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吉本興業の社長会見で露呈、閉鎖的組織の「王様」の時代錯誤

2019年07月23日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,岡田 悟(ダイヤモンド・オンライン

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吉本興業の岡本昭彦社長
涙をぬぐいながら釈明を続ける吉本興業の岡本昭彦社長 Photo:JIJI

「お前ら、連帯責任で全員クビにするからな」――。反社会的勢力から金銭を受け取った所属芸人に対し、こんな反社も真っ青なセリフを言い放ったのは、吉本興業の岡本昭彦社長だ。記者会見で釈明に追われたが、芸能事務所に対して不利な立場に置かれた芸人たちへの同情と擁護の声は根強い。圧倒的な力関係の元に反発を抑え込む手法に社会のメスが入りつつある。 (ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

「全員クビ」発言は「身内の感覚」と主張

 世間の批判など歯牙にもかけなかった業界の“王者”とも言える大企業が、失墜する様をまざまざと見せつけた。

 吉本興業所属のお笑い芸人である宮迫博之さん、田村亮さんらが、特殊詐欺の犯行グループのイベントに出席し、金銭を受け取った問題。芸人たちに「記者会見をするなら勝手にやれ。連帯責任で全員クビにする」と告げたと暴露された同社の岡本昭彦社長が22日、都内で記者会見した。

 この発言に対する岡本社長の釈明は、「父親が息子に『勘当だ』と言うような身内の感覚だった」という全く支離滅裂なものだった。

 また会見の冒頭では、宮迫さんと田村さんへの処分の“撤回”を発表した。その理由について「宮迫君と田村君が、自分らしく才能を発揮できる環境ではなかった。信頼関係が揺らいでいることに責任を感じる」などと述べたところで嗚咽し、ハンカチで涙をぬぐい、約30秒間沈黙。そして、明石家さんまさんや松本人志さんの他、大阪で活動しているベテランの芸人たちからも、宮迫さんらを擁護する声が岡本社長に寄せられたことなどを明かした。

 処分撤回の理由については何度も質問が相次いだが、「ああいう記者会見を(宮迫さんと田村さんに)させてしまった」などと述べるばかりで、明確な答えはなかった。

 宮迫さんらは相手の素性を知らなかったとはいえ、反社会的勢力から金銭を受け取った事実を認めている。しかも、問題の発覚当初は他の芸人と口裏を合わせ、受け取っていなかったと会社に伝えていたとさえ20日の記者会見で認めている。

 その反面、彼らが明らかにした吉本トップのあまりに“コワモテ”な言動に社会の批判が集中したために22日の岡本社長の記者会見につながったわけだが、これでは、いわゆる“世間”の風向きを見て処分を撤回した、と見られても致し方ないであろう。

 かつての芸能界の一部では、暴力団が強い影響力を持っていたことは周知の事実だ。近年、こうした勢力は正体をなるべく隠し、巧妙に有名タレントらに近づくとされ、その存在を排除することは容易ではないとされる。

 だが、吉本は今や首相官邸にまで芸人を送り込んでギャグを披露させるほどの社会的影響力を誇る企業となった。こうしたつながりは許されるものではない。

 一方で、処分を受けた芸人たちに対し“身内の感覚”で「連帯責任で全員クビにするからな」などとトップが言い放つ企業もまた、社会の常識の範疇をはるかに超えている。反社も真っ青なガバナンス体制で成り立つ吉本の経営体制に、青ざめた視聴者もさぞ多いことだろう。

 こうした吉本経営陣の姿勢に対し、吉本所属の加藤浩次さんや近藤春菜さんら他の芸人が、生放送の情報番組で厳しい批判を始めた。ツイッターなどのSNSで批判を展開する所属芸人も続々と現れている。

 日本のいわゆる芸能界では、吉本などの「芸能プロダクション」や「芸能事務所」と呼ばれる企業が、俳優やお笑い芸人などのタレントをスカウトして育てるケースが多い。タレントは個人事業主として事務所と契約を結び、事務所はタレントのスケジュール管理やメディアへの出演交渉など「マネジメント」を手掛ける。

 いきおい、交渉力のある有力事務所は、メディアとタレントの双方に対して強い権限を持つことが多く、出演の可否を握られるタレントたちは、一部の大物芸能人を除けば事務所より弱い立場にあるとされてきた。そんなタレントたちが公然と事務所を批判し始めたのは、従来見られなかったものである。

不祥事に共通する「コミュニケーション不足」の言い訳

 圧力をかけられた“弱者”が声を上げる現象は、今回の吉本に限ったことではない。そして不祥事を追及されたトップに共通するのは、「コミュニケーションが不足していた」「意思疎通が十分でなかった」という言い訳だ。

 例えば昨年注目を集めた日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題。危険なタックルをした学生への指導を追及された当時のアメフト部監督は、「コミュニケーション不足があった」と釈明した。

 また、4000件近い不適切物件の存在が6月に発覚した大和ハウス工業では、国の認定制度を守らせる社内制度が不十分だった点について、「コミュニケーション不足」が一因にあったと外部調査委員会の報告書で指摘されている。

 そして、今年注目を集めたコンビニエンスストアの加盟店をめぐる問題。24時間営業の事実上の強制や、加盟店側に不利な契約、売れ残った食品の廃棄費用の負担…。加盟店とのトラブルが起きるたびに、業界最大手のセブンーイレブン・ジャパンの首脳陣は「加盟店との意思疎通が十分でなかった」「コミュニケーションが不足していた」と繰り返してきた。

 この「意思疎通」「コミュニケーション」の2つのワードこそ、まさに吉本の岡本社長が22日の記者会見で、宮迫さんらとの処分や契約解消をめぐるやり取りについて釈明した際に用いたワードだった。

 タレントの多くは、大手事務所に所属しなければ事実上、タレント活動ができない。いくら宮迫さんら芸人側に非があるとはいえ、追い込まれた立場の芸人たちに事務所のトップが「連帯責任でクビにする」などと口走ることは、コミュニケーション以前の問題である。

 事務所側と所属芸人の力関係をあらわにした岡本社長が、自らの言動を「意思疎通」「コミュニケーション」の問題にすり替えることは、不祥事を起こし、力関係を同様にすり替えてきたトップの言動に似る。

 もちろん、反社から金銭を受け取ったお笑い芸人は、不公平な契約に耐えかねたコンビニ加盟店とは事情が異なる。7月21日に生放送されたフジテレビの情報番組「ワイドナショー」で、司会の松本さんが、一連の問題に関して吉本の経営陣の対応を批判し、岡本社長に直談判して22日の記者会見の開催を求めた行動を称賛する向きもある。

 だが、いくら吉本経営陣の対応に問題があったとはいえ、芸人が反社から金銭を受け取ったこと自体が帳消しになるわけではない。ましてや宮迫さんや田村さんは、年齢が50歳に近く長いキャリアを持つ超売れっ子だ。

 それでも、SNSが発達した現在、組織に対して個人が声を上げることへの共感は広がっている。大企業にせよ有力芸能事務所にせよ、閉鎖的な環境で“王者”のごとく振る舞ってきた企業は、そうした戦略の再考を迫られている。

 国も、こうした動きを無視できない。経済産業省や公正取引委員会は、コンビニ本部の加盟店に対する姿勢や契約内容について、改善に向けて動き出した。また公取は、国民的男性アイドルグループを擁するジャニーズ事務所に対しても、民放テレビ局にタレント出演をめぐって圧力があったとして注意を行った。業界を問わず“昔ながら”の常識は通用しなくなりつつある。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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