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「遺伝子編集ベビー」の未来はプーチンの手中にある

2019年10月16日 13時29分更新

文● Antonio Regalado

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Human Nature

遺伝子編集ベビーの将来は、ロシアのウラジミール・プーチン大統領の手の中にあるかもしれない——。ブルームバーグがこんな記事を掲載した。

ブルームバーグの報道によれば、この夏、ロシア最高峰の遺伝学者たちとモスクワの政府保健当局は「秘密会議」を開いた。会議の席では、デニス・レブリコフ博士が提案した遺伝子編集技術「クリスパー(CRISPR)」を使った遺伝子改変赤ちゃんの計画について議論されたという。

世界初の遺伝子編集ベビーは、HIV耐性を持つヒトを作るプロジェクトの一環として昨年、中国で誕生した。中国のプロジェクトは、倫理的な問題への批判と法令違反の疑いで中止に追い込まれている。

現在の問題は、中国が落としたクリスパーのバトンをロシアが拾うかどうかだ。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、遺伝子編集は「大統領の問題」ではないとして、ブルームバーグへのコメントを拒否している。

だがブルームバーグは、モスクワの遺伝子編集秘密会議に、プーチン大統領の長女で小児内分泌科医のマリア・ヴォロンツォワ医師が出席したと報じている(ロシア政府は公式には認めていない)。

間接的な情報によれば、ヴォロンツォワ医師は、科学の進歩を遅らせることはできないが、クリスパー・ベビーの増殖は「国家」機関に限定して管理すべきだと発言したとされる。ロシアのベロニカ・スクボルツォワ保健大臣はブルームバーグに対し、「この非常に複雑な問題には倫理委員会が対処します」と語った。

まさに、遺伝子改変の未来を統制するのは誰か? 議論が分かれている。 科学者、体外受精(IVF)施設、あるいは中国やロシアのような非民主的な政府なのだろうか?

「無作法な元レスラー」と評されるロシアの科学者レブリコフ博士は、この答えを得ようとしていると言われている。レブリコフ博士は 6月、HIV耐性を持つ子どもたちを作りたい、聴覚障害のある夫婦と協力し、子どもたちの遺伝性のDNAエラーを遺伝子編集によって修正し、耳が聞こえるようにしたいと公言し始めた。

ブルームバーグは、レビコフ博士が勤務するクラコフ産婦人科・周産期医学国立研究センター(Kulakov National Research Center for Obstetrics, Gynecology, and Perinatology)が、ヒト胚の編集目的でクリスパーを利用する場合の安全性について審査を求める申請書を10月にも保健当局に提出する計画だと伝えている。ロシアで社会的に受け入れられるかどうかを探り、最終的にプーチン大統領が許可するどうかを決定するという。

「誰もが、ただ動揺しているだけです」。レブリコフ博士は研究室でブルームバーグのインタビューに答えた。 「ルールがあれば良いのですが、それを作る人は誰もいません」。

多くの科学者たちは、ヒト胚を編集してヒトとして成長させるのはあまりにもリスクが高く、進められないという。だが、レブリコフ博士はヒト胚の編集にかかる費用はそれほど高くなく、しかも徐々に下がる可能性があるという。 「現在、ヒト胚の遺伝子改変には1万5500ドルの費用がかかります。自動車を買うよりも大きな出費ですが、使う人が増えれば値段は下がるでしょう。『あなたの選択:ヒュンダイ・ソラリス(高級自動車)、それともスーパー・チャイルドか?』という看板が私には想像できます」(レブリコフ博士)。

プーチン大統領は遺伝子編集について、原子爆弾に例えたり、疼痛を感じない兵士を作る可能性を引き合いに出したりと複数の発言を残している。ブルームバーグによれば、プーチン大統領は昨年、遺伝子研究に20億ドルを投じ、「全世界の未来を決定する」と述べたという。

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