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GSOMIA失効まであと10日、米元高官が日韓対立を本気で憂う理由

2019年11月13日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,竹田幸平(ダイヤモンド・オンライン

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文在寅大統領とトランプ大統領
Photo:Handout/gettyimages

韓国との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効期限が、11月23日午前0時に迫った。韓国側は日本が輸出管理強化を撤回すればGSOMIA破棄も見直す意向をちらつかせるが、日本は応じない公算。GSOMIAは軍事情報の共有という安全保障戦略の要であり、このまま失効すれば東アジアの安定に不確定要素が増す。この状態を強く憂慮しているのが米トップシンクタンク、戦略問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン上級副所長。本誌の単独インタビューに応じ、日韓相克で漁夫の利を得る国があることに警鐘を鳴らした。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

韓国は今からでも
GSOMIA破棄を見直すべき

――GSOMIAの失効期限が迫っています。

 米国の国防総省や国務省が韓国側にかなり反発しているので、最終的に破棄しない可能性はまだあり得ます。確かに日韓間の問題解決は容易ではありません。摩擦状態から関係回復にシフトするには、どうすればよいか。私は次のように考えます。

 まず韓国はGSOMIAの破棄をやめる。日本は、日米韓3ヵ国の輸出管理の専門家会議を開く。そこで米国は仲介役として韓国に働きかけ、韓国が輸出管理制度を改善する。また韓国政府は韓国人のみの知識人会議を設立し、日韓関係について半年ほど議論して新しい解決策を検討する。

 来年4月の韓国国会の総選挙まで問題を後回しにできれば、韓国側はもう少し冷静に、日本の問題を考えられるかもしれない。歴史問題そのものの解決にはならなくても、時間を稼いで冷静に議論しましょうという考え方です。完璧ではないですが、そうした方法しかないのではありませんか。

――日韓の関係悪化について、米国ではどのように捉えられているのでしょうか。

 1965年の国交正常化以降、日韓関係は何度も悪化してきましたが、今回は特に深刻です。背景には、文在寅(ムン・ジェイン)政権によるポピュリズム的な政治手法や、韓国の大法院(最高裁判所)判決(元徴用工への賠償を命じた)があります。ワシントンでは今回の問題について、日本が端緒と考えている人は少ない。最高裁の政治的判断により、韓国が火を点けた形です。韓国政府は独立した司法判断と説明していますが、米国では説得力を持って受け止められていません。

日本の輸出管理強化は
法的に○でも戦略的には×

 しかしその一方で、日本による輸出管理強化は間違いなくタイミングを見計らった報復措置でした。日本が問題を複雑にしたのです。米ワシントンの国際関係の専門家たちは、当初は9割方韓国が悪いという意見でした。それが輸出管理強化によって、6割ぐらい韓国、4割は日本が悪いとなりました。

 日本は確かに韓国よりも国力があります。技術、政治、経済、米国との関係のいずれも、日本の方が韓国より強い基盤を持っている。日本側は輸出品目という圧倒的なレバレッジ(てこ)を持っているわけで、安倍晋三政権は日韓の力関係をうまく分析して行動しました。しかし日韓の歴史を考えると、韓国が日本に対して降伏するというシナリオは考えられません。韓国がさらに報復するのは明らかでした。

 輸出管理における日本の措置は、WHO(世界貿易機関)などの国際的な取り決めの違反にはなりません。韓国の輸出管理制度に問題があるのは、多くの専門家が認識していたことです。それでも「日本はここまでやらなくてもよかった」との意見があります。法律的には正しくても、戦略的にはよくないのです。日韓関係の悪化を、中国や北朝鮮が利用するからです。それは、米国にとっても国益にダメージをもたらす状態です。

マイケル・グリーン氏 Michael Jonathan Green/1961年生まれ、米国ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院博士課程修了。米国国防長官室アジア太平洋局上級顧問など経て、2001年に米国国家安全保障会議(NSC)でアジア部長。04年~05年に同アジア担当大統領特別補佐官兼上級アジア部長。現在は戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長など担当。著書に、『日米同盟-米国の戦略』(勁草書房)、『日中もし戦わば』(文春新書、共著)。

 日本は米国にとって長年にわたる同盟国です。また韓国も安全保障上の重要な同盟国です。こういった中、中国の習近平国家主席は2014年のアジア信頼醸成措置会議(CICA)首脳会議の基調演説で、「アジアの安全はアジアの人民が守らなければならない」と訴えました。つまり、米国がアジアの安全保障関係に干渉していることを批判し、中国主導で新たにアジアの安保秩序を構築する必要があると訴えていたわけです。

 今回の日韓関係を受け、中国は王毅外相が8月の日中韓外相会議で、「日韓関係の復活に貢献する」という立場を取りました。これに対し、米国は何も行わなかった。米国は本来、日米韓の関係を主導するべき立場なのに、それに中国が取って代わってしまった。恥ずかしいことです。

 7月に中国はロシアと共同で、東シナ海上空での合同警戒監視を実施しました。こうした動きを抑止するためには本来、日米韓が一体となって中国に圧力をかけるのが正しい戦略です。ところが日韓はそういう戦略的な行動をとる状態ではありませんでした。

日韓の関係悪化で
米国が一番損する理由

 最近ワシントンで話題となっているのは、「日韓関係悪化で一番失敗したのはトランプ政権ではないか」ということです。

 こうした空白を作った原因は、トランプ政権にあります。私は過去にジョージ・W・ブッシュ政権で働きましたが(米国家安全保障会議スタッフとして日本・朝鮮担当部長やアジア上級部長を歴任)、ブッシュ政権やオバマ政権、クリントン政権などであれば、これほどまでの日韓関係悪化を許さず、内政干渉と言われようがトップレベルで歯止めをかけていたはずです。

 例えば、日本が輸出管理で報復措置を取る前に、米政府は大統領や国防長官のレベルで「米国の国益や外交上、問題がある」とのメッセージを発することが可能でした。日韓の歴史問題の解決こそできなくても、関係悪化に歯止めをかけられたはずです。にもかかわらず韓国の最高裁判決、日本の報復措置、そして韓国のGSOMIA破棄の各段階で、米国は歯止めをかけようとしませんでした。

 トランプ政権は、自由で開かれたインド太平洋戦略を掲げ、それについては日本政府と足並みをそろえようとしています。しかし今回の日韓関係の悪化によって、安全保障上の弱点が生まれています。これは、明らかにトランプ政権の戦略的な失敗です。

トランプ米大統領は
同盟関係に関心がない

――トランプ大統領は日韓問題についてあまり積極的に発言しません。

 トランプ政権は同盟関係を重視していない。その価値を分かっていないのです。ですから、日韓という同盟国同士の関係には関心がないのです。トランプ氏は文氏と同じく、北朝鮮の金正恩労働党委員長との首脳会談しか考えていない面があります。一方で北朝鮮の狙いは、韓国の孤立です。日韓関係が悪化すれば、韓国は次第に孤立する。

 またトランプ氏は在韓米軍の撤退を考えています。シンガポールでの金委員長との会談時も、記者会見でそう明言していました。在韓米軍の撤退は日本にとっても最悪のシナリオです。空白が生まれ、北朝鮮の脅威がさらに増す。ですから日韓が協働して米国に対し、米軍撤退による懸念を訴える必要があります。

 ジミー・カーター氏は1970年代、在韓米軍撤退を公約に掲げて大統領選に勝利しました。それが実現できなかった最大の理由は、日本政府の反対でした。前方展開(友好国に駐留軍を配置し、敵対関係にある国家を威圧・抑止する軍事戦略)を支持する元高官として、私が日韓に一番お願いしたいことは、両国が一緒になって日米韓同盟の強さを中国と北朝鮮に示すことです。そして米議会に前方展開の必要性を説明することです。

 日韓関係の悪化に伴う東アジアの空白を一番利用しているのは、北朝鮮と中国です。ですが、もう一つの敵も利用していることを忘れてはいけません。それは、米国国内の孤立主義者です。ですから米国政治の力関係も、今の日韓関係の悪化によって、危うくなりつつあるのです。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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