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「教員間のいじめ」刑事事件への発展が濃厚、原因は「神戸方式」人事か

2019年10月16日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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記者会見で謝罪する神戸市立東須磨小学校の仁王美貴校長(右端)ら
記者会見で謝罪する神戸市立東須磨小学校の仁王美貴校長(右端)ら(10月9日撮影) Photo:JIJI

教員同士のハラスメントは、刑事事件になる可能性が濃厚になった。神戸市須磨区の市立東須磨小学校で教員4人が後輩に暴力をふるい、嫌がらせをしていたとされる問題。被害を受け体調を崩して休職している男性教員(25)が11日、兵庫県警に暴行容疑で被害届を提出した。市教育委員会は加害側の4人について懲戒処分を検討しているが、県警も被害届を受理する方向とみられ、捜査に乗り出す異例の事態になりそうだ。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

教員同士でいじめ?

「先輩教員からいじめを受け、20代男性教員が休職している」。新聞やテレビで初報に触れた方々は、一様に驚いたに違いない。

 今月4日、市教委が記者会見で明らかにした内容によると、男性教員(以下、被害教員)は先輩4人から目や唇に激辛ラーメンのスープを塗られたり、羽交い締めにされて激辛カレーを無理やり食べさせられたりしたと訴えている。

 またLINEで別の女性教員にわいせつなメッセージを送るよう強要されたほか、飲酒の強要や尻をたたく暴力なども確認された。

 ほかにも携帯電話をロックして使えなくする、足を踏みつける、車のボンネットに土足で乗る、無理やり車で自宅に送らせる――などの行為もあったという。

 本稿では冒頭「ハラスメント」と表記したが、こうした子どもじみた行為は、確かに「いじめ」という表現の方がふさわしいかもしれない。

 被害教員は精神的に不安定になり、9月から欠勤しているとし、市教委は「市民の信頼を著しく失墜する行為」「前代未聞で、深刻に受け止める」と謝罪した。

 市教委によると、先輩4人(以下、加害教員)は30代の男性3人と40代の女性1人。

 今年6月、別の教員から相談を受けた校長が状況を尋ねると、被害教員は「大丈夫です」と答えたが、嫌がらせはやまず、実際には加害教員が「謝ってほしいなら謝ってやる」などと高圧的にふるまうなど、反省した様子はなかった。

 市教委は「(学校側は)教員同士でトラブルはあったが、校内で解決した」と説明していたとし、学校側による隠蔽(いんぺい)も疑われた。

 被害教員以外にも女性2人にセクハラ、男性1人に対しては「ポンコツ」を意味する「ポンちゃん」などと呼ぶ嫌がらせを受けていた。

 あまりに幼稚で、唖然(あぜん)とするばかりだが、さらに信じられないのが加害教員4人はいずれも学校内のリーダー的存在で、うち2人はいじめ防止の生活指導担当だったということだ。

 加害教員は実質的な「謹慎」で出勤していないが、市教委の規定には自宅謹慎などの処分は存在しないため、行動は自由で給与も支給される「有給休暇」だという。

神戸方式という闇

 市教委に事実関係を隠蔽したと疑われるような報告をした学校側は9日、東須磨小の仁王美貴校長が記者会見し、詳しい実態を明らかにした。

 会見は4時間にも及び、仁王校長は「驚くような内容ばかりで、絶対に許されない」「心からお詫びする。ハラスメントへの認識が甘かった」と反省の言葉を述べた。

 また加害教員を同小で指導させないと強調し「児童、保護者に多大なご迷惑を掛け、大変申し訳ありません」と謝罪した。

 記者らが絶句したのは、加害教員は発言を否定しているというが、児童に「反抗しまくって潰したれ」と学級崩壊を指示していたと被害教員が訴えていたことだ。

 また、調査に対し加害教員たちは「嫌がっていると思わなかった」「自分たちは仲がいいと思っていた」と、いじめをした子どもが必ずするような言い訳に終始。開き直って「自分が面白ければ良かった」と呆れるような釈明をした加害教員もいたという。

 今年2月、同僚教員が「イジリの度が過ぎる」と見かねて前校長(今春異動)に報告したが、被害教員が「大丈夫です」と返答したため、学校側は対応しなかった。

 仁王校長に引き継ぎもされていなかったが、6月に再度、同僚が仁王校長に報告。尻を叩かれて腫れができたことを認識していたが、市教委にはハラスメントの詳細を伝えていなかった。

 そして、仁王校長が詳しい実態を知るようになったのは、被害教員が欠勤するようになった9月以降だった。

 電話や手紙に「大好きな子どもたちの前に立てないのに、4人が(教壇に)立っていることを考えると苦しい」と心情を吐露したことだったと説明した。

 全国紙社会部デスクによると、これらは「神戸方式」という校長の意向が強く人事に反映されるシステムが招いたという。

 神戸方式とは、教員の希望に基づき、現行の配属先と異動先の校長が調整して素案を作成し、市教委が追認する慣行で、1960年代に始まったとされる。

 優秀な人材や、自分の言うことを聞く教員を確保しようとする校長の意向が反映され人事の公正さが失われ、配属された教員が校長の威光を盾に発言力を持つ弊害があるとも指摘していた。

 因果関係ははっきりしていないが、加害教員4人は神戸方式人事だったとされ、昨年12月に被害教員が前校長に相談しようとしたが「いじめじゃないよな」「(加害教員らとは)仲がいいだろ」と取り合ってもらえなかったとされる。 

理解できないいじめの構図

 一連の問題を受け、被害教員は10日、代理人弁護士を通じ、コメントを発表した。

「子供たちへ 急に先生が代わってびっくりしたね。ごめんね」「職員室が怖かった分、毎日子供といる時間が幸せでたまらなかった」

「先生はよく『いじめられたら誰かに相談しなさい』と言っていましたね。しかし、その先生が助けを求められずに、最後は体調まで崩してしまいました」

「今の先生だからこそ、お願いです。つらいとき、悲しいとき、自分一人で抱え込まず、誰かに相談してください」「必ず、誰かが手を差し伸べてくれます。助けてくれます」

 保護者に向けては「いつも温かく迎えてくださって感謝でいっぱいです」「ご心配やご迷惑をお掛けしてすみません」と謝罪し、結んだ。

 ここまで追い込まれた原因は、市教委や仁王校長が記者会見で明らかにした内容以外にもあった。

 ドレッシングや焼き肉のたれ、キムチ鍋の原液を飲ませる▽熱湯の入ったヤカンを顔に付ける▽カバンに氷を入れる▽「犬」と呼ぶ▽携帯電話を隠す▽出張で「甘いもん買ってくるのが礼儀」と言ったのに「こんなんで好かれようとするな」と捨てる▽「太れ」と菓子を口に詰める――などだ。

 全国紙デスクは「ちょっとこれ、咀嚼(そしゃく)できないんですよね」と不思議な感想を漏らした。

「そんなこと、ありうるの?」と理解できなかったというのだ。それは、冒頭でも記した通り、読者の方々も同じに違いない。

 まだまだ明らかにされていない事実があるように思う。その事実が明らかにされるのは、ぬるい市教委の調査・報告ではなく、法廷の場かもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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