このページの本文へ

前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第97回

「7pay」撤退で考える電子マネーの未来

2019年08月13日 12時00分更新

文● 前田知洋

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 いやぁ、暑いですね。熱中症予防には「水分補給」が一番…。ですが、筆者が住む湘南では、暑い日には自販機の冷えた飲料が「すべて売り切れ」なんて日もめずらしくありません。というわけで、コンビニにはいっそうのお世話になりそうな予感が…。

 そんな中、飛び込んできたホットニュースが、スマートフォン決済サービス「7pay」の撤退です。8月1日の記者会見で、セブン&アイ・ホールディングスは同サービスを9月30日24時に廃止すると発表しました。

 電子マネーの戦国時代に突入したともいえるこのタイミングで、「流通系初のスマホ決済サービス」をうたった7payの撤退は、経済/ITサイトをはじめ多くの論評や分析が掲載されています。しかし、不正アクセス被害があったことから、その手口については具体的に説明されておらず、専門家は「メールアドレスと電話番号などが分かればパスワードのリセットが可能だったこと」「利用者以外の別の端末で乗っ取りできること」「2段階認証のプロセスがなかったこと」などの脆弱性があったと指摘しています。

そもそも、電子マネーとは?

 ここ数年、多くの記事で話題になっている「電子マネー」。ざっくりと解説するなら、ここで語られる電子マネーとは「電子的な決済方法」といってもいいかもしれません。

 バーコード/QRコードによる決済で普及したPayPay、非接触型ICカード通信Felicaを採用したnanaco、NFC技術を使った交通系電子決済Suicaやクレジットカード決済ができるiPhoneやApple WatchによるApple Pay(QUICPay)などが知られています。

今年8月にリリースされるiOSと連携するApple Card(出典:https://www.apple.com/apple-card/ )

 それぞれリアルマネー(現金)と交換されるタイミングが異なり、プリペイド(使う前に残高をチャージしておく)とポストペイ(後払い)があります。それ以外に、銀行系デビットカードのように支払い時に口座から引き落とされるもの、「クレジットカードからチャージ」のようにプリペイドとポストペイを組み合わせた、決済方法もあります。電子マネーを理解しづらくしているのは、これだけではありません。

理解しにくいのはポイントのせい?

 電子マネーのメリットとして、家計簿がわりに買い物の履歴が残ることや、スマホやApple Watchのようなウェアラブルデバイスだけで、財布を持たずに買い物ができるメリットがあります。

 しかし「(ポストペイの)クレジットカードや現金から(プリペイドの)チャージして使う」という、矛盾してみえ、手間のかかる決済方法をわざわざユーザーが好むのは、ポイント還元やキャッシュバックがあるからといえるでしょう。

 電子マネーを導入する企業としては、年齢や性別と購買された商品のデータを一括管理できるメリットがあります。

電子マネー取り扱い企業の銀行化が鍵

 少し考えてみれば、給料や報酬としてして振り込まれるリアルマネーも、支払日にリアルキャッシュ(現金)が企業と銀行の間を往復しているわけではありません。日本のお札(日銀券)の流通量は、GDP500兆円に対し100兆円と発表されている(2017年1月時)ことから、預金通帳に記載される残高は、すでに電子的な数字であることがうかがえます。

 そうであるなら、給料や報酬がすぐに電子マネーとして使える状態で口座に振り込まれることが理想ですが、問題はそう簡単ではありません。

購入者情報と商品選択データを誰が持つか?

 つまり、金融機関は個人や企業の資産や収入のデータはあるが、商品購買や行動データは持っていない。一方でクレジットカード会社などは、消費者の使った場所と金額のデータはあるが、その商品やサービスの内容が詳しくはわからない。販売店は、購入された商品の売れ行きのデータは持っている。そんな、ジャンケンの手のような、三つ巴の関係になっています。

 さらに少し前、米フェイスブック社が金融分野に参入することを表明しましたが、規制当局や政治家たちは世界の金融システムや中央銀行にとってリスクになることを表明しています。

 つまり、問題は不正使用を防止するシステムだけでなく、電子マネー企業の一社が消費者の収入/行動/購買データを独占して保有することの可否にまで及ぶと想像するのは、考えすぎでしょうか…。

デバイスと一体化、そして、ちゃんと使えること、盗まれないこと

 それほど悲観的に考えなくても、電子マネーの未来について少し想像してみますね。

 もしかすると、ヒントになるのは、インドで採用されている指紋や虹彩による生体認証と12桁の番号による社会保障行政サービス。もう少し過激ですが、書き換え可能な磁気インクのタトゥーの電子マネーの構想もエキセントリックです。

 さらに、今までのような磁気ストライプが入ったクレジットカードやキャッシュカードがすべて駆逐され、「そのクレジットカードは扱ってないんです…」なんて、消費者の利便性を無視した、企業間のナワバリ争いをあきらめてもらうことも…。そして、もし従業員が給料の振込先に自社とライバルの電子マネー企業を選んだとしても波風がたたない…。電子マネーの未来は、そんな企業側の意識改革にある気がするのは、決して筆者だけではないかもしれません。


クレジットカードと電子マネーのハイブリッドともいえるApple Card

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン