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空自F2戦闘機の後継機、「日本主導」の開発が難しい理由

2019年09月11日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,千本木啓文(ダイヤモンド・オンライン

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F2戦闘機
2020年度から始まるF2戦闘機の後継機開発は“乱気流”に突入か Photo:JASDF

政府は2020年度から次世代戦闘機の開発を始める。政府が目指すのは「日本主導」の開発だが、経験に勝る英国などとの共同開発で主導権を握るのは容易ではない。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

“ゼロ戦の伝統”を後世に残せるか

 第2次世界大戦の終結まで、ゼロ戦など世界屈指の戦闘機を生んでいた航空機技術の競争力を取り戻す最後のチャンスかもしれない――。

 防衛省は20年度概算要求にF2戦闘機(保有機数約90機)の後継機を開発する予算を盛り込んだ。今後10~15年で開発を完了し、F2の退役が始まる2030年代半ばからの導入を目指す。

 開発費は現時点で1.5兆円規模と見られ、その後の量産やメンテナンスを含めれば総額5兆円ともいわれる一大プロジェクトとなる。

 次期戦闘機開発で最も政府がこだわるのが「日本主導」だ。開発の主導権を握ることでノウハウを国内に蓄積するとともに、戦闘機を自由に改良したり、修理したりできるようにする。

 「自由に改修できる」など一見当たり前のようだが、こと戦闘機においてはそうはいかない。

 日本が改修の権利を重視するのは、次期戦闘機を逃すと他に自由に運用できる戦闘機がなくなるからだ。次期戦闘機と共に運用することになる2種類の戦闘機、F35とF15は、いずれも米国主導で開発されたもので、特にF35は「自衛隊のニーズに合わせて機能を柔軟に変えられず、修理にも時間が掛かる。運用してもノウハウを得にくい」(政府関係者)。

 比較的自由に改修できるF2の後継機が、F35などのように「米国からの買い物」になってしまえば、日本が独自に航空戦力を増強したり、技術を向上したりする機会が永遠に失われるといっても過言ではない。

 こうした危機感があるが故に、18年末に政府がまとめた「中期防衛力整備計画」には「(次期戦闘機は)国際協力を視野に、我が国主導の開発に早期に着手する」と明記された。しかし、方針を決めればその通りに進むほど戦闘機開発は甘くはない。

外圧に屈しない一貫性が必要

 20年度には、防衛装備庁に「将来戦闘機開発官(仮称)」なるポストが置かれ、開発が正式にスタートする。

 新ポストの指揮の下、開発に取り組む企業グループの中心となりそうなのがF2開発を取りまとめる主契約企業だった三菱重工業だ。

 同社の阿部直彦防衛・宇宙セグメント長は、「開発着手に向け、要素技術の獲得はほぼ完了している」と開発の取りまとめに意欲を示す。

 若干、専門的になるが、要素技術とは、(1)先進技術実証機(X-2)の開発で得たインテグレーションのノウハウ、(2)ミサイルを機体内に格納して敵機から発見されにくくするステルス技術、(3)世界最高性能のレーダー技術、(4)ボルトが不要で軽量な複合材の技術、(5)僚機間で連携して戦うクラウドシュティング技術――だという。

 この他、IHIのジェットエンジンなど日系企業は優れた技術を持つ。だが、実証段階にとどまるものも多く、実用機の開発、製造の実績では欧米企業に大きく水をあけられている。次期戦闘機の開発は欧米企業の支援なくしては不可能なのだ。

 一方、欧米に頼り過ぎれば「日本の自由な運用の幅は狭まる。特に米国に深く依存すれば確実に主導権を奪われる」(政府関係者)というジレンマがある。

 開発を日本がリードし続けられるか――、それを左右する分かれ道はいくつもある。

 第一の分岐点は、次期戦闘機のコンセプトを策定する防衛装備庁と企業でつくる「開発主体」が一貫性を保てるかだ。

 最も重要なのは、国産技術の活用それ自体ではなく、戦闘機を独自の戦略で運用する権限を持つことだ。官民の開発主体は、どの部品をどこの国から買うかを主体的に決め、改修などの自由度を確保した上で調達する交渉力が求められる。

 航空自衛隊元幹部は「官民の開発主体の下に米英などの外国企業をベンダーとして配置するのが望ましい。海外から協力を受ける部品は必ず代替メーカーを確保して居直られないようにする。居直られたら他に切り替えられることが大事だ」と話す。

 理想的ではあるが、こうした強気の交渉をするには、外圧に屈しない毅然とした政府の姿勢が不可欠だろう。

 仮に、こうした強固な開発体制ができても、別の難題が待ち構える。

 戦闘機は運用開始から30~50年使われるが、人工知能(AI)や自動運転技術、レーザー兵器の活用が急激に進む現代において、未来の戦い方を想定するのは極めて難しい。

 次世代戦闘機のコンセプト策定は米国ですら手間取っている超難題なのだ。

将来戦闘機のコンセプト図
防衛省が示した未来の空戦のイメージ。これを具体化し、戦闘機の基本設計に落とし込むのが極めて難しい Photo by Hirobumi Senbongi 拡大画像表示

 図は10年に防衛省が示した未来の空戦のイメージだが、「戦闘機(親機)の前に展開する子機は親機から発進させるのか、親機も含めてどこまで無人化するのかなどが全く不透明だ」(政府関係者)という。

 そうした中でコンセプトを議論すると、あれもこれもと要求やアイデアが増える。それらを絞り込み、基本設計に落とし込むには強力なリーダーシップが必要になる。

 まして、他国と共同開発を行う場合、さらに利害の調整は難しくなる。

国内製造の部品は3~4割でいい

 共同開発は、ノウハウの確保やコスト削減のために極めて有効だ。しかし、前述のように米国頼みでは日本の主導権発揮は望めない。そこで浮上しているのが同時期に戦闘機を開発する英国をパートナーにする案だ。

 先出とは別の政府関係者は英国との共同開発について「求める機能は日英で違う。現実的には部品の共用にとどまるだろう。英国に限らず米国の企業からも提案を受けて判断するのが望ましい」と話す。

 そして、意外に大事なのが開発のスピード感だ。開発が長期化するほど他国に介入される余地が生まれる。F2の開発は当初、日本主導で進んだが、途中から米国に牛耳られてコア技術がブラックボックス化されてしまった。

 次期戦闘機の開発でも、途中で米国から横やりが入ることは十分に考えられる。スペックの決定などに手間取って開発が混乱状態に陥ることがないよう、スケジュール管理が重要になる。

 先出の空自元幹部は「最初は国産パーツにこだわらず、スケジュールに間に合う国産技術だけを採用。それ以外は外国に頼りつつ国内開発を続けて完成し次第、導入していけばいい」と話す。戦闘機の改良の自由度が確保されるなら、「運用開始時の部品の国産化率は30~40%で構わない」という。

 開発のノウハウで劣る日本が実績豊富な海外メーカーを「使う」という難易度の高い開発を成功させるには、強い政治の意志と政官民の連携が必要だ。そして独自の戦略で運用できる戦闘機が、日本の防衛のために不可欠だということに対する国民の理解が鍵になるだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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