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米中のチキンレースが終わらない理由、対中3000億ドル制裁関税実施は必至

2019年08月13日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,竹田孝洋(ダイヤモンド・オンライン

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トランプ大統領
Photo:AP/AFLO

トランプ米大統領の9月1日からの対中輸入品3000億ドル分への10%の制裁関税表明で金融市場は動揺した。米国自身へのダメージも今回は無視できないものになるが、米中両国とも金融・財政政策で経済を支え、失速は回避されそうだ。それゆえ、両国のチキンレースは続く。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

株価を気にしなくなった
トランプ大統領

 またしても金融市場はトランプ大統領に振り回された。

 8月1日、トランプ大統領は中国からの輸入品に対し、すでに25%の関税を課している2500億ドル分以外の残り3000億ドル分についても、9月1日から10%の関税を賦課すると表明した。

 5日には中国人民銀行が人民元の対ドルレートの基準値を下げ、人民元の対ドルレートが7元を割ったことをとらえて、中国を為替操作国に認定した。これに対して、中国は6日、米国からの農産物の一時輸入停止を決め、報復合戦はエスカレートした。

 6月末のG20サミットでの米中首脳会談で再開が決まった貿易協議の行方に、期待を抱きつつも裏切られた市場はリスクオフ(投資家がリスクを取るのを嫌う状態)へと向かい、世界同時株安となった。

 ニュヨークダウは7月31日から8月5日まで営業日ベースで4日連続続落し、2万5717ドルにまで下げた。日経平均株価は2日、5日と続落し、6日には一時2万110円をつけた。

 トランプ大統領は、対中交渉において株価動向を意識して発言してきた。昨年末の株価の下落局面では、中国との貿易交渉における強硬姿勢を一時的に緩めたりした。

 しかし、今回は株価動向にそれほど気を配らなくなったようだ。

 8月1日のツイートの後、ホワイトハウスの記者との会話で「株価は少し下落している。だが、私のしていることで今よりずっと状況は良くなるから、驚異的な状況になるだろう」と株価下落を気に懸けないどころか、上昇を期待する様子を見せている。

 だからこそ、株価下落が続いていた5日に、中国を為替操作国に認定したといえる。下落を気にしていたなら認定を見送っていただろう。

 米中両国とも、貿易協議を継続するとしているものの、全面的な合意に至る可能性はほとんどない。中国は、協議の焦点となっている産業補助金の廃止など中国の国家資本主義の骨格にかかわる面で妥協することはない。一方、米国は5月初旬まで中国が、こうした骨格部分も含めて同意していた水準にまで中国が譲歩しない限り、合意することはない。

対象品目の6割が消費財
米国個人消費への影響無視できず

 今回は、株価下落によるトランプ大統領への抑止効果も期待できないため、9月1日に米国は中国からの3000億ドルの輸入品に10%の関税を課すことになるだろう。

 これまでの関税引き上げでは、中国経済への影響の方が大きかったが、今後は米国経済へのダメージも顕在化してくる。

 今回の対象商品は、スマートフォン、玩具など中国のシェアが高いものが多い。他の国からの輸入で代替するのは難しい。さらに、消費財が6割を占める。人民元安で相殺される部分はあるものの、消費財への一定の価格転嫁は避けられない。年末のクリスマス商戦に向けて個人消費の足を引っ張ることになるだろう。

 今後も米中貿易協議の不透明感から、設備投資の低迷は続くだろう。5月の対中関税引き上げが影響している2019年4~6月期のGDP(国内総生産)において、すでに民間設備投資は前期比0.1%減となっている。

 景気の先行指数であるISM(米製造業景況指数)は、8月に51.2となった。今回の関税引き上げ表明で9月に景気判断の分かれ目となる50割れの公算もでてきた。9月、遅くとも10月にはFRBは再度の利下げに踏み切るだろう。

 ただ、FRBのさらなる利下げに加え、民主・共和両党の合意で決定された20年度(19年10月から20年9月)、21年度(20年10月から21年9月)で計3200億ドルの歳出枠拡大も経済をした支えする。

 金融・財政双方から景気刺激策がとられることもあり、現在、2%前後の成長を続けている米国経済が景気後退、つまりマイナス成長に陥る。

金融・財政政策で相殺
中国の成長率低下は0.1%にとどまる

 中国も政策で経済を支えてきた。年初からこれまで講じてきた景気刺激策はこれから効果が表れる。

 これまで成長の頭を押さえていた債務抑制策を緩和し、地方政府に地方債を増発させ、インフラ投資を増やしている。対策効果と相殺で「関税が10%に引き上げられたとしても年率でマイナス0.1%程度の減速ですむ」(関辰一・日本総合研究所主任研究員)とみられる。4~6月期のGDP成長率は前年同期比6.2%。3月の全国人民代表大会で示された経済成長率目標の下限である6%を割ることはないだろう。

 世界の株価が落ち着きを取り戻しあるのも、10%への引き上げで米中両国の経済失速はないとみたからだろう。

 経済が失速することなく、持ちこたえられるとなれば、両国とも譲歩する理由はない。互いに譲ることなく対立が続くだろう。市場が懸念する、3000億ドル分の中国からの輸入品への10%から25%への関税引き上げの公算は十分にある。

 引き上げは中国経済には「年率1%前後の成長率押し下げ圧力となる」(三尾幸吉郎・ニッセイ基礎研究所上席研究員)見通しだ。米国も、「2020年に個人消費の減速は避けられない」(小野亮・みずほ総合研究所主席エコノミスト)。

 ただ、この場合も米国はさらなる利下げ、中国は追加の金融緩和とインフラ投資などで経済を支え、失速は回避するだろう。

 とはいえ、金融緩和、追加財政は、米中両国ともに公的部門、民間部門の債務を増大させ、将来の景気後退時の金融不安の可能性を高める。米国では、CLO(ローン担保証券)の値下がりにつながる可能性もある。米中どちらかが、債務の重みに耐えきれなくなるまで、関税引き上げ、報復合戦のチキンレースは続く。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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