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東芝が親子上場4社中「残り1社」を完全子会社化しなかった理由

2019年11月22日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,千本木啓文(ダイヤモンド・オンライン

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東芝が、親子上場を解消するため、上場子会社4社のうち3社の完全子会社化を決めた。残るPOSレジ世界最大手の東芝テックは、消費データの活用で「大化け」が期待される。その東芝テックが上場維持のまま放置され、売却も検討される理由とは。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

東芝テックを統合しない経営判断に相次ぐ疑問

東芝テックのPOSレジ
大手コンビニチェーンで使われる東芝テックのPOSレジ。消費者の購買データを活用してメーカーなどのマーケティングや物流、製造に生かすデータビジネスの拡大が期待されている Photo by Hirobumi Senbongi

「デジタルソリューションを強化する東芝と最もシナジーがあるのが、POSレジ世界首位の東芝テックだ。その会社を完全子会社化しないのは、有力株主が同意していないといった特別な事情があるとしか思えない」

 東芝テック以外の上場子会社3社を株式公開買い付け(TOB)で完全子会社化する東芝の経営判断について、ある証券アナリストは首を傾げる。

 今回、東芝が完全子会社化するのは発電所などを建設する東芝プラントシステム、半導体製造装置のニューフレアテクノロジー、産業用電機の西芝電機の上場子会社3社だ。

 親子上場の解消に踏み切る理由は、親会社と子会社の少数株主との間で利益相反の恐れがあるから。政府や市場関係者を中心に企業統治上の問題を指摘する声が高まっていた。

 それに加えて、東芝は投資対効果の高さも強調する。完全統合による事業シナジーや固定費削減によって、東芝の1株当たり利益(EPS)は、2021年3月期に21%改善、株主資本利益率(ROE)は2%改善する計画だ(3社を取り込まなかった場合の同期見込みとの比較)。

 車谷暢昭会長兼CEO(最高経営責任者)は3社の完全子会社化を発表した11月13日の会見で、「自社株買いより魅力的で投資効果が高い。シナジーを最大化したい」と意気込んだ。

 ところが、会見では「シナジーで判断するなら東芝テックこそ本体に取り込むべきでは」という疑問の声が相次いだのである。

 東芝テックが市場関係者やデジタル事業者から評価されているのは、データビジネスの潜在能力が高いと見られているからだ。

 主力製品であるPOSレジは、チェーン店などの複数店舗での消費者による購買情報をネットワークで一元的に管理できる。消費者の同意を得られれば、「国内の小売業販売額145兆円の3分の1以上にアクセスできる」(東芝の島田太郎CDO〈最高デジタル責任者〉)。つまり、メーカーがマーケティングに活用できる「お宝データ」を取得しやすい立場にいるのだ。

 それだけではない。東芝テックは購買データを有効活用することで、物流や生産を効率化するサービスの構築も目指す。まさに、デジタルソリューションのお手本のようなビジネスの構想を描けているのである。

 フィンテック分野のある上場企業役員は「JRの交通系ICカード事業と東芝テックのPOSレジ事業が統合すれば、日本経済の生産性が飛躍的に改善する」と期待する。

 そんな優良子会社を、あえて上場企業のまま放置するのはなぜなのか――。

 その理由は、「完全子会社化しても他の3社のようにEPSを20%以上改善することはできない」(東芝幹部)からなのだが、その要因は3つある。

 1つ目は、海外のPOSレジ事業の大部分が米IBMから買収した資産であるため、「統合後のシナジーを読みにくい」(同)ことだ。他の上場子会社3社の源流が東芝で、社内事情が分かるため統合効果を出しやすいのとは対照的だ。

 2つ目の要因として、購買データを活用したビジネスは現状の資本関係(9月30日現在、東芝テック株式の東芝の持ち分比率は52.4%)でも東芝主導で拡大できることがある。

 東芝幹部は「他社製のレジでの買い物でも、スマートフォンのアプリを活用すれば購買データは集められる。東芝テックは購買データのビジネスにとって重要なパートナーだが絶対的に不可欠な存在ではない」と言い切る。

 最後の3つ目が一番重要なのだが、東芝がそもそも東芝テックの成長性に疑問符をつけていることだ。

 東芝テックの営業利益率は19年3月期で3.8%、23年3月期の目標は同6.0%で、東芝全体の利益目標と比べて見劣りする。

 しかも、キャッシュレスといった決済の多様化やセルフレジの普及というハードウエア拡販のための「追い風」が吹いているのに、東芝テックは中期経営計画で、現在の売上高4800億円について22年3月期までほぼ横ばいを見込む。

 POSレジなど東芝テックの製品はコモディティ化しつつある上に、データビジネスで中計期間中に「大化け」させられるかどうか、同社自身が半信半疑なのだ。

 しかも、東芝テックには長年、モノ言う株主から指摘されてきた「突っ込みどころ」がある。

 実は、オフィス用のプリンタ、複合機を扱うプリンティング事業を持っており、その成長が期待できないのだ。

 東芝の株主である米ファンドのキング・ストリート・キャピタル・マネージメントは18年、東芝テックのプリンティング事業について「売却を含めたあらゆるオプションの検証」を東芝に求めた。

 同ファンドは要求の根拠として、プリンティング事業の市場が年間2%ずつ縮小すると見られることや、プリンタやFAXなどの機能を持つ複合機が市場シェア11位にとどまること、そして「POSレジ事業とのシナジー効果が欠如している」ことを挙げた。

 実際に、プリンティング事業は競合他社との価格競争や米中市場の減速が直撃し、2019年4~9月期の営業利益は1.9%まで下がっている。プリンティング事業を売却するにも、キヤノンなどの競合他社も市場の縮小に苦しむ中で前向きなM&A(合併・買収)が成立しにくいのが現状だ。

 これらの要因から、ある東芝幹部は、「今のところ完全子会社化にはネガティブだ。ポジティブなら今回取り込んでいた」と打ち明ける。

 東芝の平田政善CFO(最高財務責任者)は「(親子上場は解消すべきという)政府方針があるので、どこかで最終判断をする」と明言している。

 完全子会社化か、売却か──。期限は刻一刻と迫っている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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