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アリババ香港上場、調達した1.2兆円の「使い道」を深読みする

2019年11月28日 06時00分更新

文● 高口康太(ダイヤモンド・オンライン

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上場を祝福
上場セレモニーに創業者のジャック・マー氏は欠席。パートナー企業の代表者らが銅鑼を打ち鳴らした

中国の電子商取引(EC)大手アリババグループが26日、香港証券取引所に株式を上場した。新株の売り出しによる調達総額は875億香港ドル(約1.22兆円)。アリババは6月末時点ですでに1045億元(約1兆6200億円)のフリーキャッシュフローがあり、香港上場でさらに資金力が増したわけだ。いったい、今回調達した1.2兆円を何に使うのだろうか。(ジャーナリスト 高口康太)

香港での上場は
米中対立受けた「保険」

 香港市場での初値は187香港ドル(約2600円)と、公募価格の176香港ドル(約2450円)を上回った。アリババは米ニューヨーク証券取引所(NYSE)にすでに上場しており、香港の普通株式とNYSEの預託株式(ADS)は交換可能。このため株価はほぼ想定内だった。米中対立の深刻化を受け、米国では中国企業が上場廃止に迫られる懸念が浮上している。アリババが香港に上場した目的のひとつは、この懸念を見据えての保険的行為と見られている。

 アリババは上場目論見書の中で、調達資金の使途を「ユーザーの増加、他企業のデジタル化転換支援、イノベーションの継続」といったあいまいな言葉でしか表現していない。だが目論見書をつぶさに読み、アリババの現在の事業概要を知ると、資金調達の狙いがすけて見える。

 アリババは目論見書で、自社の事業領域を次のように分類している(図参照)。

 上部の薄いオレンジ部分は主にキャッシュの稼ぎ手としての事業。下部の濃いオレンジ部分は他の事業を支えるインフラ的なサービスで、物流の菜鳥(ツァイニャオ)、広告の阿里媽媽(アリママ)、金融の〓蟻金服(アントフィナンシャル、〓の文字は虫偏に馬)、クラウドコンピューティングなどの阿里雲(アリババクラウド)が並ぶ。

 上部に並ぶ稼ぎ手事業のうち、「零售商業」(リテール)と「生活服務」(ライフサービス)は中核的リテール。天猫(Tモール)や淘宝(タオバオ)などのECプラットフォームのほか、盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)などの小売りチェーン、1688.com卸売プラットフォーム、出前代行の餓了麼、口コミ評価サイトの口碑が属する。

「数字媒体和娯楽」(デジタルメディアとエンターテイメント)には動画配信サイトの優酷、東南アジアや南アジアで強いモバイルブラウザのUCブラウザー、映画制作会社、音楽配信サイトなど。

「創新業務」(イノベーション事業)は地図アプリの高徳地図、ビジネスチャットアプリのDing Talk、スマートスピーカーのTモールジニーが並ぶ。

 上記にクラウドを加えたでは事業セグメントごとの収益(2019年6~9月期の実績)はどうなっているか。

・中核的リテール 売上高1012億2000万元、経常利益320億6900万元
・デジタルメディア・エンターテイメント 売上高72億9600万元、経常損失33億2700万元
・イノベーション事業・その他 売上高12億1000万元、経常損失30億7300万元
・クラウド 売上高92億9100万元、経常損失19億2800万元

 つまり、中核的リテール以外はすべて赤字なのである。ここから、本業であるECで稼いだ資金を他事業のシェア拡大に突っ込むというアリババの戦略が露わに見える。

 例えば今年8月には、ビジネスチャットアプリのDing Talkのために10億元(約150億円)のエコシステム発展ファンドを設立することが発表された。Ding Talk上で動作するアプリの開発者、サービス事業者への補助金原資となる。

 中国最大のネットショッピングセールである、11月11日の独身の日には値引き費用として500億元(約7500億円)を拠出したが、これもシェアを取りたい戦略事業に重点的に注ぎ込まれている。アリババクラウドは1億元(約15億円)規模の割引セールを実施し、仮想サーバーも9割引セールを実施していた。

 多くの新事業に手を出しているアリババだが、その中でも最重要課題はなにか。上場にあたりダニエル・チャン会長兼CEOが公開した投資家への手紙では、グローバル化、国内消費、クラウドコンピューティングの3分野が上げられている。

 グローバル化では東南アジアのECプラットフォームのLAZADA、トルコのTrendyol、パキスタン・バングラデシュのDarazを買収するなど積極的な動き。また決済ではバングラデシュ、香港、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、パキスタン、フィリピン、タイで、モバイル決済の戦略パートナーを確保した。インドはPayTM、韓国はカカオトークのように、各国ごとに異なるローカルブランドとタッグを組み、グローバルの決済圏拡大を目指している。ちなみに日本のPayPayは戦略パートナーには含まれていない。

 国内消費では、「新興地域の都市化、数億人の中流階級の消費者の出現、および消費者全体のインターネットユーザーへの転換」とダニエル・チャンは指摘する。特に重要なのが新興地域だ。中国都市部のマーケットとはすでに成熟しているが、地方都市や農村の勝負はまだ始まったばかり。テレビショッピングの動画版のようなライブコマースやソーシャルECなど新興地域にターゲットを当てた新分野の競争が過熱している。

 そしてクラウド化については、目論見書に次の図を掲載しながら、市場の機会を強調している。

 18年の米中IT支出構造を示したもの。総支出自体もさることながら、IT支出に占めるソフトウェア・サービスへの支出、公有雲(パブリッククラウド)の支出が低いことを指摘し、このあたりにまだ成長余地が高いことをアピールしている。

 グローバル化、国内消費、クラウドコンピューティング……。豊富な資金を背景に赤字覚悟の「焼銭」(短期的な赤字を許容しながら事業を拡大させることを意味する中国語)戦略を展開する方針のようだ。

 なお目論見書には「将来の経営上のリスク」についても言及がある。これがなかなか味わい深い内容だ。たとえば次のような記述がある。少し長くなるが引用しよう。

「中国経済はさまざまな面で、大多数の先進国経済とは違いがある。政府の関与、成長水準、成長率、為替規制、資源配分がその違いに含まれる。中国では相当量の生産リソースは依然として政府所有である。

 また政府は産業政策を通じて、その業界の発展についてコントロールしている。中国政府はリソース配分、外貨建て債務の決済管理、通貨政策、金融サービス及び基幹の管理監督、特定業界及び企業への優遇措置を通じて、中国経済の成長に大きな役割を果たしてきた。

 中国経済が過去40年間にわたり高成長を記録してきたが、この成長は地域と各産業においてアンバランスをもたらすものでもあった。中国政府は経済成長をもたらす各種の施策、リソース配分の誘導を実施しているが、それらの施策は中国経済全体に利益をもたらす一方で、我々にマイナスの影響を与える可能性がある。我々の財務状況、経営業績は政府による資本投資の抑制や税に関する法規の変更で大きなマイナスの影響を受ける。

 また中国政府は過去に金利引き上げなど経済成長率のコントロールなど経済活動の減速につながる制作を実行してきた。中国経済の成長鈍化は我々のサービスニーズの減少につながり、我和の業務、財務、経営業績に重大なマイナスの影響を与える」

 ほかにも「中国の法律体系はいまだ整備中であり、規定された法律、法規、規範的文書は不十分である。中国における経済活動のすべてにおいて、その解釈と執行権は管轄当局と裁判所にある」との指摘があった。特に判例が不十分な分野では「管轄当局が一定の自由裁量権を持つ」として、法的リスクの予測がきわめて困難なのだという。中国政府の方針転換によって振りまわされる政策リスクを俗にチャイナリスクというが、アリババグループもチャイナリスクの被害を受ける可能性があると断っているわけだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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