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日本は「MMT先進国」? 新たな“日本化現象”は起こるか

2019年10月09日 06時00分更新

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

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日本は「MMT先進国」? 新たな“日本化現象”は起こるか
Photo:PIXTA

世界的な超低金利時代
金融政策だけでは限界に

 グローバル金融市場は、再び金利が低下局面に入り、主要国の金融政策も緩和に再びかじが切られた。

 今年7月、米国は利下げに転じ、9月に追加利下げが行われた。欧州も9月に利下げに転じた。

 米国は、まだマイナス金利からは一線を画すものの、それでも発射台が従来に比べて低く、金利引き下げ余地に乏しい。欧州は今や日本を上回るマイナス金利状況であり、今後、マイナス金利が波及し、世界中がマイナス金利化する不安も生じている。

 従来、「日本現象」とされた状況が欧米にも波及している。

 こうしたなかで財政政策への期待が高まるが、赤字財政を積極肯定する現代貨幣理論(MMT)の実践でも、日本が“モデル”になる可能性がある。

「負け組」は銀行と家計
政府が一番の恩恵受ける

 図表1は、日本を事例として、マイナス金利導入後の金利低下による部門別所得移転を示す。

 2016年1月にマイナス金利が導入されて以降、2018年(第3四半期)までの家計や企業などのプラスマイナスを出したものだ。

 単純化すれば、「勝ち組」は、政府と企業、「負け組」は金融機関と家計だ。

 政府部門はマイナス金利導入による最大の勝ち組であり、国債利回りの低下に加え、マイナス金利による超過収入(発行収入金と額面価格との差額)による恩恵もある。

 第二の勝ち組、事業会社(非金融法人企業)は財産収支が改善するメリットを享受する。

 一方、最大の負け組の銀行などの預金金融機関は、貸出金利の低下などによる預貸金利回り差低下(利ざや縮小)の影響から大幅な損失超となる。

 次いで、保険、年金も運用利回り低下でマイナスが生じる。

 もう1つの負け組の家計については、住宅ローン金利低下の効果が預金利息低下などの資産収益減少でほぼ相殺され、全体ではマイナスになる。

 超金融緩和の継続で資産運用業に従事する金融機関と家計への副作用が累積的に生じることになる。

 図表1が語ることは、今のマイナス金利も含めた超低金利策は、金融機関や家計が、収益や所得を政府と企業に吸い上げられる構造になっていることだ。

 これは、無意識のうちに金融機関や家計に税金が賦課され、「隠れた税金」(Stealth Tax、ステレス タックス)となっている一方で、企業に補助金が支払われるようなものだ。

 それだけに、低金利の最大の恩恵を受ける政府が、財政支出で一定の資金を国民のために使うべきという考えが生まれるのも自然な面はある。

MMTで財政政策重視の潮流に
格差の観点からも期待高まる

 その象徴が、今、注目されている現代貨幣理論という財政政策を重視した考え方だ。

 かつて、「異次元緩和」の効果に陰りが出て金融政策の限界が指摘され始めた2016年頃にも、財政政策への依存を重視する考え方が生じた。

 当時、財政を重視した物価水準の財政理論(FTPL)が脚光を浴び、ノーベル経済学賞を受賞したクリストファー・シムズ教授の考えを、内閣府参与の浜田宏一氏が紹介したことが大きな話題になった。

 図表2は、2015~16年当時と今日の比較である。

 2015~16年当時と今は、景気減速などによる閉塞状況は似ているが、2016年当時は、FTPLへの関心は日本に限られ、日本ではFTPLの考え方に沿うように消費増税の2度目の延期が行われた。

 これに対し現在は、「反緊縮」運動が広がる欧州や米国を含め、財政政策を重視する考え方はグローバルな広がりを持つ。MMTの理論自体は、伝統的な経済学派から異端の扱いを受けているが、世界的に財政政策への関心が生じている点は重要だ。

 金融緩和余地が限られているなかで経済政策に対する閉塞感も生じているからだが、これは、金融危機以降、日本が世界に先駆けて対峙してきた問題であり、現在は世界的に「日本化現象」が広がっているともいえる。

 中央銀行が国債を直接引き受けて資金を供給する、いわば中央銀行が打ち出の小づちのようになるヘリコプターマネーは正当化しにくいし、異次元の金融政策を飛び越え、際限なく財政を拡張して財政を実験台に使うようなことも避けるべきだ。

 ただし、今回、MMTがグローバルにも広がりを持つ形で浮上したのは、日本同様、先進国の多くで長期停滞感が強まり改善への成長戦略が描き切れないでいることが背景にある。

 同時に金融政策の効果に限界があることへの認識が広がった面がある。金融は緩和されたが、投資が増えるというよりも、各国で資産価格が上昇し、格差が拡大しただけでなく、マイナス金利などの超低利による事実上の課税負担が加わっている。

 格差の観点からも財政政策への期待が浮上したと考えられる。

赤字拡大でも国債は安定
国内でファイナンス

 財政赤字拡大が続けば、いずれ国債が暴落するとの議論がこれまでも行われてきたが、筆者は日本国債はそう簡単に暴落しないとしてきた。

 その際、次のたとえを用いて説明してきた。

 それは、日本は、日本の「家」として借金はない(経常収支は黒字だ)が、「同じ家の中」で、「お父さんがお母さんからお金を借りる」(財政赤字の存在)状態だと例えてきた。

「お母さんが家から逃げ出す」(資本逃避が起きる)と大変な問題だが、日本という家では、お父さんとお母さんの信頼(愛)があることで安定が確保されてきたといえる。

 ここでの「愛」というのは、政府が市場に対して財政規律を示すことを意味する。

 上の日本の「家」の話は、マクロ経済での「ISバランス論」では以下のようになっている。

 経常収支=(国内貯蓄-国内消費)+(税収-政府支出)
     = 国内貯蓄余剰(不足)+ 財政黒字(赤字)

 日本の場合、財政赤字でも、国内貯蓄の余剰で経常収支は黒字の状況であり、国内で財政赤字をファイナンスできている状況だ。

 現在、日欧の主要先進国で経常収支が黒字であることを考えると、一定程度、財政を拡大することが重要な課題になる。しかも、先述のように、マイナス金利に象徴される超低利の長期化で事実上の課税が拡大するような状況では、そのことが一層、必要になる。

「日本版MMT」には「愛」がある
一定の財政規律を維持

 ただし、MMTの問題は、次の2点にあった。そもそも、(1)財政収支の均衡が重視されていないことであり、(2)金融政策が「財政従属」し、中央銀行の独立性が侵されることだ。

 これらの点が、いわゆる主流派経済学から異端の扱いを受けている理由なのだが、日本の場合は、財政拡張政策がとられているという行為はMMTと類似していても、財政規律への信認は保った状態にあると考えられる。

 MMT理論をそのまま実践することには先進各国でも受け入れがたいだろうが、日本が行ってきた、一定の財政規律を維持しながら財政政策が金融政策と連携をとりながらマクロ政策の役割を果たすといったやり方は、今後、世界の潮流になっていくのではないか。

 すなわち、「日本版MMT」は新たな「日本化現象」のひとつとなる可能性がある。

 10月1日に消費増税が行われたが、それは、財政赤字が拡大するなかで、財政規律の一定の「愛」の姿勢を示したものと評価される。

 景気減速がいわれるなかでの増税には否定的な見方もあるが、消費増税は、財政を活用しつつも一定の財政規律を維持する「日本版MMT」を実践したともいえる。

 消費増税が実現できたことは日本国債の格付けにもプラスに働きやすい。

超長期国債の活用を通じた連携
50年国債発行の検討を

 また「日本版MMT」の延長線上の考えの一つとして、超長期国債の活用を通じた財政と金融政策の連携も考えられる。

 現在の日本国債の最長期間は40年債だが、今年4月、三菱地所は50年債発行を発表しており、超長期債への関心が今後、高まる契機になるかもしれない。

 日本でもいずれ50年債の国債発行の検討が行われてもいい。これだけの低金利のもとでは、少しでも金利の高い国債が市場に供給されることは意義があり、国債市場でベンチマークとなる超長期の国債が発行されれば、そうした年限も含む民間債発行の円滑化につながりやすい。

 また、日銀が新たな超長期国債を買い入れの対象に含めることで、超長期市場の育成につながり、同時に財政と金融政策の連携を示す効果にもつながる。

(みずほ総合研究所 副理事長/エグゼクティブエコノミスト 高田 創)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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