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相次ぐ台風と大雨の被害、堤防決壊させた「バックウオーター現象」とは

2019年10月30日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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大雨/土砂崩れで倒壊した家屋(2019年10月26日撮影/千葉県)
大雨/土砂崩れで倒壊した家屋(2019年10月26日撮影/千葉県) Photo:JIJI

日本列島各地に大きな爪痕を残した台風19号は、上陸から半月が経過し、ようやく被害の全容が明らかになってきた。死者は13都県で90人を超え、行方不明も10人前後に上る。この週末には生活再建に向けた意欲をそぐように、15号の被害復旧もままならない千葉県などを21号に伴う大雨の被害が発生し、死者は10人を超えそうだ。今秋、3度の台風に伴う被害に見舞われた日本列島。被災者の窮状を救うべく、行政の支援は待ったなしだ。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

未曽有の犠牲・被害

 19号の被害が甚大だったのは関東甲信と東北で、土砂災害や浸水被害が多かった。国土交通省によると土砂災害は20都県660件を超え、堤防決壊は7県の71河川140ヵ所。

 21号の影響に伴う大雨などの被害は5県27河川の氾濫が確認されているが、被害がどれほどに上るのかまだ全容は判明していない。

 19号は6日、南鳥島近海で発生。9日、気象庁は日本に上陸する恐れがあるとして「命を守るため早めの対策、避難を」、11日には1958年に1200人以上の犠牲者が出た「狩野川台風に匹敵する恐れがある」と警戒を呼び掛けた。

 12日午後、13都県の自治体に「大雨特別警報」を発令。その後、伊豆半島に上陸し関東から東北へ縦断した。

 総務省消防庁によると、19号の住宅被害は全半壊が16都県4000棟以上、一部損壊は27都道府県5300棟以上。床上浸水は17都県約3万4000棟、床下浸水は21都県約3万7000棟で、住宅被害は昨年の西日本豪雨で出た約5万1000棟を上回る規模となった。

 内閣府によると、避難所に身を寄せた人は一時13都県で5000人を超え、厚生労働省によると、最大時13都県の約13万8000戸で断水。電力各社の集計では最大時で約50万戸が停電した。

 文部科学省によると、通学路が寸断されたり交通機関がまひしたりするなどして、一時12都県の小中高校計300校近くが休校に。25都府県の1600校以上が雨漏りや浸水などの被害が出た。

 国土地理院の推計によると、水戸市の那珂川流域で浸水した水深は最大7.2メートル、福島県国見町の阿武隈川流域では同5.2メートルに達した。

 長野市では千曲川の堤防が決壊し、国交省によると、北陸新幹線の車両基地を含む約950ヘクタールが浸水した。

 政府は18日、台風19号を「特定非常災害」に指定することを閣議で決定。安倍晋三首相は「激甚災害」に指定する方針を明らかにしていたが、政府は29日の閣議で正式に指定した。

バックウオーター現象

 台風19号の犠牲者は警察の検視や検分などを待たないと確実なことはいえないが、各自治体の発表などによると、ほとんどが水害による溺死か、土砂崩れに巻き込まれて死亡したことがうかがえる。年代別では多くが65歳以上の高齢者とみられる。

 特異な例では東京湾で停泊していたパナマ船籍の貨物船が風雨や大波で沈没。中国やミャンマーの7人が死亡したケースもあった。

 死亡した状況は、避難や見回りなどで自宅の外にいて被災した人が3分の1以上。特に車で移動中が多く、神奈川県相模原市では家族4人乗りの車が洪水で崩落した道路から転落し、全員が死亡した。

 逆に自宅で死亡した犠牲者は高齢者が多く、浸水した1階で発見されるケースが目立った。

 こうした被害を引き起こした原因は、氾濫した河川の水が行き場を失い、堤防が決壊したことが指摘されている。

 特に長野県の千曲川、福島と宮城県を流れる阿武隈川などで多くの堤防が決壊したが、国交省や防災の専門家は「バックウオーター現象」が起きたとみている。

 1つのパターンは本流の水かさが増し、支流が合流地点でせき止められるような格好になって行き場を失い、あふれるケースだ。

 もう1つのパターンは下流に川幅の狭い場所があり、水量が限界を超え上流の水位が上がるケースだ。

 山と川の多い日本では治水は最重要課題とされ、1970年代後半には1兆円規模の予算を計上。高度経済成長期にはダム整備に重点が置かれた。

 しかし想像を絶する自然の猛威の前には、どんな対策を取ったとしても「完全」「完璧」とはいえないのが現実だ。

求められる被災者への支援

 今回、19号の上陸前は関東の被害が懸念されたが、多くの犠牲者が出たのは宮城、福島、長野の各県だった。

 国交省や気象庁、防災専門家によると、上陸した場所から遠く離れているため「ここは大丈夫」と思い込んでしまう心理が作用したとの見方もある。

 台風19号は伊豆半島上陸から東北沖に抜けるまで「大型で強い」勢力を維持。通常ならば上陸と同時に勢力は衰えるが、平年より高い海水温でエネルギーを蓄積していた。

 東北の太平洋側には湿った空気が反時計回りに入り込み、奥羽山脈や北上山地などに当たって上昇気流となり、記録的大雨が降り注いだ。

 全国紙社会部デスクによると、19号は当初、伊豆半島の上陸後に関東を通過するとの見通しだったため「東北や長野の方々は『被害は関東で自分たちには関係ない』と決して油断したわけではないだろうが、まさか、堤防が決壊するなど、ここまで被害が大きくなるとは思わなかったのだろう」と肩を落とした。

 やはり、ギリギリのところで生死を分けるのは「自分の命は自分で守る」という防災に対する基本的な意識だろう。

 命は自分で守るべきだが、一方で、避難させられないものがある。家屋や家財道具だ。

 着の身着のまま避難して命が助かっても、水に浸かった家屋や家財はどうにもならない。

 生活再建のためにはやはり居住環境が必要だが、消防庁によると、床下浸水と比較的被害が浅い床上浸水が全体の9割を超えるという。

 水害の場合、被災者生活再建支援法で最大300万円が支給されるが、原則として床上1メートル以上に限られ、そのほとんどは対象外になるとみられる。

 この基準で、2015年の関東・東北豪雨では床上1メートルにわずか及ばず、支援の対象外となった世帯が続出した。

 被災者が元通りの生活を取り戻すには、まだまだ時間がかかる。行政の厚い支援を心からお願いしたい。

 そして何より、犠牲になられた方々の無念にお悔やみを申し上げ、心から追悼の意を表します。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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