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高校野球で「投球数制限」来春選抜から実施へ、甲子園は公立の不利が加速

2019年11月30日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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1人が先発完投で勝ち進むというチーム・投手は、金足農(秋田)・吉田輝星投手(現日本ハム)が最後になる?
1人が先発完投で勝ち進むというチーム・投手は、金足農(秋田)の吉田輝星投手(現日本ハム)が最後になる? Photo:BFP/AFLO

日本高校野球連盟は29日、「投手の障害予防に関する有識者会議」の答申を受けて理事会を開き「1人の投手が1週間に投球できる総数を500球以内」などとする新しい規則を、来春の第92回選抜大会から実施することを決めた。対象は日本高野連と都道府県高野連が主催する大会で、罰則などを設定しないガイドラインとして運用する。ほかにも3連戦を回避する日程にすることも明記。関係者からは「野球の質が変わる」との見方が広がっている。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

有識者会議が答申

 日本高野連の理事会が決めた新しいルールの主な概要は次の通り。

 1.高野連が主催する大会の期間中、1週間で1人の投手が投球できる総数を500球以内とする。実施は来春選抜を含む春季大会から3年間を試行期間とし、罰則のないガイドラインとする。

 2.同大会で3連戦を回避する日程を設定する。ただし、雨天などで日程変更の場合はやむを得ない。

 3.障害の有無に関する情報を指導者と選手、部員、保護者が共有するため健康調査票が活用されるよう加盟校に指導。

 4.大会や試合だけでなく、週1日以上の完全休養日を導入するなど過剰な練習をしないよう配慮。

 5.積極的に複数の投手を育成するよう留意。練習試合などさまざまな機会で複数投手の起用に取り組む――などだ。

 有識者会議の発足は、新潟県高野連が昨年12月、甲子園大会につながらない春季県大会で、1試合100球を超えたイニングまでの登板とする独自の投球数制限導入を検討したことがきっかけだった。

 日本高野連は「勝敗に影響を及ぼす規則は全国で足並みをそろえるべきだ」として、新潟県高野連に“待った”をかけた。有識者会議を2月に立ち上げ、これを受けて新潟県高野連は導入を撤回していた。

 有識者会議は4月、第1回会合を開催。6月の第2回会合で一定期間の投球数を制限する方針を固め、9月の第3回会合で1週間に500球に以内という制限――などの案を固めた。

 11月5日に開催された第4回最終会合で答申をまとめ、座長の中島隆信慶応大教授が20日、日本高野連の八田英二会長に提出していた。

消える『熱投』の醍醐味

 有識者会議の第3回会合でほぼ固まった答申案を見て、全国紙運動部デスクは「1人が先発完投で勝ち進むというチーム・投手は、金足農(秋田)の吉田輝星投手(現日本ハム)が最後になりますね」と話した。

 昨夏の甲子園大会を盛り上げた吉田投手は県大会から1人で投げ続けたが、甲子園決勝の5回で力尽きマウンドを降りた。

 新規則に当てはめると、秋田県大会は2回戦から決勝戦までの4試合が7日間で行われたが、この時は496球でギリギリ収まっている。

 しかし、いずれも延長戦がなく、コールドゲームで勝った試合もあったからで、こうした条件がそろわなければ途中降板になるのは間違いない。

 また昨夏の甲子園は1回戦が8月8日、2回戦は同14日で間が空いたが、3回戦は17日、準々決勝は18日、準決勝は20日、決勝が21日だった。

 2回戦は154球、3回戦は164球、準々決勝は140球で計458球。準決勝は相手打線を抑えていたとしても、3~4回あたりで降板となっていた計算になる。

 ただし「3連戦を回避する」に当てはめれば条件は緩和されるが、甲子園はコールドゲームがなく、延長戦が1試合でもあれば、やはりどこか途中でマウンドを降りることになるだろう。

 吉田投手の力投は高校野球ファンに感動を与えたが、前述の運動部デスクは「この力投が結局、投球数の制限を議論するきっかけとなったのは間違いありません」と話した。

 そして、こう続けた。

「101回にわたりファンに愛されてきた夏の『熱投』という概念は、これで消えることになると思います」

難しくなる公立の甲子園出場

 新規則で、高校野球はどう変わるのだろうか。

 まず、全国から選手が集まる甲子園常連の私立高校が圧倒的に有利になるのは間違いない。

 全国紙運動部デスクも「公立高校の甲子園出場は今後、ますます難しくなると思います」と追認する。

 というのは、ここ最近、選抜の「21世紀枠」は別として、公立の甲子園出場は減少している。

 プロを目指すわけではなく、あくまで甲子園出場を目指す「地元の野球好き」の好選手が集まり、勝ち進んだ結果が夢の舞台なのだ。これは昨夏の金足農も同じだった。

 一方、地方で中学生同士が「お前がエースをやれ。俺は抑えを担当するから、同じ高校に行こう」と擦り合わせることなどありえないことは、野球経験者でなくとも想像できるだろう。

 新規則ははっきり言えば、昨今のプロ野球同様、先発、中継ぎ、抑えと投手の分業化につながるのは明白だ。

 甲子園常連の私立には、全国から複数の投手が越境入学し、入部する。入学の際、どこから誰が入学するのか、分からない。自分がエースになれる確証はないが、自分の力を信じて飛び込む。

 そして、ベンチ入りすれば先発か、中継ぎか、抑えか、それぞれの役割を与えられることになる。

 一方で、地方ではコミュニティーが狭いので、好投手については「あいつ、A高校に行くってよ」などの噂(うわさ)が広まり、同レベルの投手が「あいつと戦いたいから、B高校にする」「あいつにはかなわないから、C高校にするか」となり、私立で言われる、いわゆる「2枚看板」「3枚看板」ができにくい。

 私立は結果的に全国レベルのエースのほか、同レベル、もしくはそれに準ずる投手を複数擁立でき、公立にはなかなか難しいのが現実だ。

 新規則では「複数の投手を育成するよう――」とあるが、地方の中学で投手にならなかった(なれなかった)のは、コントロールが悪かったり、スピードがなかったりと、やはりそれなりの理由があるのだ。

 中学時代に捕手や内野手、外野手だった部員が、高校でいきなり「お前、ピッチャーやれ」と言われても、「いやいや、勘弁してください」となるのがオチだ。

 昔から高校野球ファンは熱投に感動し、それを求めてきた。日本高野連も同じだった。しかし、その結果、投手生命を絶たれた選手がいたのも事実だ。

 オールドファンには残念な決定かもしれないが、その結果、甲子園で活躍した投手がプロで長く活躍できることになるならば、そこは容認するべきだろう。

 高校でのきらめきはわずか2年4カ月だが、プロは長ければ20年以上なのだから…。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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