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セールスフォースが創業20年でも衰えず伸び続ける秘密 セールスフォース共同創業者 ハリスCTOインタビュー

2019年12月03日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,杉本りうこ(ダイヤモンド・オンライン

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セールスフォースCTO、ピーター・ハリス氏
Parker Harris 1999年春、マーク・ベニオフらとともにセールスフォース・ドットコムを創業。それ以前もクラウド・コンピューティング技術を扱うベンチャー企業の創業・経営に従事し、営業支援自動化の技術開発に携わった。現在はデザインから開発、サービス提供まで、全製品の戦略を統括する立場にある Photo by Chiyomi Tadokoro

企業が成長することは難しい。長期にわたって成長し続けることは、もっと難しい。顧客情報管理(CRM)最大手の米セールスフォース・ドットコムは今年創業20周年を迎え、もはや新興企業とは言えないステージにある。しかし企業買収を含め成長戦略は依然活発で、この3年で売上高が1.6倍、営業利益も2.6倍と業容拡大が続く。株式市場もここ1年は最高値の更新が続き、直近では1428億ドル(約15.6兆円、11月29日の終値ベース)に達している。なぜ成長の踊り場を迎えず、伸び続けられるのか? 今秋来日した、共同創業者のパーカー・ハリス最高技術責任者(CTO)に聞いた。(ダイヤモンド編集部 杉本りうこ)

「イノベーション部門」は
実は大して重要じゃない

――創業20周年を迎えても成長の勢いが衰えません。自社や顧客を変革し続け、成長力を維持できる秘訣は何でしょうか。

 まず非常に重要なのはビジネスであれ技術であれ、イノベーションとは特定の場所から生まれるものではないということです。「イノベーション・オフィス」や「イノベーション部門」などと呼ばれるところから必ず、革新的なものが生まれるわけではないのです。

 ですから私たちは、イノベーションに繋がるアイデアを全社的に探し求めています。そしてそのために技術を活用しています。セールスフォースのサービスの1つに、企業向けソーシャル・ネットワーキングツールのChatter(チャター)というものがあります。私たちはこれを使って日々、あらゆる社員からアイデアを集めています。

 実はチャターそのものがイノベーションでした。元々はマーケティング部門が発案したものであり、技術部門から生まれたわけではありませんでした。技術部門からはむしろ、「これはひどいアイデアだ」、「誰がこんなものを必要とするのか」という声が上がったのです。抵抗勢力のようなものです。

――どの企業でも起こりそうな出来事ですね。

 このように、革新的なアイデアは社内のどこででも生まれ得るのです。ですから多様なアイデアを拒絶せず、努めて心を開いて、新しい案に常に耳を傾けるようにしなければなりません。またこの姿勢は、対社員に留まりません。セールスフォースは多くの企業に投資しているのですが、投資先からもイノベーションのアイデアは得られます。顧客からも同様に、学ぶことばかりです。

 要するに、イノベーションを「自らの手で起こせる」かどうかは、実際にはそんなに重要ではないのです。それよりもあらゆるアイデアに耳を傾ける初心を持ち続けることのほうが、イノベーションや生産性においてはるかに重要なのです。

――日本の大手企業では組織がフラットではないせいもあり、異なる階層や部門の意見を聞くことが、なかなか容易ではありません。

 階層を減らして組織をフラットにすることは、極めて重要です。特にミレニアル世代(1980年代序盤~90年代中盤生まれの世代)の社員は、フラットな組織で自分の意見にきちんと耳を傾けてもらいたいと考えています。フラットな組織は、米国企業ではかなり一般的ですし、世界的にもその重要さが認識されているのではないでしょうか。

 創業者のマーク・ベニオフ会長兼共同最高経営責任者(CEO)もそうですが、経営者というのは社員全員と直接、意思疎通したいと思うものです。ですからセールスフォースでは誰でもCEOに直接メールができますし、メーリングリストも共有されています。そしてもっと有効なのが前述したチャターであり、さらには「V2MOM」という独自の目標管理手法です。Vision (ビジョン)、Values(価値)、Methods(方法)、Obstacles(障害)、Measures (基準)という5つの言葉からなる言葉です。経営トップを含めて、全社員が毎年V2MOMを定め、全社的に共有しています。

 毎年2月、年度の初めにハワイで開くイベントで、ベニオフCEOが会社としてのV2MOMを明示します。イベントには全社員が出席するわけではありませんが、内容はすべて社内に公開され、あらゆる社員がアクセスできます。そして全社員がチャターを通してフィードバックでき、自身のV2MOM策定に繋げるのです。こうやって、フラットな意思形成が実現しています。

 日本は歴史として階層的な文化があったと思います。そういう文化ではV2MOMのように、オープンに会社の方向性を議論・共有することにある種の恐れを感じる人がいるかもしれません。つまり、会社がどこを目指すべきかについて自身の意見を示しても大丈夫なのか、という恐れです。しかし私が知っている日本企業の経営幹部は皆、変革を望んでいます。組織をフラット化して従業員の声に耳を傾ける必要性を感じています。だからこそセールスフォースが日本市場で成功を収めているのだと思います。

――フラットで個々の意見に耳を傾けられる組織においては、意見の多様さが求められそうです。そのために社員のダイバーシティ(多様性)が重要になるのでしょうか。

 そのとおりです。多様な考え方があれば、より良いイノベーションに繋がります。多様な人からの多様な意見に耳を傾けないというのは、イノベーションに意欲がないことに等しいのです。しかしたとえば性の多様性の場合、女性は男性に比べて、会議で積極的に発言する意欲が低いことがあります。ですからリーダーは、あらゆる声に耳を傾けるよう会議を運営しなければなりません。もしかすると口数少ない人が最も優れたアイデアを持っているかもしれないのですから。

Photo by C.T.

中国は確かに知財を
盗んでいる。だがそれでも…

―― 一方で、同質な集団が心地よいのは人間の本質でもあります。似通った人と密室で議論する、いわゆる「ボーイズクラブ文化」のようなものは、どこにでも生まれがちです。

 そう、私たちは誰しも偏っているのです。私も偏っているし、あなたもそう。重要なのは、偏見を持っていると意識することです。意図しないままに、誰かを会議に含んでいなかったり、ある意見に注意を払っていなかったりするものです。企業においてはそういう無意識の偏りがあることを理解しなければなりません。その上で、経営層自らがその偏りに対して正しい姿勢を持つ必要があります。

 セールスフォースには最高平等責任者というポストがあり、トニー・プロフェットがベニオフCEO直属の役員としてその任を果たしています。ボーイズクラブであれガールズクラブであれ、あらゆるクラブ的な文化を終わらせるためには、リーダーシップが重要なのです。トップ層からイニシアチブを持って、組織全体に多様性の重要さを浸透させていく必要があります。そして折々、組織がどれくらい多様になったかを、数をもって測らなくてはなりません。

――少し違った質問です。米国政府は企業に対して、米中間の研究開発や投資活動を制限しようと試みています。2つの大きな経済圏をデカップリングしようとしているといえますが、グローバル企業として、この変化をどう受け止めていますか。

 確かにあなたが言うように、世界はより愛国主義的で、より分断される方向にあるようです。そして中国によって、知的財産やイノベーションの成果が盗まれているという事例は確かに存在すると思います。それによって、不公平な競争条件が(米国企業に)もたらされているとも思います。

 ただその上で私は、中国とのビジネスに大きな商機があることも指摘したい。慎重になる必要は確かにありますが、中国とビジネスはしていきたい。セールスフォースは中国のアリババグループと協業関係にあり、そのことについて非常にわくわくしています。

 先に話したように、陣営を作ったり全体を分断したりすることは、本質的に良いことではないのです。たとえば科学者のコミュニティでは、世界中でイノベーションが起こり、知的財産が生まれています。そこで人々が愛国主義的になって連携しなければ、イノベーションは停滞します。気候変動は米国だけの問題でもなければ、中国や日本の問題でもありません。世界的な問題であり、一緒になって取り組まなければなりません。

 私たちは世界的な問題を解決するために、国を超えて協業する上での信頼関係を作らなくてはなりません。今はある種の後退期であって、少し分断が進んでいるように見えるかもしれません。ですが個人的には、これが長期的な方向性だとは考えられません。私は事態を楽観的に見ていますよ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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