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森保ジャパンの親善試合が国内でしか開催できない意外な事情

2019年07月14日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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日本代表,エルサルバドル戦
6月9日に行われた国際親善試合・日本-エルサルバドルも、日本国内のひとめぼれスタジアム宮城で行われた Photo:JIJI

2022年のワールドカップ・カタール大会を目指し、森保ジャパンが発足してまもなく1年になる。準優勝したアジアカップをUAE(アラブ首長国連邦)で、グループリーグで敗退したコパ・アメリカをブラジルで戦った一方、現時点で「10」を数える国際親善試合はすべて日本国内で組まれている。新たに決まった9月と11月の国際親善試合も、ともに国内での開催となった。海外の厳しい環境下でプレーしてこそ真の強化につながる、という図式を理解していても実現に至らない舞台裏には何があるのか。対戦国にヨーロッパ勢が含まれていない事情を含めて追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

直近1年の「国際親善試合」は
すべて日本で開催、対戦相手に偏り

 また日本国内での開催か。なぜ海外で強化を図らないのか――。

 日本サッカー協会(JFA)から今月上旬に発表された、森保ジャパンの9月以降の一部日程に対して、こんな思いとともに懐疑の視線が向けられている。

 森保一監督に率いられる日本代表は、活動予定がない7月と8月を経て、9月5日にカシマサッカースタジアムで、11月19日にはパナソニックスタジアム吹田で、対戦相手未定の状況でそれぞれ国際親善試合を行うことが決まった。

 昨夏のワールドカップ・ロシア大会後に、西野朗前監督から森保監督にバトンが託されて、まもなく1年になる。この間、マッチメークされた国際親善試合は「10」を数えるが、新たに決まった9月と11月の2試合を含めて、実はすべてが日本国内での開催となっている。

 整備された美しいピッチの上で、スタンドを埋め尽くした大歓声を背に受けながらプレーできる。一方で対戦相手は日本への長旅による疲れと時差による影響で、実力を出し切れないことも多い。こうした理由から、条件が逆になる海外での国際親善試合の方がチームの強化にかなう。

 関係者だけでなく代表選手たちからも長く指摘されてきた図式を、マッチメークを担うJFAの技術委員会も理解している。それでもなかなか実現に至らない事情が存在してきた中で、昨年9月以降は国内開催の比率と対戦相手の偏りがより顕著になった。

 北海道胆振東部地震の影響で中止となった昨年9月7日のチリ代表戦を含めて、森保ジャパンの対戦相手は南米勢が5、北中米カリブ海勢が4、アジア勢が1となっている。理由は追って記すが、9月と11月の対戦相手も高い確率でアジア勢となるだろう。

 ここまでを見ても分かるように、世界をリードするヨーロッパ勢と対戦していない。しかも現時点までの現象ではなく、今後も2022年のワールドカップ・カタール大会の直前まで対戦できない可能性が高い。国際親善試合を巡る事情が、急変してしまった理由は何なのか。

選手の負担を軽減するために
FIFAが定めた「ある制約」

 舞台裏を解き明かしていく前に、代表チームに関する世界共通のルールを説明しておきたい。国際サッカー連盟(FIFA)は年間で5度の国際Aマッチデーを設定していて、この期間内ならば各国サッカー協会は国内外のクラブに所属する選手を招集できる権利を持つ。

 例えば2019年の国際Aマッチデーは3月18-26日、6月3-11日、9月2-10日、10月7-15日、そして11月11-19日で、それぞれで国際Aマッチを最大2試合組むことができる。

 もっとも、国際Aマッチの開催には「ある制約」が設けられている。選手たちにかかる過度の負担を軽減するためにFIFAは2014年に規約を改定し、ひとつの国際Aマッチデーで国際Aマッチを連続して行う場合は、同一大陸内で開催することが義務づけられた。

 FIFAが区分している大陸はヨーロッパを筆頭に南米、北中米カリブ海、アフリカ、オセアニア、そしてアジアの「6」となる。例えばある国際マッチデーで、ヨーロッパ大陸とアジア大陸とで1試合ずつマッチメークすることは、現状では不可能になる。

 しかも、アジア大陸では2022年のワールドカップ・カタール大会出場をかけた、アジア2次予選が9月から始まる。形式は5ヵ国ずつ8つのグループに分かれて、ホーム&アウェイ方式で9月、10月、11月、そして来年3月、6月と5回の国際Aマッチデーで1ヵ国あたり8試合を戦う。

 5回の国際Aマッチデーで最大10試合を組めるので、予選の合間に国際親善試合を2つ入れ込むことができる。対戦相手は今月17日の抽選会で決まるが、2次予選の大まかな日程はすでに割り当てられている。ゆえにJFAは予選が1試合だけとなる9月と11月の国際Aマッチデーで、国際親善試合もアジアの中、それも日本国内で開催することを選択。前述の日程とスタジアムを確保した。

 対戦相手にも同じことが言えて、日本国内で国際親善試合に臨めば、国際Aマッチデー内のもう1試合もアジアで戦わなければならない。こうした事情もあって、アジア2次予選を戦う他のグループの国とマッチメークすることが理にかなってくる。

 アジア以外の国と国際親善試合を組むには、例えば移動距離の少ない隣国・韓国と協力して、襷掛けの形でマッチメークする形がよく取られる。今年3月を例に取れば22日に日本対コロンビアと韓国対ボリビアが、26日には日本対ボリビアと韓国対コロンビアがそれぞれ組まれている。

 つまり、こうした形を取れば、対戦相手もFIFAの規約に抵触することなくマッチメークできる。ただ、こうした図式の中でヨーロッパ勢とマッチメークすることは難しい。正確に言えば昨年9月を境に、ヨーロッパ勢とマッチメークすることがほとんど不可能になった。

ヨーロッパ勢との親善試合が
難しくなった事情とは?

 理由はヨーロッパサッカー連盟(UEFA)が独自に創設した国際大会、UEFAネーションリーグにある。UEFAに加盟する全55チームをAからDまでの4つのディビジョンに分け、さらにそれぞれのディビジョンを4つのグループに分けて、ホーム&アウェイ方式のリーグ戦を実施する。

 ネーションリーグを新設した最大の目的は、実力が均衡したディビジョンに分けて真剣勝負の機会を増やすことで、各代表チームの実力アップを図ることにある。例えば最高峰のディビジョンAの顔ぶれは、ワールドカップでもなかなか対戦が見られない豪華絢爛なものになっている。

【グループ1】フランス、ドイツ、オランダ
【グループ2】スイス、ベルギー、アイスランド
【グループ3】ポルトガル、ポーランド、イタリア
【グループ4】スペイン、イングランド、クロアチア

 グループリーグは昨年9月、10月、11月の国際Aマッチデーで開催され、オランダ、スイス、ポルトガル、イングランドが1位で突破。今年6月にはトーナメント形式の決勝ラウンドが開催され、決勝戦でオランダを1-0で下したポルトガルが初代王者に輝いている。

 UEFAのミシェル・プラティニ前会長は、公式戦となるネーションズリーグを発案した理由を、ヨーロッパサッカー界に関わるすべての関係者の思いを代弁する形でこう唱えていた。

「国際親善試合にはもはや誰も興味を示さず、何の意味ももたない」

 以前は2月と8月にも国際Aマッチデーが設定されていたが、選手へかかる負担を軽減する目的で2013年いっぱいで廃止された。その上でUEFAは移動距離の少ないヨーロッパ大陸内だけで、独自の強化策となるネーションズリーグを開催する道を選んだ。

 ただ、ディビジョンAは3ヵ国によるリーグ戦のため、国際Aマッチデー内でグループリーグを戦わない国が必ず出てくる。そして、FIFAの規約が存在する以上は、必然的にヨーロッパ勢同士の国際親善試合を組むか、他大陸の強豪国を自国に招く形になる。

 ここで日本に白羽の矢が立てられれば、関係者やファン・サポーターが待ち焦がれる敵地での国際親善試合が実現する。しかし、招く側も骨のある相手、強化に相応しい相手を希望するため、南米勢もしくは北中米カリブ海勢、あるいはアフリカ勢でFIFAランキングが高い国が優先される。

 昨年11月の国際Aマッチデーを例に取れば、当時のFIFAランキング25位のアメリカ代表が15日にロンドンでイングランド代表と、20日にはベルギーでイタリア代表と対戦している。ちなみに、当時の日本のFIFAランキングは50位。数字がすべてを物語るわけではないものの、それでもヨーロッパの地における連戦をマッチメークするためのハードルは一気に高くなった。

 ヨーロッパは今現在、4年に一度、ワールドカップの中間年に開催されるヨーロッパ選手権予選に突入している。そして、来夏のヨーロッパ選手権本大会を終えれば第2回ネーションズリーグ、2021年9月からはワールドカップ予選とヨーロッパ勢同士の対戦が続く。

入場料やテレビ放映権料…
国内開催によるメリットも

 サッカー界がヨーロッパを中心に回る以上、こうした流れは変わらないだろう。ならば、例えばサッカー王国ブラジルへ乗り込み、胸を借りることは可能なのか。答えは限りなく難しい、となる。圧倒的な知名度もあって、ブラジルは海外を回るように国際親善試合を組んでいるからだ。

 代表選手のほぼ全員がヨーロッパのクラブでプレーしていることもあり、自国開催だった今回のコパ・アメリカ直前の特別な時期を除けば、ブラジル国内での国際親善試合はほとんど組まれていない。昨年9月以降の国際Aマッチデーの対戦相手と開催地を見れば一目瞭然だ。

 ・9月7日  vsアメリカ代表@イーストラザフォード(アメリカ)
 ・9月11日 vsエルサルバドル代表@ランドバー(アメリカ)
 ・10月12日 vsサウジアラビア代表@リヤド(サウジアラビア)
 ・10月16日 vsアルゼンチン代表@ジッダ(サウジアラビア)
 ・11月16日 vsウルグアイ代表@ロンドン
 ・11月20日 vsカメルーン代表@ロンドン
 ・3月23日 vsパナマ代表@ポルト
 ・3月26日 vsチェコ代表@プラハ

 ホームで国際親善試合を開催する場合、渡航費や滞在中のホテル代を負担する以外に、対戦国のサッカー協会へギャランティーが支払われる。いわゆるファイトマネー的なもので、一般的に日本円で数億円に達する金額が、強豪国となるとさらにはね上がるといわれている。

 アメリカやサウジアラビアのように、ホームにブラジルを呼べる理由はヨーロッパから比較的近いという地の利に加えて、莫大なギャランティーを賄える潤沢な財政力も関係しているといっていい。ならば、ブラジルを日本へ呼べるのか。移動距離で負担を強いられる日本国内でブラジルとの国際親善試合が、1999年3月を最後に組まれていない状況を見れば、限りなく難しいといっていい。

 他の南米勢や北中米カリブ海へ遠征しようと望んでも、実力や集客力の面で難色を示される。むしろギャランティーが発生する点で、日本へ招いた方がスムーズに交渉が進むといっていい。国際親善試合が日本国内で、しかもヨーロッパ勢以外と組まれる舞台裏にはこうした事情がある。

 もちろん、ネガティブな要素だけが存在するわけではない。国内で開催される国際親善試合の入場料収入やテレビ放映権料などは、なでしこジャパンや男女の育成年代の強化費の財源になる。長い目で見れば日本サッカー界の進歩に大きく寄与していく、ポジティブな面も忘れてはいけない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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