む暮らしこそ最上と考える文化背景がある。

 そのためもあってか、当時、韓国に進出した日本企業のかなりが失敗に終わっている。ストライキが頻発して思うように生産活動ができなかったからである。「日本人と同じように文句を言わずに働くはずだ」と思っていた多くの会社が大やけどを負った。だが、そんな雰囲気が一変する出来事が起こる。

韓国社会を根本的に変えた通貨危機

 1997年に韓国で通貨危機が起こり、韓国政府はIMF(国際通貨基金)によって緊縮政策指導を受けた。これによって韓国の雰囲気は一変してしまった。自殺率が急上昇したのも、まさにこの時期からである。

 それまでは強力な労働組合を擁する労働者側が力を持っていたが、通貨危機によって企業側が力を持つようになって、会社に忠誠を尽くし、サービス残業は当たり前の、会社人間であることを強いられ始める。「韓国の労働生産性は日本より高い」と言われることがあるが、それはサービス残業が異常に多いことも理由だと考えられている。

 通貨危機以後、45歳前後で給料がピークになり、その後は急減する給与体系を採用する企業が増えていく。そのために、管理職になれなかった50代は悲惨だ。いや、管理職になれたとしてもさらに厳しいノルマが課せられた。

 たとえ運良く財閥系の大企業に入れたとしても、40代までに大きな成果をあげて幹部にならないかぎり、それ以後は若手社員並みの年収になることもあり、クリエイティブな面白い仕事も回ってこない。給料が下がるくらいならと退職して退職金で店などの事業をおこす者も後を絶たないが、そういう人が多いので、そちらはそちらで競争が激しいのだ。まさに「出るも地獄、残るも地獄」である。

 ちなみに、左翼的な文在寅氏が大統領に選ばれた背景には、こういった労働環境の過酷さも一因となっている。朴槿恵政権の収賄事件やナッツリターン事件などで激しい財閥バッシングが起こったが、財閥ばかりがもうかり、庶民の労働環境が改善されないことへの不満も影響しているのだろう。

 40代から50代の働き盛りの自殺は経済問題が引き金になることが多いが、その背景にはこういった労働環境の過酷さがあると考えられる。通貨危機後も、韓国政府が1990年代から内需喚起のためクレジットカード使用を奨励したことで延滞者が出た2003年の「カード大乱」、2008年のリーマンショックなど立て続けに経済問題が起こり、この世代の救済策がなかなかとれず、対策が追いつかない状態が続いている。

若者への重圧

 2013年に出版されて大ベストセラーとなった『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健著/ダイヤモンド社)は、韓国でも翻訳されて100万部を超える大ベストセラーとなっている(ちなみに、台湾でもベストセラーとなっている)。むしろ日本より韓国での反響のほうが大きかったかもしれない。

「日本人より自己主張が強く、“嫌われる勇気”など持ち合わせていそうにない韓国人になぜウケるのだろう?」といぶかしく感じた日本人もいたようだが、他人の目を気にするという点では、韓国人は日本人以上ではないだろうか。

 先述したように、韓国は儒教の影響がいまだに強く、父権社会の影響が強い。若者は年配者の目を常に気にしており、とくに若い女性への束縛が日本以上だ。「韓国人アイドル」の自殺が多い理由の一つに、「若い女性は貞淑でなければならない」という強い意識を持ち合わせる男性が多く、女性タレントの奔放な行動を見つけると集中的に罵詈雑言が浴びせられて、しかもその状態が長期間にわたって続くことが挙げられる。その激しさは日本の比ではない。

 今年自殺したアイドルグループf(X)の元メンバーで歌手・女優のソルリ(25)は、タレントが倫理的なことで批判を受けることに反抗して、ノーブラだとわかる画像をわざとSNSにあげるなどして、かえって反発を浴びつづけて、それは自殺するまで続いていた。ソルリの場合、批判コメントを取り上げる番組の司会をするなど、それを逆手にとるようなことまでやったのに、結局、番組が続いている間に自殺してしまう。いくら反抗しようが多勢に無勢だ。

 また、そのあとを追ったとみられる元KARAのク・ハラ(28)は、親日であるがゆえに、不当に批判された例と言えるだろう。交際男性とのトラブルで自殺未遂を起こしたあと、日本に移住してタレント活動を続けなければならなかったのも、反日が倫理である韓国では「親日」というレッテルを一度貼られると、それを重荷として背負い続けなければならなかったからである。

 両者とも「韓国人女性としてあるべき姿」から逸脱してしまって、ネットで執拗に攻撃されたことが自殺の引き金になったと考えられる。社会的制約の強い韓国社会で、タレントはさらに厳しく倫理を求められる傾向があり、その結果、ストレスのはけ口として人気タレントが攻撃されるのである。韓国は芸能人にかぎらず女性の自殺率が高いが、その背景には女性への束縛が大きいことが影響しているだろう。

 若者の重圧は受験戦争だけではない。日本は産業の裾野が広く大企業は大企業なりに、中小企業は中小企業なりに、それなりの数の有利な就職口がある。それに対して韓国では、財閥の力が強く、大企業とそれ以外に二極化している。そのぶん良い就職口の数が少なく、それもあって苛烈な受験戦争が避けられない。

 また、日本より血が濃いぶん、子供は家族や親族の期待も一身に背負うことになる。幼いときからその重圧を感じて勉強に取り組まざるをえない。しかも、頑張って一流大学には入れたとしても、大学の中でも競争が激しく、実際に一流企業に入れる者はさほど多くない。韓国の若者失業率が高いのは、家族の手前もあって無名の中小企業で妥協することができず、就職浪人する学生が多いことも一つの理由である。

 日本の若者の自殺は、いじめなど学校やSNSにおける人間関係がきっかけになることが多い。韓国の若者は、これに加えて、絶えず競争にさらされているので、努力が報われず絶望し、将来を悲観することが引き金になりうる。進学はともかく、本来、就職は学生個人の問題であるはずだが、韓国ではあくまで家族全体の問題である。そのため、「とりあえずスキルを磨ける会社に入る」といった柔軟な態度がとりにくい。そういった体面を重んじる風潮と就職の厳しさが、若者を追い詰めている面があると考えられる。

高齢者の孤独

 韓国は2008年のリーマンショックから「超ストレス社会」を作り上げることで、日本より早く立ち直った。また、日本が民主党政権だった期間、超円高が放置され、日本経済の「縮小コピー」で同じような市場で勝負している韓国製品は超ウォン安の恩恵を受けて売れ、韓国経済は好調に推移した。

 だが、日本で安倍政権になってアベノミクスによる円安が続くと、韓国製品は再び日本製品に少しずつ駆逐され始めた。韓国経済は輸出頼みで、輸出が細ると経済全体が落ち込む。経済が落ち込むと、収入が少ない高齢者の生活を直撃する。

 韓国の特徴は、女性のほかに、高齢者の自殺率が高いことだ。年代別の自殺率を見ると、多くの国では退職年齢である60歳以降は横ばいか下がる傾向があるが、韓国は年齢が高くなるごとに自殺率も大きく増加する。年齢と自殺率が比例関係にある。

 韓国では儒教の影響が大きく、年功を重んじる傾向が強い。そのため高齢者は大事にされるのが当然という雰囲気があるのだが、最近は、そういった風潮を疎ましく感じる若者が増えている。急激に進む少子化と相まって核家族化が一気に進んだうえに、結婚しない若者も増えている。かつては若者として年配者の世話をしてきたのに、いざ自分たちが年配者になったら高齢者が病気になっても相談相手も世話をしてくれる者もおらず、孤立に陥る。そういった事情が、高齢者の自殺を増やす要因になっているのだろう。

 政府も高齢者が孤立しないように手を打ち始めていて、その効果も表れて高齢者の自殺も少しずつ減っているといわれる。だが、根本的な対策になっているとは言えず、OECDで自殺率ワーストの汚名を返上するのには力不足のようである。

 一部の報道では、韓国経済はすでにデフレに入ったのではないかと報じられている。もし韓国経済がこのままデフレスパイラルに入れば、自殺率がさらに上がる可能性もある。高齢者を中心に細かなケアを充実させることが重要だが、根本的には経済成長を拡大することが最大の特効薬である。今が正念場だと言える。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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