このページの本文へ

東京五輪450万円ツアーを吟味してわかった、組織委の「ダフ屋化」

2019年07月28日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
東京五輪公式ツアー
建設中のオリンピックスタジアム。東京五輪公式ツアーは、庶民が申し込みたくとも申し込めない価格設定のものばかりです Photo:PIXTA

 今週、東京五輪2020のパートナー企業である旅行代理店各社から、オリンピック公式観戦ツアーの概要が発表された。いずれも一定の受付期間を経て、抽選で当選者が決まるシステムだ。

 観戦チケットが第1次抽選販売で当たらなかった人、当たったけれど本命のチケットは入手できなかった人にとって、ツアーとセットで入場券が手に入る旅行商品は期待の的になっていた。が、発表されたツアーの内容や代金を見て、期待はしぼみ、サーッと、熱が冷めて打ちひしがれた人が多いのではないだろうか?

誰が行くんだ、これ!
JTBの目玉は450万円ツアー

 JTBの目玉は、「18泊19日、京王プラザホテルのスイート2名1室利用、お1人様450万円」。

「よ、よんひゃく50万円! 誰が行くんだ、これ!」と、突っ込みを入れつつ、サーッと腰が引けた人が日本中に大勢いただろう。開会式A席(30万円)、閉会式A席(22万円)がセットになっている。連日1種目ずつのプログラム。柔道、体操、ソフトボール、水泳、バドミントン、陸上、卓球、バレーボール、サッカー、野球、新体操……。そのラインナップを見れば、「そりゃ、お金があれば行きたいさ」と、空しく呟く以外に手がない。そして、心の中にぽっかり穴があく。

「東京オリンピックで国民に希望を与える、日本を元気にする」

 そんなメッセージが空しく響く。そうか、東京五輪2020は、「さあ皆さん、お金持ちしか幸せになれません。人生を謳歌したければ、ウソをついても何をしても、お金持ちになることです」という現実を思い知らせるためのイベントなのか、と私は思ってしまった。

 そもそも、450万円を余裕で払えるリッチな人が、他人が決めたスケジュールを従順に受け入れ、19日間も忠実に従う謙虚さと律儀さを持っているだろうかと、ふと考える。

 頭に浮かんだのは、サッカーW杯ロシア大会、先ごろのウィンブルドン・テニスのスタンドでも目撃された有名な日本人実業家とタレントのカップル。仮に彼らが購入したら、きっとホテルにはずっと泊まらないだろう。

 そうなれば、ホテルは無駄に空いてしまう。競技も、興味のない数種目はパスするかもしれない。その分は、旅行代理店がリセールサイトに出すのだろうか?など、余計なことを想像してしまう。だが、前向きに考えれば、そこから流れる余剰チケットをゲットする可能性が生まれる、と庶民は夢を持てるわけだ。

前半は怒涛のメダルラッシュ必至
高額ツアーの価値ありの内容に

 気を取り直して、450万円ツアーの内容を吟味してみよう。

 開会式の翌日は柔道。男子60キロ級と女子48キロ級。いきなり金メダルとの遭遇も期待される。翌3日目も柔道。男子66キロ級と女子52級。連日のメダルラッシュでいきなり気分高揚の期待大。そして4日目の体操は男子団体決勝。内村航平がケガから復調してくれれば「体操ニッポンがまたメインポールに日の丸を!」の期待が膨らむ。

 その後も、ソフトボール(3位決定戦)、体操(個人総合決勝)、水泳(男子200m平泳ぎ決勝、100m自由形決勝、女子200mバタフライ決勝など)、バドミントン(混合ダブルス決勝、女子シングルス準々決勝)、陸上(女子100m決勝など)、陸上(男子100m決勝など)、バドミントン(男子シングル決勝)と、怒涛のメダルラッシュ、あるいは日本選手だけでなく世界のトップレベルを堪能できるプログラムが10日間ずらりと並ぶ。

 高額ツアーの価値ありとうならざるをえない。だが不思議なことに、後半に入った11日目から13日目は決勝以外のプログラムが組まれている。終盤に備えての休養の意図だろうか。そしてラスト3日間はまた、サッカー女子決勝、野球決勝、新体操女子団体決勝、閉会式となだれ込む。東京五輪2020をほぼ満喫できるといっていい内容ではあるだろう。

 これを見ていたら、スポーツライターであるならば、このツアーに申し込むのが当然ではないかとさえ思えてくる。そしてスポーツライターなら、1日1種目という比較的余裕のあるスケジュールというメリットを生かし、午前や午後、ツアーの日程が自由な時間帯には他の競技も見に行くだろう。例えば、レスリング、アーチェリー、テニス、水球、そしてアーバンスポーツ系のBMXやスポーツ・クライミング、スケートボードなどは入っていないから、自分で見に行きたい。

近畿日本の『制覇ツアー』は
応援というより研修?

 もう1つ、近畿日本ツーリストが発表した『制覇ツアー』がある。「全競技観戦を制覇!競技観戦コンプリートコース17日間」というもので、宿泊は銀座キャピタルホテルだ。

 7月24日にホテル集合。開会式はホテルのテレビで見る形(笑)。25日から連日、2種目か3種目の観戦スケジュールが組まれている。7月25日は、海の森水上競技場のボートに始まり、世田谷・馬事公苑に移動して馬場馬術。26日は有明アーバンスポーツパークのスケートボード(ストリート)からカヌー・スラロームセンターに移動してカヌーのスラローム、さらには東京アクアティクスセンターで競泳を見て帰る。同じエリアだから移動距離は少ないが、炎天下の観戦は猛暑になればきついだろう。

 このツアーは前半、あまりメダルの決定に遭遇しない。どちらかといえば応援というより、研修ツアー。「すべての競技を見学し、基本を学ぶ」といった印象を受ける。後半になると、陸上男子100m決勝、BMX男女フリースタイルパーク決勝、レスリング女子57キロ級決勝、男子サッカー決勝など、がぜん応援モードがシフトアップする。

 前半でいかに体力を温存、あるいは厳しい観戦態勢に順化させて最後まで駆け抜けるかという設定に見える。これで180万円は、450万円を先に見ているからリーズナブルに感じるが、本当にそうかどうかは分析が必要だ。

 この他にも、6泊7日タイプ、2泊3日タイプ、横浜エリアに絞ったコース、BMXやスケートボード、スポーツ・クライミングなどに特化したコースなども発表されている。私は高額な目玉ツアーより、これら短期でテーマを絞ったツアーを選ぶ方が現実的だと思う。

450万円ツアーを計算すると
チケット代はたった133万円!

 さて、改めて450万円のツアーだが、計算してみると、ツアーに含まれるのは18種目と開会式、閉会式。ほとんど最高値のA席だが、ソフトボールなど3日だけはB席となっている。手元の計算が間違っていなければ、チケット代の合計は133万4800円。あれ?ツアー代金はそれより約316万円以上も高い!これが宿泊費や移動交通費など?

 いくらなんでも、パートナー企業が独自枠で入手できる入場券の付加価値に値段を乗せすぎていないか?

 東京五輪組織委員会は、チケットの不正転売を厳しく禁じている。それを国家的に断行するため、略称『チケット不正転売禁止法』が6月14日に施行された。来年公開が予定されている、不要になったチケットのリセールサイトでも「定価で売買される」という。

 いわゆるダフ屋の暗躍を阻止し、また近年では当たり前になっているネット・オークションでいたずらに価格が高騰し、善良な国民や海外からの訪問客が被害を受けないようにとの意図だと一般には理解されている。

 しかし、チケットの価格を巧妙に吊り上げているのは、組織委員会とパートナー企業の方じゃないかと感じてしまう。

 入場券が売り出され、ツアーが発表され、東京五輪組織委員会の一般の国民からはかけ離れた金銭感覚が明らかになった。彼らの視線が向いているのは多くの国民の方でなく、一部の富裕層やパートナー企業。そして、自分たちの懐にザックザックと運営費を回収するための収益が飛び込んでくる方策しか頭にないのではないかという実感が増してくるのは私だけだろうか。

(作家・スポーツライター 小林信也)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ