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日本人サッカー選手の前例なき「海外移籍」ブーム、2つの理由

2019年08月02日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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久保建英
今夏、海外に移籍したのは久保建英だけではありません Photo:NurPhoto

今夏の移籍市場で、Jリーガーたちが続々とヨーロッパへ新天地を求めている。7月末の時点で、森保ジャパンや年代別の日本代表に名前を連ねた11人が移籍を決断した。今年1月の移籍市場でも多くの選手が海を渡るなど、ここにきて海外移籍が一気に活況を呈している。日本サッカー界で何が起こっているのか。目まぐるしく変化する舞台裏の動きを追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

レアル・久保建英だけじゃない
わずか半年で18人が欧州へ移籍

 Jリーガーの海外移籍ラッシュが続いている。今夏の移籍市場がオープンになるや、FC東京から世界一のビッグクラブ、レアル・マドリードの一員になった久保建英をはじめとして、7月末の時点で実に11人がヨーロッパに新天地を求めた。顔ぶれは下記のようになっている。

シュミット・ダニエル GK 27歳 ベガルタ仙台→シントトロイデンVV(ベルギー)
鈴木優磨       FW 23歳 鹿島アントラーズ→シントトロイデンVV(ベルギー)
安西幸輝       DF 24歳 鹿島アントラーズ→ポルティモネンセSC(ポルトガル)
安部裕葵       FW 20歳 鹿島アントラーズ→FCバルセロナ(スペイン)
久保建英       MF 18歳 FC東京→レアル・マドリード(スペイン)
天野純        MF 28歳 横浜F・マリノス→ロケレン(ベルギー2部)
前田大然       FW 21歳 松本山雅FC→CSマリティモ(ポルトガル)
北川航也       FW 23歳 清水エスパルス→SKラピード・ウィーン(オーストリア)
菅原由勢       DF 19歳 名古屋グランパス→AZアルクマール(オランダ)
中村敬斗       FW 19歳 ガンバ大阪→FCトゥエンテ(オランダ)
小池龍太       DF 23歳 柏レイソル(J2)→ロケレン(ベルギー2部)
 
 いずれも各クラブで主力を担い、小池を除けば、森保ジャパンや年代別の日本代表に選出された選手ばかりだ。さかのぼれば今年1月の移籍市場でも、次の選手たちが海を渡っている。

昌子源     DF 28歳 鹿島アントラーズ→トゥールーズFC(フランス)
板倉滉     MF 22歳 川崎フロンターレ→マンチェスター・シティ(イングランド)
権田修一    GK 30歳 サガン鳥栖→ポルティモネンセSC(ポルトガル)
中山雄太    MF 22歳 柏レイソル(J2)→PECズヴォレ(オランダ)
伊東純也    FW 26歳 柏レイソル(J2)→KRCヘンク(ベルギー)
安西海斗    DF 21歳 柏レイソル(J2)→SCブラガ(ポルトガル)
小久保玲央ブライアン GK 18歳 柏レイソルU-18→ベンフィカB(ポルトガル)

 岡田武史監督に率いられる日本代表がベスト16に進出した、2010年のワールドカップ南アフリカ大会を境にMF香川真司(セレッソ大阪→ボルシア・ドルトムント)、DF内田篤人(鹿島アントラーズ→シャルケ)、DF長友佑都(FC東京→チェゼーナ)らがヨーロッパへ挑戦の場を移した。

 しかし、わずか半年の間にこれだけの数の選手が海外移籍したケースはない。日本サッカー界に生まれた新たな潮流が、一気に活況を呈するに至った背景をさかのぼっていくと、2017年5月下旬から韓国で開催されたFIFA・U-20ワールドカップに行き着く。

U-20 W杯やJリーグ配信がきっかけに
活躍した選手が海外の目に留まる

 20歳以下のホープたちの「国際見本市」を長く担ってきたヒノキ舞台に、若き日本代表は5大会、実に10年間もの空白時間を乗り越えて出場。グループリーグを突破し、決勝トーナメント1回戦で惜敗したものの、準優勝したベネズエラ代表と延長戦にもつれ込む熱戦を演じている。

 そして、大会を通じて活躍したMF堂安律が、ガンバ大阪からFCフローニンゲン(オランダ)へ期限付き移籍し、2017-18シーズンの終盤には完全移籍に切り替えられた。最終ラインを担った冨安健洋も、大会から約8ヵ月後の昨年1月にアビスパ福岡からシントトロイデンへ移籍した。

 現役時代は日本代表の点取り屋として活躍したJリーグの原博実副理事長は、日本がU-20ワールドカップの舞台に戻ったことで生まれた流れをこう語ったことがある。

「そうした世界大会で活躍した選手に海外から声がかかる、という流れは実際にあると思います」

 冒頭で名前を挙げた選手の中では、久保建英と板倉滉、中山雄太も韓国大会に出場している。今年5月下旬からポーランドで開催されたU-20ワールドカップでも日本はベスト16に進出し、代表に選出された選手の中から菅原由勢と中村敬斗がさっそく海を渡っている。

 育成年代から優秀な選手が輩出されている、という評価がヨーロッパの目をJリーグへ向けさせる契機となった。加えて、2017シーズンからJリーグの全試合がライブストリーミングサービスのDAZNで配信されていることも、Jリーガーが海外の目に留まるチャンスを大幅に増やした。

 その象徴が日本代表MF中島翔哉となるだろう。2017年8月にFC東京からポルティモネンセへ加わるや大ブレーク。移籍市場で頻繁に名前が報じられる存在となり、今年1月に3500万ユーロ(約42億円)という巨額な契約解除金でアル・ドゥハイルSC(カタール)へ移籍した。

 今夏にはポルトガルの名門FCポルトに移籍した中島を巡っては、表現は悪くなるかもしれないが、ポルティモネンセは先行投資に成功して大きな利益を得たことになる。実際、ヨーロッパサッカー界においては投資的な意味合いで、世界中から若手選手を獲得する傾向が生まれて久しい。

 Jリーグもいわゆる「青田買い」の対象に加わったことなる。実際、ヨーロッパのなかでもセカンドグループに属するポルトガルやオランダ、ベルギーなどのクラブをステップにして羽ばたいていく選手は多い。クラブ側も育てた後に高く売れると見込んで、将来性のある若手を獲得する。

 現時点で22歳以下となる東京オリンピック世代が、続々と海を渡っている理由がここにある。前出の原副理事長も「ポルトガルやオランダ、ベルギーなどは地理的にも同じヨーロッパなので、さまざまなクラブから見てもらえる機会がより増える」と各クラブの思惑を分析している。

 ポルティモネンセの場合はかつて浦和レッズで活躍し、現在はテクニカルディレクターを務めるロブソン・ポンテ氏が頻繁に来日。JリーグMVPも獲得した現役時代に培った人脈を生かしながらJリーグの試合を視察し、隠れた逸材やダイヤの原石を探している。

 昨シーズンは6人もの日本人選手が在籍したシントトロイデンは、2017年11月に日本のDMMグループが経営権を取得。FC東京で強化部長やGMを歴任した立石敬之CEOのもとで最初に獲得した冨安健洋は、今夏にセリエAのボローニャへステップアップを果たした。シントトロイデンへ支払われた契約解除金は800万ユーロ(約9億6000万円)とされている。

 ポルティモネンセやシントトロイデンに続け、とばかりにセカンドグループに属する国のクラブがこぞってJリーガーを獲得している。海外へ行くことが目的ではなく、海外でいかに試合に出て成長していけるかという点を重視すれば、Jリーガーたちにとってもベターな選択となるだろう。

Jクラブの契約解除金の安さも
選手の海外移籍を後押し

 そして、海外移籍ラッシュを後押ししている背景の1つとして、Jクラブが設定している契約解除金が国際的に著しく低くなっている点も無視できない。例えば安部裕葵の移籍ではバルセロナからアントラーズへ、満額設定を上回る110万ユーロ(約1億3000万円)の契約解除金が支払われる。

 翻って安部がバルセロナから他のクラブへ移籍する場合の契約解除金は、バルセロナのBチーム在籍中は4000万ユーロ(約48億2500万円)、トップチームに昇格している場合には最大で1億ユーロ(約120億6000万円)と、桁違いの金額がそれぞれ設定されている。

 原副理事長も「Jクラブとしても優秀な若手選手を育てて、海外のクラブから声をかけられ、移籍で得たお金を再び育成へ回していくサイクルは決して悪くない」と指摘する。そうした観点で見れば、契約解除金に関しては残念ながら育成段階における投資に見合っているとは言い難い。

 もっとも、アントラーズの場合は選手と複数年契約を結んでいる場合が多く、金額の多寡はともかくとして、契約解除金がしっかりと発生している。対照的に例えば久保は本人の強い意向もあり、18歳になった今年6月4日で契約が満了しているため、FC東京に契約解除金は支払われない。

 契約解除金の額は、Jクラブだけで設定できるものではない。日本サッカー界に対する世界からの評価も影響を与えるし、一方で各選手が契約している代理人の意向も反映されてくる。しかし、例えば後者で選手が移籍しやすいように低く設定されているのならば、本末転倒になるのではないだろうか。

 UAE(アラブ首長国連邦)で1月に開催されたアジアカップ決勝で、森保ジャパンの先発メンバー全員が日本の歴史上で初めて海外組となった。もっとさかのぼれば、昨夏のワールドカップ・ロシア大会で魅せた大健闘で、世界が日本サッカー界を見る目もさらに変わった。

 Jリーガーが海外へ視線を向ける流れは、さらに加速されるだろう。今夏の移籍市場はまだ開いているため、新たな移籍も成立するかもしれない。世界の潮流に追いつくためにも、ビジネスの源になる契約解除金の設定を含めて、お互いにウィンウィンの関係になる体制を構築していくことが急務となる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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