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スポーツ選手はなぜプレッシャーに負けず、逆境を楽しめるのか

2019年11月20日 06時00分更新

文● 岡本正善(ダイヤモンド・オンライン

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羽生結弦
世界の第一線で結果を残し続けている羽生結弦選手(写真はイメージです) Atsushi Tomura - International Skating Union (ISU) /gettyimages

いよいよ来年は東京オリンピックが開催されます。選考会も続々と始まり、すでに五輪出場が内定している選手たちもいます。そういった場面で本来の実力を発揮できるスポーツ選手たちは、どのようにしてプレッシャーや緊張感に打ち勝っているのでしょうか。そこで今回は、メンタルトレーナーとして多くのプロ・スポーツ選手を導いてきた岡本正善氏の『逆境を生き抜く「打たれ強さ」の秘密』(青春出版社)から、プレッシャーの正体や「打たれ強い人たち」の秘密について解き明かします。

プレッシャーに勝つ人、つぶされる人の違いとは

 ある人は、ここぞというときに実力を発揮して、周囲に認められて伸びていく。別の人は、いつもチャンスを逃し、どんどん自信をなくして萎縮する。その分岐点はどこにあるのでしょうか。「プレッシャーに勝つ」人は、プレッシャーをどう利用しようかと考える。「プレッシャーに潰される」人は、プレッシャーからどう逃げようかと考える。“プレス”とは英語で“圧力”です。我々人間にとって、プレッシャーはある意味で圧力となる要因です。人は、いろんなものがプレッシャーになるわけです。

 たとえば、ある人にとってみれば「今から雨が降るぞ」という情報が「雨降ってもらっちゃ困るな」となる。それがすでにプレッシャーになるわけです。また違う人にとってみれば、同じ「今から雨が降るぞ」が、「あ、今日はこれで休める」「うわ、ラッキー」とノープレッシャーになる。一つの情報でもある人にとってはプレッシャーになるけれど、またある人にはまったくプレッシャーにならないということがあるのです。

 ではそのプレッシャーを感じた人にとって、本当にそれが悪い情報なのか、というとそうではありません。実は我々人間には、「向上性」といって、「よりよく生きる」という脳のプログラムがありますが、プレッシャーがかかって一旦“ひずみ”が出ると、人間の脳はそのひずみを回復させよう、よりよく生きていこうとします。そういうプログラムが発達しているから、プレッシャーを感じる期間はあっても、その期間を越えたときにより強い自分に生まれ変われるわけです。

 プレッシャーに勝つ人は、プレッシャー自体をうまく利用しているわけです。たとえば逆境になればなるほど強くなる人はまさにその典型。「よっしゃ、ここで一発」とか、「よっしゃ、来い」と、何か燃えてくる感じの人というのは、まさにそのプレッシャーをエネルギーに変えて奮いたっていく状態。だから、プレッシャーはマイナスイメージではなく、ある意味で自分を高めていくためのエネルギーなんです。

 だけど、プレッシャーに潰される人はプレッシャーを感じた時点で、もう自分で「自分は弱い人間なんだ」「ダメなんだ」となってしまう。たとえば、我々現代の人間はマニュアルに囲まれている。こうなればこうなっていく、という答えがあるのが当たり前になっている。マニュアルで育てられた人間は、プレッシャーがあると「自分はどう対処したらいいのか。どうしよう…」と、答えが出せない状態におちいって、プレッシャーが来ないほうへ流れていく。どんどん自分を狭めていくわけです。

 プレッシャーは自分を育ててくれる、伸ばしてくれるものなのに、それを避けたら無意識に自分を潰すわけです。だからプレッシャーをどうエネルギーに変えていくかがすごく大事なんです。

打たれ強い人は、土壇場でも「緊張」の使い方を知っている

 リラックスしているときなら何でもないことが、ここ一番のかんじんなときにできなくなってしまう。よくあることです。このように、大事さを意識しはじめたときに緊張やプレッシャーを感じる。それはつまり、「今から自分の力を発揮するんだ」という気持ちの副産物(燃料)ともいえます。緊張はうまく利用すれば普段以上の力を生むエネルギーとなります。トップレベルのスポーツ選手が「緊張を楽しむ」のはまんざらかっこつけではなく、真実なのです。

 たいていの人は緊張コントロールのトレーニングをしていないから、緊張すると自分を失ってしまうかのように思う。「緊張してはダメだ」「みっともないぞ」と自分の状態を否定するのに忙しくなり、その葛藤からとんでもない状況になってくる。自分を否定しようとすると、潜在意識がそちらに向かって動き出してしまうのです。

 かつて赤面症に悩んでいた頃の私は、まさにそうでした。「緊張しているのを見せたくない」「あがってしまったらまずい」「大事なところで恥をかきたくない」「笑われるのは嫌だ」……すべて周囲から見た自分を基準にしています。つまり他人のリズムにはまっているのです。

 私は「リズム」という言葉をよく使います。リズムとはいってみればノリのようなもの。自分のリズムで物事を進めているときは、人は流れに乗って力を発揮できるが、他人のノリに合わせているときは、本来の能力を発揮できなくなる。いわゆる土壇場に強い人は、あくまでマイペースの緊張の仕方をします。「自分がこうしたいんだ」と心から思うことが大事なのです。この企画を通す、プロジェクトを成功させる、海外で仕事をする、いずれ独立して会社をつくる…など具体的な目標であればいいんです。その目標があることで、我々の潜在能力は自然と動き出すのですから。

 確固たるものを持っているかどうか、というのは、この潜在能力が「自分のリズム」で動いているかどうか、ということなのです。とにかく大切なことは、「人からどう思われるか」ではなく「自分がどうしたいのか」なのです。

打たれ強い人は「緊張」を楽しんでいる

 これから何かをするぞ、というとき、人は緊張するものです。人間の潜在能力は、目標を明確に認識したときに動き出します。「何かをしなきゃいけない」と自分で認識できたときに、潜在能力の扉は開かれて、「自分の力を発揮するぞ」という指令が出るのです。そして、体全体がその目標を達成しようという方向に動き出す。持っている能力のすべてをその目標に向かって準備させようとするのです。だから心臓もドキドキし始めるし足もガクガク震える。気持ちの状態としては「あがっている」ことになるのです。

 これをつい、多くの人はマイナスだと思ってしまう。あがっちゃいけない、あがると話せなくなるぞ、変なことを口走るかもしれないぞ、と不安になる。すると、「これから能力を全開にするよ」というサインをネガティブなものと勘違いして、「これじゃ力が出せないんだ」と考えてしまうのです。

 ここで面白いことが起きます。もともと「能力全開」を目標としていた潜在意識が「力の出せない自分」を目標にしてしまう。だから体が固まり、頭も働かなくなります。この状態を何度か経験すると、「あがっている」とか「きっとまた失敗する」と決めてかかるようになってしまう。人間の脳は過去の情報をもとに判断するからです。そして「落ち着け、落ち着け、こんなことじゃダメだ」と、自分を否定する。せっかく開きかけた潜在能力の扉を必死で閉めにかかるのです。

 これはスポーツの世界でもよくある間違い。特に日本では、メンタル・トレーニングといえばリラクゼーションのことだという誤解があります。試合前などに緊張が高まると、「嫌だな、さあリラックスしよう」と、お花畑のイメージなど浮かべたりしてしまう。

 トップに立つ人は、むしろプレッシャーを楽しんでいます。ここぞというときに緊張が高まってくると、「おお、きたぞ、この感じ、この感じ」と、緊張状態を自分のコントロール下に置くのです。緊張に振り回されるのではなく、目標に適した緊張状態に自分を持っていくということです。

 たとえば、これから企画のプレゼンテーションをする、大事な用件で相手を説得する、というときに、だらんと力が抜けてリラックスしていたのでは話にならない。適度にテンションがあがっていてこそ、言葉の勢いや気迫も生まれます。かといって、ボクシングの試合に臨むわけではないのだから、ぶるぶる武者震いしていても始まらない。どれぐらいの緊張のレベルに持っていけば、この場面にちょうどよいのか。実は潜在意識がちゃんと知っているのです。

 次回は、仕事でぶつかる「こんなときどうしたらいいの?」という困った場面をもとに、具体的なメンタル・トレーニングの実践法を紹介します。

>>次回は11月27日(水)公開予定です。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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