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米中摩擦で主要中銀が金融緩和競争、円高圧力強まり日銀は窮地に

2019年08月21日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,竹田孝洋(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

7月以降、先進国、新興国の中央銀行が相次いで政策金利を引き下げた。米中貿易摩擦の見通しが不透明な中、世界経済の減速が見込まれるからだ。今後も緩和競争は続き、世界的な金利低下は円高圧力となり、日本銀行を窮地に追い込むことになる。(ダイヤモンド編集部 竹田孝洋)

 主要国の中央銀行が金融緩和、政策金利の引き下げを競い始めた。

 下表を見てほしい。7月31日にFRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートを0.25%引き下げたのと前後して、アジア諸国の中央銀行を中心に利下げが続いた。

 利下げの理由は、米中貿易摩擦による世界経済減速に対する自国の景気下支えのためだ。

 昨年7月の米国による中国からの輸入品への関税引き上げが始まって以降、米中両国の関税引き上げの応酬が続く中、当初は中国の方に景気の下押し圧力が強く働いていたが、ここにきて米国にも減速圧力がかかり始めた。

 その状況は、景気の動きに先行する指標であるPMI(購買担当者景気指数)の動きから一目瞭然である(下図参照。米国ではISM〈米供給管理協会〉景況指数)。

 中国の製造業PMIは、昨年夏から50前後で推移し、直近の5月から7月までの3カ月では、景況判断の分かれ目である50を連続して割り込んでいる。非製造業PMIも50台前半での低空飛行が続いている。

 一方、米国の製造業ISMは昨年夏あたりには60前後で推移していたものの、足元では50こそ割り込んでいないが急速に低下している。7月は51.2と、3年6カ月ぶりの低水準となった。非製造業ISMも3年ぶりの50台前半の水準を付けた。

 ここで、8月1日にトランプ米大統領が表明した通りに3000億ドル分の関税引き上げとなれば、さらに米中双方でセンチメント悪化も含め景気への下押し圧力は強くなる。引き上げ表明前の7月末のFMOC(米連邦公開市場委員会)では考慮されていなかった要因だ。

 悪化の兆候を察知してか、トランプ政権のFRBへの露骨な利下げ要求はエスカレートするばかり。

 7月31日にFRBが利下げをしたばかりだというのに、8月6日には大統領補佐官のピーター・ナバロ氏は「年末までに0.75%か1%利下げしなければならない」と発言した。

 8日にはトランプ大統領がドル高傾向の継続に不満を漏らし、「大幅に利下げをし、量的引き締めをやめれば、(ドル安による輸出競争力回復で)米企業が競争に勝てる」とFRBを強く非難した。

 市場はすでに年内に0.25%を2回、または0.5%を1回の、FRBの利下げを織り込んでいる。

 CME(シカゴマーカンタイル取引所)のFedWatchの各FOMCにおける利下げ確率を見ると、9月は0.25%以上の利下げの確率が100%である。12月は現状より0.5%低い水準まで利下げする確率が92.2%だ。

 米中対立に緩和の兆候は見られない。9月1日には、中国からの輸入品3000億ドル分のうちスマートフォン、パソコン、玩具などを除く品目への10%の関税賦課は確実である。となれば、9月にFRBが利下げに踏み切らなければ、市場の失望を招き株価は急落しかねない。パウエルFRB議長としては不本意かもしれないが、利下げせざるを得ないだろう。

 すでに多くの関係者に指摘されていることだが、FRBの利下げがトランプ大統領の中国へのさらなる強硬措置を招く悪循環に陥りそうだ。

FRBの利下げ継続は
中国経済も支えることになる

 今後も、各国中銀による利下げ競争は続くだろう。9月18日のFOMCより前の12日に、ECB(欧州中央銀行)の理事会がある。7月の理事会後の記者会見で、ドラギ総裁はすでに利下げを示唆しており、0.1%の利下げは確実だろう。

 ユーロ圏の経済状況は悪化している。4~6月期のGDP(国内総生産)は前期比0.2%増となり、1~3月期の0.4%増から伸びが半減した。イタリアはゼロ成長となり、要であるドイツの4~6月期はマイナス成長となる見通しだ。輸出先である中国経済の減速が大きく響いている。10月のラガルド新総裁就任後は、量的緩和再開も視野に入ってくるだろう。

 政策金利だけではなく、主要国の長期金利も低下している。米国10年物国債利回りは一時1.6%割れした。これは中国にメリットをもたらす。他国の金利低下で、中国が最も恐れる人民元安の進展から資本流出が加速する可能性が低くなるからである。資本流出を懸念することなく、景気刺激のためにさらなる金融緩和、緩やかな人民元安を進めていく余地ができる。

 現に、1ドル=7元を突破したことで、加速的な人民元安の進行が懸念されたが、世界的な金利低下が進んだこともあり、急速な資本流出といった混乱は起きていない。

 その意味で、トランプ大統領の対中強硬策による景気減速を背景としたFRBの利下げは、中国が金融緩和と緩やかな人民元安を進め、景気を支えやすくするという皮肉な状況をつくり出している。FRBが利下げすれば、金融緩和と緩やかな自国通貨安が進めやすくなるのは、中国以外の新興国も同じである。

 緩和競争が続くことは、日本銀行を苦境に追いやる。他国の金利水準が低下することは円高圧力となるが、量的緩和、マイナス金利と金融緩和を強力に進めてきた日銀には、さらなる緩和の余地が乏しい。

 とはいえ、1ドル=100円を割るような円高が進めば、日銀は量的緩和の拡大、10年物国債利回りの誘導目標の引き下げ、容認幅の拡大、ETF(上場投資信託)の購入額の増額など金融緩和に踏み切らざるを得ないだろう。ただ、それは今後景気が悪化した際の刺激策の先取りである。結果として選択肢が狭まり、日銀はさらなる窮地に追い込まれることになる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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