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IR経営が難しい理由、一般的な法律や会計が通用しない未知の業態

2019年07月05日 06時00分更新

文● 松嶋千春(ダイヤモンド・オンライン

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カジノ産業と若者の関わりを探るシリーズ企画の第3弾は、世界的に見ても珍しいIR(統合型リゾート)について専門的に学べる修士向けのコースを持つ大阪商業大学。同大の経営革新専攻に設けられた特別教育研究コース「IRマネジメント」コースの開設の経緯や、在籍する社会人院生のエピソードを聞いた。(清談社 松嶋千春)

IR=カジノは間違い!
運営に必要な未知のノウハウとは

IR施設は、カジノのみならず、レストラン、ショッピングモールなどを含みます。
カジノを含むがゆえに、IR施設は、一般的な法律や会計の知識があるだけでは運営できない Photo:PIXTA

 そもそもIRとは、統合型リゾート(Integrated Resort)の略称で、国際会議場、ホテル、商業施設、レストラン、ショッピングモール、カジノなどが一体となった、複合型観光施設を指す。日本ではカジノばかりが前面に出ている印象を受けるが、カジノはあくまでもIRの一施設という位置づけだ。

 大阪商業大学大学院に「IRマネジメント」コースが開設されたのは、2015年4月のこと。学長の谷岡一郎氏は、本コース開設の経緯を次のように語る。

「当時、IR法案が俎上にのぼり、法案が通るのは時間の問題でした。そうした状況のなか、IRにおいていちばん人材が足りないのはマネージャークラス。海外のオペレーターと英語で意思疎通ができ、ちゃんと指示や交渉ができる各部門の責任者に相当するレベルの人材はなかなかいないのが実情です」(谷岡氏)

 IRの一部の施設にフォーカスするなら、カジノにおけるディーラー、レストランにおけるウエートレス、ホテルにおけるポーターといった職種は、日本にある既存・類似の施設から人材を引っ張ってきて育成することも可能だ。

 しかし、IRという統合型施設を全体で捉えた場合、それは今まで日本になかったまったく新しい産業となる。IRには我々が聞いたこともないような新しい職種が700~800種類ほど存在するという。たとえば会計ひとつとっても、カジノではさまざまなステップがある。信用貸しのようなクレジット発行をすることもよくあるのだが、どの段階でどのように処理するかは、日本で会計士や税理士の資格を持っていてもできるわけではないのだ。

「本コースでは、単一の職種に限定して学ぶのではなく、IRに関する全般的な知識を身につけたうえで幅を広げていく内容になっています。ラスベガスのネバダ州立大学と連携し、ギャンブル依存症やセキュリティーなどを座学と実地研修を通じて学ぶ留学プログラムも設けています」

「『MICE(国際会議や研修などのビジネストラベル)部門にいるからカジノやエンターテイメントを知らなくていい』ということはない。お客様はいろんな施設に足を運ぶため、各部門がどういう働きをしているのかをちゃんと把握していないと、橋渡し役となる各部門の長は務まりません」(谷岡氏)

国際イベント目白押しの大阪で
IRを学ぶ社会人院生

 大阪商業大学では、「一刻も早く中間管理職レベルの人材を育成しなければ」という一心でコースを開設し、初年度は7~8人が入学した。これまで、インフラ関連の職員や海外のIRで働く人物が履修し、ここでの学びを実務に生かしているという。

 2018年度よりコースに在籍している株式会社ヒト・コミュニケーションズの大森勇太さん(31)は、平日は会社で管理業務に従事しながら、土曜日の授業を受けている。

「人材サービス会社としてIR事業に携わることになったとき、IR全体のことを把握していれば、より実情に即した事業アウトソーシングの提案や、プロフェッショナルなスタッフの研修・育成に役立てることができます。そのような意図から、会社の代表として諸外国の法制度の事例やゲーミングの歴史、経営等を中心に学んでいます」(大森さん)

 また、大阪の地では立て続けに国際イベントの開催が予定されている。2019年6月のG20、2019年9月から始まるラグビーワールドカップ、2021年のワールドマスターズゲームズ。さらに、2022~2024年にかけて大きな事業開発計画も予定され、2025年には大阪万博も待ち受けている。

「大阪が勢いに乗っているこのタイミングで将来性のある知識を習得できるというのは、すごく貴重な機会だと感じています。現段階でも、ビジネスにおいて、ここでの学びが生きていますね」(大森さん)

カジノを含むIRは一般的な
法律や会計基準は通用しない

 2018年7月のIR法案可決が追い風となり志願者が殺到するかと思われたが、現在「IRマネジメント」コースに所属しているのは大森さん1名のみだ。

「社会人経験や英語能力などの条件が厳しかったためか、現状は芳しくないですね。本来、IR事業者や周辺産業に加え、地方自治体の人にも学びに来てほしいと考えていました。IRはカジノを含むがゆえに、一般的な法律や会計基準は通用しない。そこまで理解したうえで地方自治体の意思をIR事業者に伝えて協同して動かしていける人材が必要なのです」(谷岡氏)

 IRを独立した商業施設と捉えている限りは、地域における“異物”感は拭い切れないままだろう。大森さんも、IRと地域との関わりについて思いを巡らせる。

「IR産業を興すことの最大の目的は、地域活性化にあると考えています。たとえば、『ホテルの朝食で卵が5万個必要になりました』となったら、必ず近隣企業の協力が必要になりますよね。事業者や自治体が潤うことはもちろん、地元の企業も含めてWIN-WINのパートナーシップを築いていけるのが理想です」(大森さん)

 谷岡氏は、重ねてIRにおけるビジネスチャンスを示唆する。

「IRをビジネスチャンスとして認識していないケースがたくさんあります。たとえば、従業員の靴ひとつとってみても、何万足もの需要がある。そういったビジネスチャンスを洗い直すためにも、一般企業や社会人にはIRを学ぶということを視野に入れてもらいたいです。また、若い人には、新しい分野に思い切って飛び込んで挑戦する人が次世代のリーダーになるんだよ、ということを伝えたいですね」(谷岡氏)

 社会全体としてカジノ=ギャンブルとして忌避する動きがあるためか、日本国内でIRについて学べる場は限られている。学びの場が増えて横同士の連携が進めば、それだけ未来の担い手にとっても刺激となり、学びも深まるのではないだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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