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「コーチング」ビジネスが“うさんくさい”といわれる理由

2019年11月21日 06時00分更新

文● 角南 丈(ダイヤモンド・オンライン

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この人、コンサルっぽい仕事しているみたいだけど、なんかあやしい…。そういった人の中には、なぜか肩書に「コーチング」と書かれていることがしばしばある。かつて自己啓発セミナーや教材に600万円以上もつぎ込んだ経験から『「自己啓発」は私を啓発しない 』(マイナビ新書)を上梓し、現在は人材コンサルタント会社・ネクストスタンダードの代表取締役を務める齊藤正明氏が、コーチングビジネスの闇を暴く。(清談社 角南 丈)

コーチのタイプは3つ
スキル系、感情系、勧誘系

セミナーイメージ
コミュニケーション技術などを向上させたくてコーチングセミナーに足繁く通う...そんな完璧主義な人ほど、実生活に悪影響が出てしまう理由とは? Photo:PIXTA

 コーチングという言葉は、かなり広い意味で使われており、読者の中にはどんな職業なのかイマイチ分かりづらいという人もいるだろう。コーチングの定義について齊藤氏は次のように解説する。

「コーチングとは、端的にいえばコミュニケーション全般の技術をコーチする職業のことです。相手との円滑なコミュニケーションを通じて、個人や組織の目標達成を図ることを狙いとしています。心理学の知識なども必要となるため、カウンセラーに近い存在と思っていいでしょう」

 インターネットでコーチングの料金を調べてみると、相場は1時間1万~1万5000円程度だが、中には10万円近いところも。ジャンルは「ビジネスコーチ」「ライフコーチ」など多岐にわたり、講座の形式も個別(パーソナル)と集団(セミナー)がある。

 また齊藤氏によれば、コーチのタイプは、大きく3つに分類できるという。その3つとは「スキル系」「感情系」「勧誘系」だ。

「『スキル系』というのは、英会話教室や予備校などと同じように、コーチが淡々とコミュニケーションの仕方を教えていくオーソドックスな形式です。『感情系』というのは、最近こそほとんど見かけませんが、たとえば、まずコーチが参加者に罵詈雑言を浴びせて号泣させます。その後、参加者が自分の弱さや甘えを認めて克服できたら一転して、『やっぱり君は優秀だ!』と褒めたたえるという講座の形式です。散々それまでののしられていたコーチから『OK』をもらえたときのうれしさは格別で、まるで自分が世界の中心にいるような気持ちにさせてくれるそうです」

 感情系コーチングとしてイメージしやすいのが、一昔前にテレビで放送されて大炎上した、「餃子の王将」のスパルタ研修だろう。教官役の幹部が監視のもと、研修中に社則をその場で暗記させ、公衆の面前で抱負を大声で絶叫させた後、最後は従業員と幹部が号泣して抱き合うのだ。ただし、それによってコミュニケーション力がアップするかどうかは、定かでない。

コーチングをかたった
ネットワークビジネスも

 コーチングの看板が、ネットワークビジネスや自己啓発セミナーの隠れみのになることもある。これが3つめの「勧誘系」だ。

「募集HPにはコーチングセミナーと書かれているのに、よくよく話を聞いてみると、『コミュニケーション力と営業力を身につければお金持ちになれます』といった感じで、実はネットワークビジネスの勧誘だったというケースもあります。コーチ役の人の中には秀才も多くいるため、その人が芋づる式に収益を吸い上げる仕組みを作っていくわけです。ネットワークビジネス自体は違法ではありませんが、その事実を隠して“コーチング”をかたっているのは正直どうかと思いますね…」

 このようにコーチング業界は“玉石混交”なため、コーチたちは同業者同士を詐欺師扱いする風潮もあるという。

「一応、コーチング関連の資格や検定などはありますが、そのほとんどが民間レベルのもので国家資格ではありません。そうなると、スキルのない素人の参入も多くなり、業界の風評被害も大きくなってしまうのです」

 一方で、コーチング業界全体にいえる問題点もある。

「コーチングセミナーに参加する人の中には、そこの住人になってしまうケースもあります。セミナー会場には、経営者や一流企業に勤めているビジネスマンも多く来るため、つい自分の会社のボンクラ上司と比べてしまい、居心地がよく感じてしまうようです」

 しかし当たり前だが、セミナー会場でいくらたむろしたところで、金は出ていくばかりだ。

コミュ力向上は本を読めば十分
熱心な参加者ほど足をすくわれがち

 特に熱心にコーチングセミナーに通っている“完璧主義”な参加者ほど、実生活に悪影響を及ぼす危険性が高いという。

「コーチやセミナー参加者に触発されて、会社で自分一人だけがいわゆる“意識高い系”になってしまい、社内評価を落としてしまうことも。あるいは無理な起業をしてしまい、結果的に家族やいろんな人に迷惑をかけてしまうというケースも結構多く見られます」

 また齊藤氏は、コーチングの骨子である“コミュニケーション術”は、何千年も前から進化しておらず、業界自体に目新しいコンテンツがないことも指摘する。

「400年以上前の日本では、自分が仕える武将を守るために、当時の臣下たちは命を賭して戦いました。死んでしまったら金も地位も失うにもかかわらず、です。これはいかに当時の武将たちが人心掌握術に優れ、コミュニケーションが上手だったかを表しています。あるいは約1800年前の三国時代の中国も同じ。そう考えると、コミュニケーションのノウハウは、はるか昔から大して変わっていないため、実は本を読む程度で十分知識は身に付くのです」

 では、コーチングの存在意義はどこにあるのだろうか。

「コーチングはダイエットと同じ。ダイエット法の本はこれまでいくつも出ていますが、結局実践しないから痩せないわけです。実践できる人はさきほども言ったように本だけで十分でしょう。しかし、ダイエットジムに通う人は大勢いますよね。コーチに直接ノウハウを教わって何度も実践することで、コミュニケーション力が身に付く人もいるのです。つまり、コーチングという手法自体が悪いのでは決してなく、参加者はコーチが言っていることを“うのみ”にしないで、自分に合わないと思ったら即辞める決断が求められるのです」

 業界のイメージ向上のためにも、コーチングを隠れみのにした搾取や詐欺がなくなることを願うばかりだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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