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京アニ放火で33人死亡、なぜ犠牲は甚大に広がってしまったのか

2019年07月19日 11時25分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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放火事件があったアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオ=18日午後、京都市伏見区
放火事件があったアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオ=18日午後、京都市伏見区 Photo:JIJI

18日午前、京都市伏見区のアニメ制作会社のスタジオに男が放火し、33人が死亡、35人が負傷する大惨事となった。男は「死ね」と叫びながら侵入してガソリンをまき、多目的ライターで火を付けたとみられる。現場近くからはハンマーや庖丁なども見つかった。警察庁によると、平成以降の放火殺人事件としては最悪の犠牲者数。男の目的は何だったのか。男もやけどを負い容体は重いというが、京都府警による動機の解明が待たれる。また犠牲者がこれほど増えてしまった原因はなにか。京都府警は19日午前、現場検証を開始した。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

免許証の住所は埼玉

 事件が起きたのは18日午前10時半ごろ。京都市伏見区桃山町因幡にあるアニメ制作会社「京都アニメーション」(本社・京都府宇治市、通称・京アニ)の第1スタジオにさいたま市の男(41)が侵入。バケツからガソリンをまいて、火を付けたとされる。

 当時、スタジオには社員70人前後がいた。35人が重軽傷を負って搬送され、1階で2人、2階で11人、2階から3階の階段で1人、3階から屋上に向かう階段で19人が遺体で見つかった。

 スタジオは3階建てで、1階が事務所、2階と3階がアニメ制作のフロアになっていた。西側の階段と中央部にらせん階段があり、アニメーター同士がやりとりしやすいよう、壁のない構造だった。

 犠牲者の多くが3階から屋上にかけての階段で折り重なるように倒れていたが、火災の発生が1階で下りられず、逃げ場を失って力尽きたとみられる。屋上に出るためのドアは閉まったままで、何らかの理由で開けることができなかったようだ。

 男は放火した後、逃走。スタジオから100メートルほど離れた一般住宅のインターホンを押し、住人の女性が玄関に出ると男が倒れていたという。Tシャツにジーンズ姿で靴は履いておらず、足は血まみれ。髪は焦げ、顔にはすすが付いていた。両腕は重いやけどで皮がむけ、服には火種がくすぶっていた。

 女性は救急車を要請したが、それより先に警察官が男を取り囲んだ。「何でそんなことをしたんや」。男は無表情で「パクりやがって」と答えた。ほかにも息も絶え絶えの状態ながら「チャッカマンで火を付けた」などと話したが、その後、警察官が連行。その際には「小説が盗まれた」と話したともされる。

 全国紙デスクによると、この「パクりやがって」は一時、解釈を巡っていろいろと錯綜した。「小説を盗んだ」の発言が警察から発表されず「逮捕した」「盗用した」のどちらの意味なのか判然としなかったためだ。

 前述の女性によると、何か世の中を呪うような物言いで、京アニについても恨んでいるような口ぶりだったらしい。

京アニには数年前からクレームや脅迫も

 事件があった18日、京アニの八田英明社長が報道陣の取材に応じた。各社の報道によると、数年前から会社に作品や制作者に対するクレームや危害を加えるといった内容の脅迫があり、弁護士を通じて対応したり、警察に相談したりすることもあったという。

 前述のデスクは「遊軍記者がそれらしいサイトなどを検索しているが、ネットは虚実ないまぜの世界。訳の分からない書き込みや、犯行予告みたいなものもあるが、いずれも無関係でしょう」。

 京都府警は男が所持していた免許証から身元を確認しているが、数年前まで元受刑者や執行猶予判決を受けた被告のための更生保護施設に入所していた。精神疾患による通院歴もあったとの情報がある。

 男は重度のやけどで治療を受けており、京都府警は回復次第、放火殺人と同未遂の容疑で聴取する方針だ。しかし常軌を逸した行動だけに、動機そのものも意味不明な「妄想」だった場合、刑事責任を問えるか困難な可能性さえ浮上してきた。

「ガソリン放火」は強固な殺意、一般的な消火設備・用具は役に立たない

 京アニは1981年創業で、主にテレビや映画の作品を手掛けている。東京一極集中の業界で、地方から作品を発信するユニークな存在としても知られる。2006年に「涼宮ハルヒの憂鬱」、07年に「らき☆すた」、09年に「けいおん!」が立て続けに大ヒット。

 若者のリアルな日常を描き、実写のような背景など高い技術はアニメファンに「京アニクオリティー」と評価される。実在する場所を舞台にした作品も多く、ファンがそうした場所を訪ね歩く「聖地巡礼」はブームとなった。

 それだけに、アニメファンからSNSに「1人でも多くの人が助かりますように」などの祈りや、犠牲者を追悼する投稿が相次いだ。海外メディアも「世界のファンに衝撃」と速報した。

 こうした世界に愛されたアニメ制作現場だが、ガソリンを使った放火は威力が大きく、強固な殺意があった可能性が高いとみられる。

 というのは、気化したガソリンに引火すれば炎は爆発的に燃え上がり、手が付けられない状態になる。一般的に普及している消火設備・用具は、そもそもガソリンに引火した火災を想定しておらず、まず対処できない。

 京アニのスタジオはスプリンクラーの設置義務の対象外で設置されていなかったが、消防関係者によると、スプリンクラーや消火栓、消火器などはガソリン火災に対しては何の役にも立たないという。

 70年代の学生運動などでは、ガソリンをガラス製の瓶に詰め、布などで栓をして火を付け、相手めがけて投げ付ける「火炎瓶」が使われた。シンプルで身近な物で作ることが可能だが、威力からすれば、これは立派な「簡易兵器」といえる。

 今回の火災も「ボン」「バン」などの激しい爆発音が何度も響き、猛烈な黒煙がスタジオを包み込んでいた。前述の消防関係者は「一気に燃え広がったのだろう。犠牲者はあの煙で視界を奪われた上、一瞬で酸素欠乏になり意識を失ったか、気道熱傷を負ったに違いない」と話す。

過去には「武富士弘前支店」強盗放火殺人事件

 ガソリンを使った事件では、01年5月に青森県弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」で起きた強盗放火殺人事件が有名だ。男がガソリン95%の混合油約4リットルをまいて現金を要求。断られたため火を放ち、引火した炎は約3秒で一気に燃え広がった。従業員5人が犠牲となり、4人が負傷した。

 09年7月には、大阪市此花区のパチンコ店で男が床にバケツでガソリンをまき放火。客ら5人が死亡、10人が重軽傷を負った。15年6月には東海道新幹線の車内で男がライターでガソリンに着火して焼身自殺し、乗客の女性も巻き添えで気道熱傷により窒息死したほか、30人が負傷した。

 いずれもあっという間の出来事だったとされる。

 好きなアニメーション制作に取り組んでいたアニメーターたちは、まさかスタジオにガソリンで放火されるとは夢にも思っていなかっただろう。残念ながら犠牲となってしまった33人を追悼し、負傷者の一刻も早い回復を祈りたい。

 そして、京都府警にはこの男の背景に何があったのかをつまびらかにすべく、徹底した捜査をお願いしたい。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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